2022.03.31
企業メッセージは商標登録できない?
株式会社日経BPコンサルティングがまとめた「企業メッセージ調査 2021」では、国内241社の企業メッセージ360件がテーマ毎にランク付けされています。この調査でいう「企業メッセージ」とは、『企業や企業グループが、自社のコンセプトや理念、姿勢、方針などを社外(消費者や取引先など)や社内(自社及びグループ企業の従業員)に伝え、浸透させるために全社的に一貫して使用しているフレーズや文言』のこととされています。例えば、キャッチフレーズ、キャッチコピー、スローガン、タグラインなどがこれにあたると思われます。ちなみに、「企業名想起率」ランキングの上位10件は以下の通りです。
企業名 |
メッセージ | 企業名 | 企業名 想起 (%) |
---|---|---|---|
1 |
あなたと、コンビに、 |
ファミリーマート | 73.5 |
2 | ココロも満タンに コスモ石油 |
コスモエネルギー |
68.2 |
3 | お口の恋人 | ロッテ | 64.7 |
4 | コーヒーギフトはAGF | 味の素AGF | 62.8 |
5 | 新製品が安いケーズデンキ | ケーズ ホールディングス |
55.7 |
6 | マチのほっとステーション | ローソン | 40.7 |
7 | あっという間にすぐに沸く、 ティファール |
グループセブ ジャパン |
40.3 |
8 | 取っ手のとれる、ティファール |
グループセブ |
40.1 |
9 | 水と生きる SUNTORY | サントリー | 39.9 |
10 | Eat Well,Live Well. | 味の素 | 39.3 |
(https://consult.nikkeibp.co.jp/info/news/2021/0929em/)
「あなたと、コンビに、ファミリーマート」のように、メッセージ中に企業名を含む場合は、当然に想起率が高くなると考えられます。
一方、「お口の恋人」「マチのほっとステーション」「Eat Well,Live Well.」のように、企業名を含まないにも関わらず、高い想起率を獲得したメッセージもあります。このようなメッセージは、それ自体が出所表示として機能していると考えられるため、もはや商標といえるものです。現に、これらのメッセージは以下のように商標登録されています。
商標 | 登録番号 | 商標権者 |
---|---|---|
お口の恋人 |
5204707 5979527 |
株式会社ロッテホールディングス |
マチのほっとステーション |
4875233 |
株式会社ローソン |
Eat Well, Live Well. |
5956953 |
味の素株式会社 |
それでは、企業メッセージは容易に商標登録されるものかといえば、実はそうではありません。商標法第3条第1項第6号の審査基準では、「指定商品若しくは指定役務の宣伝広告、又は指定商品若しくは指定役務との直接的な関連性は弱いものの企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標」であって、「出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等を普通に用いられる方法で表示したものとしてのみ認識させる場合」は、識別力(商標としての特徴)を有しないとして、登録を拒絶するとしています。つまり、どこかで見聞きしたようなメッセージでは、商標登録を受けることは難しいのです。
別の見方をしますと、①宣伝広告のように認識させるものではなく、②企業理念・経営方針等を表すメッセージとして認識させるものでもなく、③むしろ一種の造語として認識させるものであれば、商標登録を認められる可能性が十分あります。そのような観点を踏まえて「お口の恋人」「マチのほっとステーション」「Eat Well,Live Well.」を見てみますと、確かに①②③の要素を全て満たしているといえます。
特に「造語感」は重要です。「お口の恋人」は比喩表現、「Eat Well,Live Well.」は押韻を用いたネーミングですが、このような工夫があると、審査において有利に働きます。
キャッチフレーズ、キャッチコピー、スローガン、タグライン等の企業メッセージも、社名や社章に匹敵する重要な商標となることがありますので、なるべく商標登録されることをお勧めいたします。