2021.05.31
社名を変更する際の「商標的」注意点
日本の上場企業約3800社の内、2020年に商号変更を行った会社は55社ありました。
株式会社日本取引所グループ(JPX)のホームページより、商号変更会社一覧
https://www.jpx.co.jp/listing/others/changed/index.html
上場企業に限ったことではありませんが、社名や社章(会社のシンボルマーク)を変更するにあたって、商標管理に携わる方は、少なくとも以下の点に注意されると良いでしょう。
1.採用しようとする社名や社章は、商標登録可能か?
→特に社名の場合は、日本語・英語のそれぞれについて、日本国内で商標登録可能であることが必要です。また、海外でも事業活動を展開する場合は、その国や地域においても商標登録可能であることが重要です。採用に当たっては、必ず商標調査を行い、商標登録の見込みが高いことを確認されることを強くお勧めします。
2.採用しようとする社名は、ネガティブな意味合いを含まないか?
→社内でネーミングを行う場合は、必ず辞書やインターネット検索エンジンを用いて、社名としてふさわしくない要素を含んでいないかどうか、確認されることをお勧めします。調べる際には、略語・隠語・俗称等にも注意が必要です。特に、インターネットスラングは一般的な辞書では調べることができないため、Google検索やTwitterなどを用いて、図らずも、品格を損なうような名称を採用することのないようご注意下さい。
3.子会社・関連会社についても社名変更が必要か?
→親会社の社名を子会社等の社名の一部に用いることがあります。ブランド戦略の一環としてよくあるものですが、方針を維持するなら、子会社等についても、併せて社名変更を行うことをお勧めします。また当然ながら、子会社等であっても、社名・社章を変更した場合は、新たに商標登録が必要になります。
4.事業内容に変更はないか?
→社名変更には「経営の仕切り直し」という儀式的な意味合いがあります。特に、新事業への進出、旧事業からの撤退など、事業領域に変化がある場合は、商標調査を行うにあたり指定商品・指定役務を検討する際に、その点を考慮する必要があります。詳しくは、「商標ポートフォリオ整理Ⓡ」の記事中、「b)「近い将来」の情報」の項目をご参照下さい。
5.旧社名・旧社章の商標権はいつまで維持するか?
→原理原則で考えれば、使用されない商標を維持する必要はありません。しかし、たとえば「復刻版」の販売がマーケティング施策上重要な場合は、ある程度維持せざるを得ないことがあるかもしれません。また、マーケティングとは関係の無い、情緒的事情として、旧社名・旧社章を採用した創業者・経営陣・その他先達への配慮のために商標権を放棄するのがためらわれる、という場合もあるかと思います。正解はないため、それぞれメリット・デメリットを考慮して、ご検討頂ければと思います。
以上、注意点として1~5を挙げました。
特に1については、可能な限り前倒しで対応し、できれば社名変更の2年前までに、遅くとも1年前までに、新しい社名(厳密には、「株式会社」を除いた部分)や社章の商標登録出願を済ませておくことをお勧めします。また、商標調査にあたっては、最新情報が反映されるまでのブランク期間(約2ヶ月)にも注意が必要です。重要商標については、ブランク期間の穴埋め調査(出願から約2ヶ月後に再調査を行うもの)を行うなどして、万全を期すと良いでしょう。
他にも個々の事情に応じて検討すべき事が多々あると思いますが、ご参考となれば幸いです。