特許事務所経営に思う|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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特許事務所経営に思う

会長 弁理士 恩田博宣

コロナが収束して間もない今日、インフレの高進にともない特許事務所にも手数料改定の機運が少しは出てきたといえる。しかし現実には、改定できる額は小さく、思うようにはいかない。筆者の記憶では少なくともこの35年間、手数料の改定はなかった。というよりは、できなかった。特許事務所にとっては、非常に厳しい現実であった。小泉改革で弁理士資格取得への参入障壁が緩和されて、大量の弁理士が生まれただけではなく、特許出願件数が徐々に減ってきたことが原因である。増える弁理士、減少する特許出願件数。当然のことながら、需要と供給の関係から、手数料は下がることはあっても、上がることはなかったのである。この状況は若干緩和されたとはいえ、現在も継続している。
特許事務所がこの厳しい状況をどのように乗り切っていくのか。解決手段は、事務所経営の合理化以外にないといえる。
筆者の事務所での合理化への取り組みについては、次の3点を挙げることができる。

1)QCサークル活動 2)自社内システム開発 3)アメーバ経営

1)QCサークル活動

40年間にわたって続けてきたQCサークル活動は、大きな成果を生んでいる。一つの活動で、年間節約額100万円以上の成果を挙げた活動が多数ある。中には、6人で行っていた業務を5人でできるようにしたという活動があり、600万円以上の年間節約額であった。活動の多くは、年間数十万円程度の成果がほとんどであるので、活動にかかった人件費を考えると、その成果を数年続けてやっと黒字ということになる。 
また、明細書実務者に特許調査の能力をつける勉強会形式のQCサークル活動も盛んに行われている。実務者が着手前に先行技術調査を行うことによって、同一技術を見つけ出し、出願を取りやめたというケースも出ている。これは、事務所には直接的な利益は生み出さなないものの、お客様に付加価値を提供する取り組みであり、結果として依頼増につながっている。
さらに実務部門では、最近のAIブームに乗っかり、AIを業務に活かせないか、模索する活動を行っている。

2)システム開発

筆者の事務所では、昭和50年代後半から事務処理用のコンピュータを使用し始めた。簡単な仕様変更でも、システム開発会社に依頼すると完成までに長期間かかるだけではなく、費用もばかにならない。そこで、苦労はあったがシステムエンジニア(SE)を採用した。SEの数は徐々に増え、現在では10名の陣容となっている。業務に使用するソフトのほとんどが、所内開発である。所内から出てくるソフトの開発要求、改善要求は引きも切らない。SEの不足を痛感している現在である。
最近ではRPAを種々の事務作業に活用している。その数、56業務76シナリオ。お客様への納品データの自動作成や、出願審査請求期限の年次チェックなどを自動で行っている。例えば、お客様への納品方法は、データ形式やファイル名の付け方、圧縮形式等々、ご要望により千差万別である。あらかじめお客様ごとに決められた納品ルールをRPAに覚えさせておき、出願が終わるとワンクリックで納品データが自動生成されるようになっている。
その他、特許庁やWIPOからの書類の受信、その経過の所内データベースへの登録や期限管理等々を自動化している。

3)アメーバ経営

アメーバ経営は、京セラの創業者、稲盛和夫さんが始められた経営手法である。筆者の事務所では、20年以上にわたって続けられている。各部門を数人のアメーバといわれる単位にして、その部門ごとの採算を毎月算出するという経営手法だ。月初に予定採算表というものを作成する。その採算表に向かって1か月間業務に励み、翌月月初に前月の実績採算を算出する。それに基づいて、月初1週間以内に経営会議が開催されるのである。経営会議では、売上額、経費、差引収益、総時間、時間当たりの収益について、予定額と実績額の読み上げを行う。そして重点項目を報告する。どうして高収益を挙げられたか、人員の異動、新規獲得顧客の報告、問題点等々である。目標を達成しようとする動機づけが働くので、成果が上がるのである。
さらに、毎月各部門の成果が目に見えるので、問題のある部門があれば、すぐに判明する。3か月4か月にわたって赤字が続くようなことがあれば、何らかの問題があると考えられる。

 

以上、筆者の事務所における合理化の事例を紹介した。参考になれば幸甚である。