力を合わせて事に当たる|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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力を合わせて事に当たる

会長 弁理士 恩田博宣

 特許事務所を取り巻く環境も相変わらず、厳しい状況が続いています。スーパーでの買い物では、インフレによる商品の値上がりを痛切に感じさせられます。人件費も上昇する一方、特許事務所の手数料を値上げすることは困難を極めます。

 そんな状況の中、筆者の事務所の運営において、ある種の成果を上げた事例があります。厳しさを少しだけでも緩和する手立てにならないでしょうか。今回はその事例を紹介します。特許事務所のみならず、多くの事業運営に役立つかもしれません。

 それは表題にある「力を合わせて事にあたる」ということの実践例です。この標語は、前回ご紹介した、筆者の事務所の「是」の一つです。
 筆者の事務所では40年近くにわたって、QCサークル活動を継続しています。そうすると、活動によって成果がでます。その成果というのは、活動するグループの数人が力を合わせて努力した結果です。活動内容によっては、個人の利害が絡む場合があります。すなわち、個人の知識能力を開示すると、その個人が損をするというようなことが想定されます。しかし、実際には最も優秀な人を含めて、全員の利益にもなることがほとんどなのです。

 筆者の事務所には、特許出願に使用する図面を作成する部門、図面部があります。その図面部では、3次元CADを使って図面を描いています。各図面部員の間には、図面を描くスピードに大きな差があります。その原因は、個人個人の能力や、経験年数により生ずるものです。そこで、全体的に能力アップを図りたいという課題に取り組みました。課題達成型のQCサークル活動でした。

 現状把握では、図面部員全員が同じ図面を描いて、その合計時間を出します。図面中に出てくる線の種類は、実線なのか、点線なのか、曲線なのか等々、いろいろあります。その同じ線を描くのに、使うコンピュータのコマンドは、何種類もあるのです。そうすると、同じ線を描き上げるのにも、使うコマンドによって、時間に差ができます。線種ごとに、誰が使用したコマンドが最も速く描けたのかを調べます。

 そして、対策を打ちます。対策は線種によって、最も速く描けるコマンドに全員が統一し、現状把握で描いた図面と同じ図面を描いてみました。

 効果の確認です。対策を打つ前に計った合計時間に比較して、全体として、なんと40%も時間短縮ができました。年間の節約額は、600万円にも達したのです。この年間600万円は、1回だけでなく、今後も毎年毎年節約し続けることになります。

 通常、自分が他の所員よりも速く描けるコマンドを使用していた場合、それを同僚に教えることはしません。自分だけのノウハウとしておけば、他者よりも好成績を上げられます。同僚に教えてしまっては、相対的に自分の地位が下がってしまうからです。

 しかし、QCでは、このように「全員で全体の効率を上げよう」という力が働きます。「力を合わせて事にあたる」という精神が養われるのです。QCの素晴らしい点であるといえます。

 では最も速いコマンドは、優秀な所員一人だけが知っていたのでしょうか。そんなことはありません。最速のコマンドは、複数の所員からもたらされたものです。そうすると、最も優秀であった所員も、自分の知らなかったコマンドを使うことによって、さらに、効率良く図面作成ができるようになるのです。自分の知識やスキルを開示したことによって損をするどころか、得をしたということになります。

 長年、このような活動を継続したことによって、筆者の事務所においては、新人が入所してくると、先輩所員が新人に対して、親切丁寧に教え指導するという文化が生まれました。新人は異口同音に「優しく指導してもらっています」と言います。この文化は、QCサークル活動が継続される限り、続くことでしょう。