【社内活性化の原点】経済のグローバル化と特許事務所のあるべき姿|お知らせ|オンダ国際特許事務所

【社内活性化の原点】経済のグローバル化と特許事務所のあるべき姿|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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【社内活性化の原点】経済のグローバル化と特許事務所のあるべき姿

(パテントメディア 2011年9月発行第92号より)
会長 弁理士 恩田博宣

1.はじめに

3月11の東日本大震災の被害はきわめて大規模なもので、日本の歴史上経験のないものでした。リーマンショックから少しずつ立ち上がりつつあった日本の景気もまた逆戻りといったところです。工場の日本からの逃避もますます加速されたように思われます。
一体、日本の経済はどうなってしまうのでしょうか。復興のための2次補正予算は20兆円になるとのことです。この財源はどこから捻出するのでしょう。増税では間に合いませんので、やはり国債発行ということになると、国民の持つ金融資産と、国の債務残高とが一段と均衡に近づくことになります。国債金利の高騰、円レートの急落が心配されます。
あるエコノミストは「20兆円を国内で消化することは危険である。日銀に引き受けさせることになります」と明言しました。もうそんな危険水域に来てしまっているのです。心配になります。

2.経済のグローバル化

企業が人件費の安い外国へ工場を移す傾向は顕著です。その反動として、日本の雇用は減少の一途をたどっています。それは給料の低下に繋がっています。
日本の企業が稼ぐ場所が国内か、海外かという指標が出ています。2002年に企業が国内市場で稼いだ額が55兆円、海外市場19兆円だったのです。それが2010年には国内市場38兆円、海外市場35兆円に変化しています。
日本の企業が稼ぐ場所は、国内市場がどんどん縮小し、海外市場が勢いよく拡大しているのです。この結果国内の雇用は恐ろしい勢いで減ってきています。
この傾向を見るとき、どうしても企業は海外展開をしなければ、生きていけないということになると考えざるを得ません。ますます工場の海外シフトが加速することとなります。
企業は生き残っても、日本国民の生活はどんどん低下していかざるをえないのではないでしょうか。

3.国内出願の大幅減少傾向

さて、我々の特許分野においては、特許出願件数の減少傾向に歯止めがかかりません。2002年公開分と2010年公開分を比較してみますと、特許出願件数は、41万件から32万件へと減少したのです。9万件の減少です。約25%の出願が消えてなくなっています。
1年に100件の特許出願を代理する特許事務所は、3700ある国内特許事務所のうち、約180位で、上位5%以内に入る優良事務所なのですが、その規模の事務所が900軒消えてなくなった勘定になるのです。
世界中の国の出願件数が減少傾向かといえば、近隣諸国はみな増加傾向です。ひとり日本のみが減少傾向なのです。
特許出願件数は、ある意味では日本の国力を示しています。それが日本のみ減少傾向が顕著では、日本のみの国力が弱くなって行くのですから、これまた恐ろしいことです。没落する日本のイメージを払拭することができません。

4.特許出願減少の原因

パテントメディア91号(2011.5月号)でこの点に言及しましたが、新たな観点も加え、今一度整理してみたいと思います。

(理由その1)経済のグローバル化
第一に日本が少子高齢化、人口減少で消費市場としての価値ないしは魅力が低減していること、そして経済がどんどんグローバル化しているため、世界に目を向けた知財管理が必要になったということだと考えます。
多くの企業において、「日本には重要発明に限って出願し、日本に出願した以上は、世界各国にも出願する」というポリシーが確立されています。すなわち、日本出願を減らして、外国出願を増やすという方向性の定着です。日本出願の減少する最も大きな理由だといえます。

(理由その2)出願抑制策
次に重要な理由としては、特許庁の「よく調査をして、通るもののみを出願せよ」という出願抑制策は、大手各社の知財管理能力の大幅な向上をもたらしました。これが原因で、出願件数の減少に繋がっていると思われます。すなわち、会社の調査能力が向上しますと、特許されるかどうか、されるとしたらどの大きさの権利獲得ができるのかが、明らかになるので、それほど多くの出願件数を確保する必要がなくなるわけです。重要出願に絞って出願する企業が増えていますが、知財管理能力が向上すれば、どの発明を出願するかという選択力も的確になって、出願件数減に繋がります。

(理由その3)コストダウン
次にいえる原因は、厳しいグローバル競争にさらされている各企業がコストダウンを図るために、予算カットを聖域なく行ってきたことにあると思います。それに追い討ちをかけたのが、リーマンショックです。さらに、東日本大震災も今後影響が及ぶことでしょう。

(理由その4)工場の海外立地
さらに、日本の人件費の高さ、そして、高率の法人税等日本の政策のまずさから、非常に多くの企業で工場を海外に立地するということが起こっています。この工場の海外移転は、日本における企業間競争を減少させ特許出願の必要性を極小化しているともいえましょう。

(理由その5)モラルの向上
また、日本人のモラルの高さも出願減に繋がっているように思えます。すなわち、モラルが非常に高くなった日本においては、他人の発明したものを横取りしようとする企業が、コンプライアンス厳守の思想の普及から少なくなってきています。そうすると企業としても、それほど出願しなくてもいいのではないかという考え方になってきます。出願件数減少に繋がっていると思われます。例えば日本と中国と比較してみたとき、中国の実用新案は30万件を超えているのに対し、日本では1万件を下まわっています。意匠出願は中国が40万件を超えたのに対し、日本では3万件そこそこです。これはまさにモラルの高さ、低さゆえだと考えられます。

(理由その6)模倣回避
出願すると、1年半で公開されます。そうするとその発明に対する閲覧者の50%が中国、韓国、台湾だといわれています。だから、これらの国へ出願する予定のない発明を下手に日本にだけ出願すると、ただマネされるだけで、かえって損害の方が大きくなるという考えから出願件数が減っているという側面もあるのではないかと思います。

(理由その7)厳格審査
特許庁の審査の厳しさが出願件数減に繋がっている可能性が否定できません。すなわち、外国の代理人からの苦情ですが、「日本に出願してもその価値に見合った大きな権利を取れない。だから、費用対効果を考えると日本に出願するのは損になる」というのです。典型的なのは特許法36条6項1号違反での拒絶です。「実施例にサポートされていないから、そこまで一般化ないし拡大できない」という拒絶理由で請求項の限定要求がだされるケースが非常に多いことです。「アメリカやヨーロッパでは通ったのに、何で日本だけ通らないのだ」という現地代理人の苦情が結構あるのです。

(理由その8)シフト補正禁止
それにシフト補正禁止です。これほどユーザーフレンドリーでない制度はないでしょう。長靴の出願の中にこうもり傘が書いてあって、請求項がはじめ長靴だったのを、途中からこうもり傘に変えるのを禁止するのなら分かります。
同じ長靴でも、請求項が1.A+B、2.A+B+C、3.A+B+Dであったとき、1.A+Bの新規性がなかったとき、3.A+B+Dについては審査しない。分割して高価な審査請求料をもう1回支払わなければ、審査してもらえないのです。3.A+B+Dに支払った審査請求料は国のただ取りということになります。これは単に特許庁の収入を増やすだけの制度で、全くユーザーフレンドリーとはいえません。日本出願の減少の原因に繋がっている可能性があります。

5.外内出願の減少傾向

外国から日本にやってくる出願、外内出願は確実に減っています。年度ごとの出願件数は次の通りです。2007年62,793件、2008年60,892件、2009年53,281件。07年に対して、09年は14%も減少しています。10年にはもっと減っているのではないかと思います。
このように外内出願は漸減傾向にあるのですが、その最も大きな理由は、先にも述べましたが、日本の少子高齢化により消費市場としての魅力がなくなってきたことにあると思われます。日本企業の海外シフトが顕著に進んでいる状況もこの傾向に拍車をかけていると思われます。
すなわち、日本には徐々に競争相手がいなくなっているので、日本へ出願するよりは中国へ、その次は分野によっては韓国だ、いや台湾だというように考える欧米の出願人が多くなってきているといえます。
日本の技術競争力が海外から低く見られ始めた証拠ではないかと、心配です。
日本の企業が海外にシフトし、その影響で権利行使する機会が減ってきているという見方もできそうです。
当所においても数年前までの外内出願件数と現在の受注状況を比較すると、30~40%件数が減っています。

6.外国(内外)出願の増加傾向

一方、内外出願は増加傾向にあります。2005年138,820件、2006年149,388件、2007年152,651件、2008年156,293件というように、年々増加傾向にあります。
この傾向は、前述のように、経済のグローバル化並びに工場の海外移転に伴う変化に沿ったものだといえます。
企業が日本で稼ぐよりも海外で稼ぐ金額のほうが多くなりつつある現状では、特許権等の知的財産権も海外で多く取得する必要性が増えることは、当然の成り行きでしょう。

7.知財部マネジメントの変化

最近、各企業との取引の中で強く感ずる知財マネジメント分野の変化があります。依頼される仕事の内容からわかる変化は次の通りです。

【1】知財活用と知財問題回避
侵害発見と鑑定業務

一時代前の知財管理は出願件数至上主義でした。「生めよ、増やせよ」だったのです。しかし、現在は取得した権利を有効に使おうという傾向が顕著です。特に他社が自社の特許を侵害しているのを発見し、受領するライセンス料の額を高めようという動きです。
中には他社製品が送られてきて、「関係する自社特許を捜して、触れているかどうかを調べてください」という鑑定依頼さえあります。
特許事務所の業務としては、このような鑑定依頼が増えてきています。

パテントクリアランス業務(国内、外国)と鑑定業務

また、鑑定依頼として多いのが、パテントクリアランスに繋がる、自社技術が他社特許に触れるかどうかという依頼です。これも多くなっています。
自社製品が国内外の他社特許に触れないことを鑑定する業務です。当所では、鑑定専任の弁理士が継続して鑑定業務に当たっています。製品又は図面が持ち込まれ、この製品が触れる他社特許がないかどうかを検索するのです。
幸い当所では調査部門を持っていますので、国内外の特許調査は比較的容易です。責任も大変重いので、検索技術の向上に努めるとともに、慎重に検索業務を行っています。
他社特許の検索ミス、すなわち、他社重要特許を見逃して侵害問題が発生したときには、会社としては担当部署である開発部、そして、知財部が後ろ向きの仕事で忙殺されることになるのですから、影響するところ大です。
本来ならば、開発支援等前向きの仕事をしていてあたりまえの知財部も、過去のミスの尻拭いのために大きな労力を使うことになるのです。問題特許の発生が外国だったような場合には、さらに、多くの時間と金をつかわざるを得ないことになります。通常業務を犠牲にして対策しなければなりません。会社全体のムードも暗くなります。細心の注意が必要です。

【2】発明の発掘から出願までにかける知財部労力の軽減

以下に述べる傾向は、全てアイディアの発想から出願までに知財部がかける労力を軽減しようとするものです。

出願前先行技術調査の特許事務所への移管

通常大手の会社では知財部のスタッフが、出願前に調査をすることが多いのです。ところが最近では先行技術調査を発明者自身にやらせる、さらに進んで外注する所が増えてきています。その影響だと思うのですが、当所へも先行技術調査依頼が多くなってきています。そして、その結果、先行技術が見つからず、通りそうだということになると、そのまま出願依頼となるという具合です。

届出書提出前の発明者に対する特許事務所の直接インタビュー

時には知財部担当者が発明者とコンタクトする前に、特許事務所側で発明者と会って、発明の内容を聞き取り、それを発明届出書にまとめ、知財部へ届けるというケースも出てきました。

特許事務所と発明者のみとのインタビュー

出願依頼を知財部がランク決めして、ランクの低い出願については、知財部担当者は同席しないで特許事務所担当者と発明者とのみ面談をして、出願にこぎつけるというケースもあります。

発明創出会議のアイディア直接出願

また、1~2日間かけて、発明創出会議を開き、そこへ我々特許事務所スタッフが同席し、会社の技術者とともに発明の提案をします。そして、出てきた内容を我々が克明に記録し、発明会議が終わったときは、依頼も終了しているというケースもあるのです。

特許事務所への中間(国内、外国)対応の大幅移管

拒絶理由通知が来たとき、意見書、補正書案は第1段階として、特許事務所に対応案を出させる企業が圧倒的に増えてきました。前述のように先行技術調査を特許事務所にやらせることも含めて、とにかく、出願事務関連については労力をかけたくないというのが、最近の傾向です。
外国出願は一カ国目のクレームが確定したら、2カ国目以降はそれに倣って手続きを進めることとし、知財部の意向を伺う必要がないとした企業も出現しています。

【3】知財部の忙しさの原因

忙しさの原因としては、例えば、発明の創出のための情報提供、生まれる発明の届出の奨励、生まれる特許権の有効利用、他者対策としてのパテントクリアランス、他社要注意特許出願の継続的監視、技術情報の収集とその技術部への提供、グローバル化に伴う外国特許制度実務の習得と管理等簡単に外注できない仕事があります。
特に一昔前までは、外国特許管理は欧米を中心とした業務でしたが、最近のように中国の重要性が急進展しますと、中国関連の特許管理だけでも人材は多くの数が必要となってきます。さらにはインドやベトナム、タイ、インドネシア、マレーシア等東南アジアの知財管理の重要性が日増しに強まっています。
これらの仕事をきめ細かくやればやるほど、また、高度な知財管理が必要になればなるほど、人材が必要です。しかし、簡単に人は配属されません。従って、任せられる仕事は、徹底して外注に任せようという傾向が生ずるのだと思われます。
このような傾向から、任せやすい出願に関しては、できる限り外部に任せて、知財部でしかできない仕事に専念しようという動きが顕著になったものと思われます。今後、人件費を抑えなければならない企業としては、この傾向はますます助長されることになるでしょう。

8.特許事務所のあるべき姿

以上の状況を踏まえて、今後の特許事務所のあるべき姿について、探ってみたいと思います。

【1】外国出願能力の向上

経済のグローバル化に伴う各企業の外国出願の増加傾向にあわせて、特許事務所はどうしても外国出願に強くなる必要があります。米欧中のみならず、韓国、台湾、ブラジル、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、ロシア等の新興国の制度にも通じるとともに、コンフリクトを考慮しつつ、現地の有力な事務所を開発する必要があります。
事務所全体の能力としては、各国の法制度に通じたスタッフの育成、英語はもちろんのこと、中国語やドイツ語のできる技術者の育成が必要となるでしょう。
当所では2002年中国上海に現地事務所を設立し、調査業務、出願仲介業務等を行っていますが、複雑な現地事情があるために、急角度の発展はできないでいます。現地の事情に合わせながら、着実に進展させるつもりです。
当所の外国事務の状況からいいますと、外国事務には非常に多くの事務処理が伴います。当所では年間約3,500件の国内出願を行っていますが、8人の国内管理要員が中間処理を含めて全て処理しています。しかし、年間1,500件の外内、内外出願を処理するのに、40人を越える管理要員を必要としています。しかも、そのメンバーは高度な語学力を必要としますので、人材の養成も一筋縄ではいきません。1人1人丹念に育て上げる必要があります。

【2】鑑定能力の向上

鑑定実務を自在にこなすには、その技術を理解する必要があります。当所において、ライバル会社の電子製品の実物が持ち込まれ、鑑定依頼を受けることがあります。関連自社特許を検索して、その製品との属否の鑑定を行うのです。
電子製品ともなると、見ただでは分からないケースもあります。会社側の技術者に根掘り葉掘り聞いて、理解して探し出した特許との属否を判断しなければなりません。常に技術力の向上に努める必要があります。
さらに、正確な鑑定業務を行うには、常に最新の判例を知っている必要があります。当所では弁理士が順番に担当して、1ヶ月に最低1回は判例研究会を開催して、明細書に関係するスタッフや外国関連出願に携わっているスタッフが参加して、勉強しています。ずいぶん参考になります。判例も日進月歩という感じがします。
当所には2名の米国特許弁護士が常駐しています。その状況を利用して米国特許に関する鑑定も行っています。正式鑑定は多くの労力と費用がかかる為、当所では依頼者の提供する資料のみを基に行う鑑定を簡易鑑定と称してリーズナブルに提供しています。その為、多くの利用者があります。日本経済のグローバル化に伴い鑑定も単に日本特許に関するものだけではなしに、諸外国の特許鑑定能力も我々が培う必要があるといえます。
米国における鑑定は、日本の感覚では正確には行い得ないところがあります。「郷に入っては郷に従え」といえます。
今後、鑑定もこのように外国特許に関するものが増えていきます。ますますグローバルになって行くことが想像されます。

【3】発明発掘能力の向上

一般の技術者の方々は、そこにいくつもの発明が存在しているにもかかわらず、それに気付かないことがしばしばあります。特にアイディア全体をグローバルに捉えた発明の存在を見出すことは、開発にかかわる技術者にとって、非常に不得手だといってよいでしょう。
例えば機械式立体駐車場の発明があったとします。自動車を載せる台車の構造や、台車を載せるエレベータの構造、台車を格納庫へ移動させる移動手段の構造等は発明のありかを見つけやすいのです。しかし、全体として捉えるエレベータの昇降空間と、格納庫の配置、すなわち、格納庫はエレベータ空間の両サイドにあるのか、前後方向にもうけられているのかといったアイディア、エレベータを吊り上げるワイヤロープと台車の位置関係や干渉を避けることに関するアイディアはなかなか気付きにくいのです。
特許事務所全体の能力として、気付きにくいアイディアを確実に引き出せることは、非常に重要であるといえます。経験と頭の中に蓄えられた知識集積度が有効な能力に結ぶつくものと思います。
さらに、発明の上位概念化に関する能力も必須でしょう。弁理士としての経験が長い人であれば、この能力はほとんどの人が備えているといえます。弁理士に対する最悪の評価が「言ったことしか書いてない」ということですから、発明の上位概念化だけでは、依頼者側から見た場合、まだ役不足で、上位概念化に伴って、サポート要件を満足させるために、多くの実施例を引き出す能力も必要です。引き出すとき、単に技術者から引き出そうとするだけでは、不十分です。弁理士側からもこれも可能、あれも可能というように、多くの別例を提示する能力も必須といえましょう。
当所では統計的に見てみますと、実施例の追加ともいうべき当所から提案する別例の追加数は、依頼者から提供される別例数の3倍になっています。すなわち、お客様が考えた別例2件あったとするならば、当所の加える別例は6件というわけです。
また、当所ではアイディア創出のためのコンサルティング事業を行っています。種々の形がありますが、特定の分野におけるアイディアを短期間に集中的に出して、競争力を強化する特許ポートフォリオを形成しようとするものです。
まず、当所において、その技術の分野の特許調査を綿密に行います。そして、重要アイディアについては、参加する技術者に説明し、アイディア創出会議を開催します。さらに出たアイディアを調査し、説明し、さらに、アイディア出しを行います。このサイクルを3回繰り返します。
そして、出願できるものを全て出願に結びつけるのです。自然にアイディアが出てくるのを待つだけでは、遅いし、数が少ないという企業には最適です。言い換えれば、アイディア創出マネジメントといってもいいでしょう。

【4】調査能力の向上

今後、特許事務所には独自の特色ある特許等調査能力が必要になってくるものと思われます。例えば鑑定を依頼されたとき、調査能力がないと実行できる鑑定は依頼者が提供した資料のみによって、結論を出すことになります。しかし、企業によっては十分な調査能力がなく、鑑定に必要な十分な資料を提供できない場合もあるし、調査能力のある企業であっても、調査に掛ける時間がない場合も最近は多くなってきています。そうすると、鑑定に重大な影響を及ぼす先行技術調査能力は欠かせないことになります。
その他、例えば意匠登録出願に対して、拒絶理由通知が来たときには、出願時に十分な先行意匠の調査がしてないと、必ず調査が必要になります。そんなときにも調査能力が試されることになるのです。
また、特許事務所に任せられることはできる限り任せようとする最近の知財部の傾向から、特許事務所が出願の受任を有利に展開しようとするならば、所内に高い特許等の調査能力を持つことは、今後どんどん重要性が増すものと思います。すなわち、企業からの依頼を受けて、発明者と直接面談し、発明の内容を把握し、直ちに先行技術調査を行い、事務所自身が出願の要否を判定し、報告書のみが知財部へ提出されるという状況は今後ますます盛んになっていくものと思われるからです。
さらに、企業からは人員不足のため、無効資料調査を依頼してもらえる可能性もあるのです。その他、新規技術分野への参入に先立って、行われるテーマ調査、特許マップ作成、技術動向調査、テキストマイニング技術を応用したコンピュータによる大量分析、外国の特許調査に関する能力の整備が必要になるでしょう。
調査能力は一朝一夕にはできません。人材と時間が必要です。経験を積めば積むほど正確な調査ができるようになることは、当所の実績から明らかです。人材を採用し、長い目で見て養成していく道が最良でしょう。
当所では調査部門ができてから、十数年がたちますが、やっと特許庁の中小企業の審査請求前調査業者として選定を受けるところまで来ました。(前年度で制度は収束)
また、当所調査部の職員が独立行政法人工業所有権情報・研修館の行う調査コンクールにおいて、準優勝するところまで来ています。
また、最近、当所が依頼を受けている調査の内容は次の通りです。すなわち、出願前先行技術調査38%、特許クリアランス調査7%、開発着手前技術資料収集調査31%、無効資料調査24%でした。ここで目立つのは開発前の技術資料収集調査が30%を占めていることです。
なお、調査に関してもう1つ情報があります。当所において昨年調査に関する研修会を東京、大阪、名古屋において企画したところ、大変な人気でした。出席者の募集をしたところすぐに満杯になってしまい、すぐに各地で2回目の開催をしたほどでした。内容としては当所が培った調査のノウハウを徹底的に開示するというものでした。調査に関する関心の高さが分かりました。

【5】知財部代行能力の向上

経済のグローバル化に伴う知財部の業務の増加、高度化にもかかわらず、人材の増加が認められにくい各企業においては、特に出願関連の業務を中心に特許事務所への業務移管がどんどん進められるものと思われます。例えば、従来企業側で行われていた発明発掘、発明届出書の作成、先行技術調査、出願発明の選択判断、外国出願の選択、内外出願中間処理の判断等の業務が特許事務所へ移管されるのではないかと思われます。今後特許事務所にはこれらの業務をスムーズにこなす能力が必要となってくることでしょう。

【6】事務管理の正確さの追及と能率改善

業務量が多くなればなるほど、ミスの発生も多くなります。特許事務所のミスは企業並びに特許事務所に対して、致命的なダメージをあたえる可能性があります。特許事務所としては事務管理の正確さを追及しなければなりません。正確さを追求していきますと、2重チェックが3重チェックになり、どんどん能率が落ちていきます。正確さと能率の追求が欠かせません。
当所においてはミスの発生があったときは、それがいかに軽微なものであっても、必ず直ちにトップに報告するとともに、不適合報告書を作成します。トップの決断で素早く善後策を講ずるとともに、再発防止を徹底するようにしています。再発防止が徹底されているかどうかは、各部年2回以上行われる監査においても取り上げ、現状のチェックがなされるようになっています。
一方、コストダウンの要請が強い今日においては、事務の効率化の努力も欠かせません。当所においては20数年間継続しているQC活動があります。この改善活動にシステム開発部のSEの協力が加わると、改善効果は非常に大きなものとなります。例えば、外内出願において、審査請求をするとします。審査請求書を作成して、チェックリストにより2重チェックがなされるのですが、最終のチェックは、現地からの審査請求指示があったかどうかを、現地から来たメールなり、FAXの内容を直接確かめることにより、「審査請求の指示があった」ということを確認する工程があります。改善が行われる前までは、包袋の中にあるメール又はFAXのコピーを探し出して、確認していました。このコピー探しが大変なのです。何件もの包袋を机の上において、1件ずつ確認する必要があります。
実に手間のかかる作業です。それをQC活動の中で、現地からの審査請求指示書をコンピュータ内に取り込み、ワンクリックでそのコピーを見られるように、システム化したのです。能率の向上に大いに役立ったのです。他の提出書類についても、同じことを行っています。間接的に人が増えるのを阻止したといえます。その外きわめて多くの改善事例あります。

【7】高品質の追求

事務管理の面でも、明細書をはじめとする実務の面でも、特許事務所に求められるのは、品質の高さです。たった1件の明細書の品質の良し悪しが、その事務所の命運を左右することさえあります。概して、悪影響の方が多いのですが。つい最近も当所の明細書作成において、ある企業に対して、年間1件だけのミスが出ました。実施例とクレームの整合が取れていないケースでした。そのためにその企業における事務所単位の品質の順位が大幅に落ちてしまったのです。幸いお付き合いが終わってしまうということは、ありませんでしたが、肌寒い事件でした。
このように特許事務所の仕事はそれが実務であろうと事務であろうと、最高度の品質が要求されるのです。そして、ミスは許されないのです。品質維持向上を目指す何らかの組織的な対策が必要です。
当所では、前述のようなQC活動を常時33~36グループが行って、品質のアップや効率化に努めています。
その他、改善提案制度もあり、優秀な提案には表彰をするようにしています。さらに、QCの結果生まれたものが多いのですが、おびただしい種類のチェックリストができていて、書類が出来上がったときは、必ずそのチェックリストに基づいて、チェックが行われます。通常、別々の人による2重チェックになっています。
このようにして当所の品質の追求が行われています。

9.まとめ

以上、大上段に振りかぶって、特許事務所のあるべき姿について、述べさせていただきました。真実の姿には程遠い面もあろうかと思いますが、特許事務所のあるトップの見解ということで、読み流していただけば幸いです。