2020.05.01
商標権維持コストを最適化する 「商標ポートフォリオ整理®」のご案内
(パテントメディア2020年5月発行第118号掲載)
意匠商標本部 商標部
「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」とは?
今回は、弊所が提供しております「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」(商標登録第5625958号)について、サービスの概要を説明させて頂きます。
「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」とは、事業内容の棚卸しを通じて保有商標の「ムダ」「ムラ」「モレ」を解消し、商標権維持コストの最適化をはかる、弊所独自の商標コンサルティングサービスです。
※「ムダ」「ムラ」「モレ」の意味するところは以下の通りです。
- 「ムダ」…不要商標を維持している状態(区分レベルで不要な場合も含む)
- 「ムラ」…同一区分を指定する同一商標を複数件保有している状態
- 「モレ」…未登録のまま商標を使用している状態
1区分あたりの更新登録料(官庁費)は、10年分で¥38,800です。旧料金(¥151,000)に比べれば商標権の維持コストは大きく減りましたが、それでも50件、100件、200件と保有している場合には、10年間で数百万円の維持費を支払っているのが一般的です。区分数によっては、官庁費だけで一千万円を超えることも珍しくありません。ただ、50件以上の規模になりますと、保有商標の全てが必要不可欠、というケースは極めて稀です。たとえば、現在では使用されていない商標が、関係者(商標管理の前任者や、商標の取得に関わった方など)への配慮から権利放棄することもできずに維持されている、というのはよくあるお話しだと思います。また、社名商標の場合は、お取り扱いの商品やサービスを網羅的にカバーするよう、広い範囲で商標登録を受けようとするものですが、事業の拡大・路線変更に際して都度取得してきた商標が積み重なって、登録区分の重複が発生しているということが珍しくありません。
もちろん、保有する商標の数が多いほど、また、登録を受けた区分の数が多いほど、防衛面では有利に働くため、必ずしも、上記のような状態に問題があるとは限りません。しかし、商標権の維持費と比較してバランスが悪いと感じられる場合には、一度保有状況を見直されてみてもよいでしょう。
なお、「ムダ」「ムラ」はつまるところコストの問題で済みますが、「モレ」は商標権侵害のリスクを含むため、「ムダ」「ムラ」よりも深刻です。「モレ」が生じる背景としては、「新商品の発売に際して、事業部が商標管理部門に相談なく商標を決めてしまう」「登録商標に別の商標的要素を組み合わせて使ってしまう」等、様々あります。これは商標採択に関する社内の意思決定プロセスと密に絡むものであるため、直ちに「モレ」の発生を防ぐことは難しいのですが、まずはその応急処置として、「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」は大変有用な手段であると思います。
作業の進め方
「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」のゴールをイメージ図で表しますと、以下のようになります。
例として、ハウスマーク商標(社名・社章の商標)を対象に「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」を実施する際の作業の進め方をご紹介いたします。
1.まずは現状把握を行います。作業を進めるにあたって必要となるのは、「保有商標リスト」と「事業内容に関する情報」です。これらを照合して、保有商標が事業内容をどの程度カバーしているのかを確認します。
(1)「保有商標リスト」について
少なくとも、商標毎に、以下の情報が必要になります。お客様側でご用意頂くのが難しい場合は、弊所にて、J-PlatPat等のデータを使用してリストを作成しますが、最新情報が反映されるまでのブランク期間が2~3ヶ月ほどあるため、直近の手続についてはお客様からの情報が頼りです。
・出願番号 ・出願日 ・登録番号 ・登録日 ・分類 ・商標 ・存続満了日 ・指定商品(役務) ・類似群コード
なお、商標によっては、使用権が設定されているケースや、国際登録の基礎とされているケースがあります。これらは「事業内容に関する情報」との紐付けに直接影響するものではありませんが、その後の整理の段階で、維持・放棄を検討するにあたり重要な要素になるため、早い段階での情報提供をお願いしております(※弊所でリストを作成する場合は、これらの情報を確認することができません。)。
(2)「事業内容に関する情報」について
a)「現在」の情報
基本的に、お客様が取り扱われる全ての商品・サービスを確認できる資料が必要になります。具体的には、以下の資料についてご提供をお願いしておりますが、事案によっては別途ヒアリングをさせて頂く場合もあります。
・パンフレット ・カタログ ・チラシ ・リーフレット ・会社案内(顧客用・就活用) ・ホームページのプリントアウト ・登記簿謄本(又は現在事項全部証明書) ・有価証券報告書(※上場企業の場合) ・株主向け報告書(※上場企業の場合)
なお、子会社・関連会社の社名の一部に親会社の名前が含まれている場合は、それらの会社についても、上記の資料をご用意頂く必要がございます。たとえば、「A」という社名の会社が金属加工機械の製造・販売を行っており、その子会社が「A物流」という社名でA社製品や他社製品の配送を行っているとします。この場合、親会社であるA社は、社名商標「A」の登録にあたり、自社の事業に対応する「金属加工機械(の製造・販売)」に加えて、子会社の事業に対応する「車両による輸送」などの配送系サービスもカバーする必要があります。
b)「近い将来」の情報
ハウスマーク商標の場合は、現在の事業内容を確認するだけでは十分とはいえません。なぜなら、事業の拡大・転換に伴い、これまでとは異なる商品やサービスを販売・提供することになった場合には、それらの商品やサービスもカバーできるように、ハウスマーク商標の保護範囲を広げるための新たな出願が必要になるからです。しかし、最近の商標の審査事情では、審査結果を確認するまでに概ね1年を要し、拒絶理由通知への対応を加味すれば2年ほどかかることも珍しくありません。また、必要になった頃に出願しても、手遅れで登録できない、ということも起こり得ます。商標出願は「早い者勝ち」であり、新たに出願した分野においてすでに他人の類似商標が存在するケースがよく見られるためです。
変化の激しい時代ですから、10年先のことを見越して事業を検討するというのは極めて困難と思いますが、できれば中期経営計画で検討されているような、3~5年先の事業に関係する商品やサービスについては、なるべく早い時期に商標登録を検討されるのが良いといえます。指定商品・指定役務の選定にあたっては、弊所の経験から、或いはベンチマークとされている企業の商標登録事例等を参考にしながら提案させて頂きます。
c)紐付け
「現在」の情報と「近い将来」の情報が出揃いましたら、内容を精査しまして、お取り扱い(又は予定)の商品・サービスと、それに対応する類似群コードとの紐付けを行います。この作業は、お客様の事業内容によって難易度が大きく変わります。例えば「酒造業」であれば、お取り扱い商品の幅は総じて狭く、その商品に対応する類似群コードも、「類似商品・役務審査基準」を調べれば直ちに確認することができるため、比較的容易に紐付けを行うことができます。一方、製造業の中でも、お取り扱い商品のラインナップが多岐にわたる場合や、専門性の高い特殊な商品の場合は、そもそも「類似商品・役務審査基準」に掲載されていないことが多く、類似群コードの特定も難しいため、商品との紐付けが難航しがちです。「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」の一連の作業の中でも、特にベテランの知識と経験が必要とされる作業です。
2.次に、上記の(1)で確認した「保有商標」と、(2)で確認した「商品・サービス」との照合を行います。具体的には、Excelに保有商標の登録番号・商標見本・区分・登録日・存続期間満了日・類似群コードを表示し、同じシート内に表示された「商品・サービス」に対応する類似群コードとの紐付けを行います。類似群コードを頼りに重複を確認するため、専用権の範囲なのか、禁止権の範囲なのか、その区別が付かないという問題がありますが、例え禁止権であっても保護されていることが重要であると考え、また作業コストの低廉化に資するという点も考慮し、本サービスにおいては原則として上記手法を採用しております。なお、類似群コードだけに頼らず、指定商品・指定役務と実際の商品・サービスとの関係を考慮して照合することも可能です。
3.ここまでの作業で、保有商標が、現在の事業と、近い将来の事業をどの程度カバーしているか、視覚的に確認することができるようになります。まずは「モレ」がないことを確認し、次いで、「ムダ」や「ムラ」を確認します(※語呂の良さでは「ムダ→ムラ→モレ」ですが、検討の重要度では「モレ→ムダ→ムラ」です。以下、その順で説明します。)。
a)「モレ」の確認
少なくとも、「現在の事業」については十分網羅されているでしょうか?もし不足がある場合は、早急に新たな出願を検討されることをお勧めいたします。また併せて、「近い将来の事業」についてもカバーできるよう、この機会にご検討をお勧めいたします。
b)「ムダ」の確認
「現在の事業」及び「近い将来の事業」のいずれにも関係しない分野で登録を受けている商標や、ロゴデザインの変更により現在では使用されなくなった商標はないでしょうか?また、過去に行われた書換登録申請の影響で、多区分化された商標はないでしょうか?これらの「役目を終えた商標」や、国際分類への移行に伴い不必要に登録区分が広がってしまった商標については、そもそも更新が不要であったり、更新に際して区分を減縮することで維持費を抑制できるケースがありますので、更新に際してよく検討すべき商標としてチェックしておかれるとよいと思います。
c)「ムラ」の確認
書体やデザインが若干異なる程度の商標を、同じ分野で、複数件維持しているケースはないでしょうか?前述のとおり、「ムラ」はコスト上の問題であるため、許容範囲内であるならそのまま維持するということも可能ですが、どれか一つの商標に絞って、その他の商標については先の「ムダ」の解消と同様に、更新に際して区分を減縮することで、維持費を抑えるのもよいと思います。
4.次に、方針を検討します。「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」の目的は「ムダ・ムラ・モレ」を解消することにあるのですから、本来は見つけ次第直ちに解消すべきなのですが、例えば以下のようなケースもあるため、個々の事情を踏まえながら、慎重に検討する必要があります。
a)「モレ」について
原則として、「モレ」がある場合は、前述のようにその「穴埋め」となる新規の出願をお勧めしております。しかし、対象となる商品・サービスが、たとえば半年~1年後に取り扱いを終了する予定のものであるなら、新たに出願したとしても登録に間に合わない可能性があります。そのような場合は、出願に代わって、入念に商標調査を行い、安全性を確認するに止める、ということも現実的な選択肢の一つになり得ると考えます。なお、提供終了後も、アフターサービスやメンテナンス等のために商標を使用する可能性がある場合は、出願をお勧めいたします。
b)「ムダ」について
社歴の長い企業様によっては、歴代のハウスマーク商標を全て維持されているケースが見られます。これは一概に「ムダ」とはいえません。たとえば製品寿命が長い産業機械をお取り扱いの場合は、過去のハウスマーク商標を付した機械が今もなお現役で稼働していることがあるためです。また、飲食料品や日用品等の一般消費者向けの商品をお取り扱いの場合は、周年イベントの際に、いわゆる「復刻版」の商品を販売し、その商品にかつてのハウスマーク商標を付すということがあります。復刻版商品の販売による収益が当該ハウスマーク商標の維持費を賄うかどうかは事案によって様々あると思いますが、単にコストだけでは割り切れない情緒的な要素もあるため、それらの事情も考慮しながら、維持或いは権利放棄を決める必要があります。
c)「ムラ」について
投資の格言に、「すべての卵を一つのカゴに盛るな」という言葉があります。分散投資の重要性を説くものですが、商標管理においても多少通じるところがあります。すなわち、万が一の「権利喪失」に備えて、複数の商標権を維持する、ということです。これは商標権維持コストを抑える意味ではマイナスの施策ですが、「経営資源としての商標」を保全する意味ではプラスの施策となるため、例えば特に重要度の高い分野については「ムラ」を許容する、と考えるのもよいといえます。
整理後の処置
以上の検討を踏まえ、新規の出願、更新時の区分減縮、権利放棄(更新を行わない)等の措置をとります。区分減縮や権利放棄は商標権維持コストの低減に直接影響しますので、その効果を確認しやすいものと思います。
また、整理後のハウスマーク商標の商標数や区分数によっては、効果をさらに大きなものとするために、要素毎(社名・社章等)に、指定商品・指定役務を整理・統合した新たな出願を行うことをお勧めする場合があります。過去に、「18種・79商標・298区分」に及ぶハウスマーク商標を、「2種・4商標・26区分」の新たな出願に置き換え可能なケースがありましたが、商標権維持コストの節減効果は、印紙代だけで、10年間で約1000万円に及ぶものでした。
なお、ハウスマーク商標の整理は、効果が大きい反面、幅広く、また深く検討する必要があり、相応の時間を要するため、気軽に実施するには向かない場合があります。まずは一部の商品・サービスに関する商標を対象として「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」を実施し、効果を実感されてみても良いと思います。弊所に作業をお任せ頂く場合は、お見積もりをご用意させて頂きますのでどうぞお気軽にご相談下さい。