2021.11.30
国ごとに異なる商標制度
弊所では、これまでに100以上の国や地域への商標出願を取り扱っております。審査の流れや審査期間、登録できるかどうかの審査基準などは、当然ながら国によって異なりますが、日本との違いに驚くこともしばしばあります。そこで今回は、商標制度に関する日本と外国との違いについて、その一例をご紹介いたします。
①審査期間はさまざま
日本では、ファストトラック審査の対象となった場合で約半年、それ以外の場合は約1年で、審査結果(出願商標に問題がある場合は「拒絶理由通知」、問題がない場合は「登録査定」)が通知されます。日本と同程度の期間を要する国としては、米国(約半年)、中国(約半年~9ヶ月)、オーストラリア(約半年)などが挙げられます。しかし、中にはインド(約2年)、タイ(約2年半)、インドネシア(約3年)のように、最初の審査結果を受け取るまでに2年以上を要する国があります。また、ベトナムのように、「拒絶理由通知」を受けて反論や補正を行った後、商標局の最終判断を得るまでに約2年を要する国もあります。特に最近は、ロックダウンの影響で、商標局の処理が大幅に停滞してしまうケースも見られます。
②ひらがな・カタカナは「図形」
日本では、ひらがな・カタカナ(以下、仮名文字)は当然「文字」として認識されます。そのため、仮名文字から成る商標が登録されれば、「見た目」が同一又は類似する他人の商標はもちろんのこと、「意味」や「読み」が同一又は類似する他人の商標についても、原則として、使用や登録を阻止することができます。
しかし、外国では、多くの場合、仮名文字は「図形」として認識されます。つまり、その商標からは「意味」や「読み」が生じないため、実際に使用する商標を登録するだけでは、日本と同様の保護を期待することができません。このような場合は、追加で、出願国の言葉で同じような意味を有する言葉を商標登録したり、英文字の商標を登録したりするなどして、防衛範囲を広げるための取り組みが必要になります。なお、日本のように商標の「読み」を重視する国もあれば、「見た目」や「意味」を重視する国もありますので、出願方針を検討するには、各国の審査実情に通じた現地代理人(外国の弁護士・弁理士)に提案を求めるのが最も効果的です。
③商標権の存続期間が「登録日から10年」とは限らない
日本では、商標権の存続期間は「『登録日』から『10年』」です(その後は、正しく使用し、更新を繰り返すことで、半永久的に権利を維持することができます)。しかし、実は日本のように「登録日」を存続期間の起算日とする国は少数派で、大多数の国は「出願日」を存続期間の起算日としています。
一方、存続期間は「10年」が圧倒的多数ですが、中には「7年(バングラデシュ,マカオ,エチオピア等)」「15年(レバノン,カナダ,ベネズエラ)」とする国もあります。
④太陽暦を採用しない国もある
日本では、太陽暦を採用しています。しかし、サウジアラビアでは、「太陰暦(ヒジュラ暦,イスラム暦とも)」を採用しています。太陰暦の1年は約354日のため、太陽暦の1年より約11日少ないことに注意を要します。そして、サウジアラビアにおける商標権の存続期間は「出願日から10年」です。太陰暦の10年は、太陽暦に比べて約11日×10年=約110日短いため、太陽暦の2021年1月初旬にサウジアラビアで出願した商標は、2030年9月中旬(※あくまで目安)に存続期間満了日を迎えることになります。
⑤アルコール類の登録を認めない国もある
中東の一部の国(イラン,アラブ首長国連邦,サウジアラビア等)では、宗教上の理由により、アルコール類について商標登録を受けることができません。また、クウェートは特に厳しく、アルコール類の他、「クリスマスツリーとその関連商品」や「豚肉類」についても商標登録を禁じています。
以上のように、国によって商標制度はさまざまです。外国でビジネスをしたり、外国へ商品を輸出したりする場合には、国毎に商標権を取得することが重要ですが、取得の際も、その後の管理においても、各国の商標制度を踏まえ、適切に対応する必要があります。弊所は、世界1700以上の現地代理人とのネットワークを有しており、ほとんど全ての国への商標出願に対応することができます。お困りの際はぜひご相談下さい。