日本ミャンマー知財啓発セミナーについて|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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日本ミャンマー知財啓発セミナーについて

(パテントメディア2017年5月発行第109号掲載)
弁理士 金森晃宏

2016年12月19、20日にミャンマーのヤンゴンで開催された知財啓発セミナーで日本の知財専門家として講演を行ってきました。今回のコラムでは、ミャンマーの紹介とともにその報告をさせていただきます。

1.ミャンマーについて

皆さまはミャンマーというと、どのようなイメージをされるでしょうか。テレビや新聞などの報道をご覧になられたことはあっても、実際にミャンマーに行かれたことのある方は多くないかと思いますので、最初にミャンマーについて簡単に説明いたします。
ミャンマー(正式にはミャンマー連邦共和国)は、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国の1つでインドシナ半島の西部に位置し、タイや中国、インドなどと国境を接しています。国土面積は、約68万平方キロメートルと日本の約1.8倍で、その中に5000万人強の方が暮らしています。国民一人当たりのGDPは1000米ドル強とまだまだ貧しい国ですが、現在は、日本を含む世界各国からの投資や企業進出が進んでおり、大変活気のある国です。
私は2014年10月~2016年3月末までの1年半、日本弁理士会からの派遣で日本貿易振興機構(ジェトロ)のタイにあるバンコク事務所に駐在しており、その関係で初めてミャンマーに行きました。実際にミャンマーに行ってみますと、ミャンマー最大の都市であるヤンゴンには高層ビルもあり大変発展していますが、全体的にはインフラ整備がまだ不十分でまさに発展途上国といった感じです。ですが、ミャンマーの方は、大変真面目で勤勉な方が多く、目上の方をしっかり敬う文化ができているなど、とても過ごしやすい国です。仕事以外にプライベートでも何度かミャンマーに行きましたが、インフラなどの不足分を人柄の良さで補って余りある感じです。
一方、ミャンマーの知財状況はというと、著作権法は存在しているのですが、特許法などの基本的な知的財産に関する法律がまだ制定されていません。2015年度に知的財産法案が国会に提出されたのですが成立には至りませんでした。現在、ミャンマーの知的財産法案作成や知的財産庁設立に向けて働いているチームはミャンマー教育省に属しており、そのリーダのMoe Moe Thwe氏によれば、2017年中の知的財産法成立を目指しているとのことでした。

2.知財啓発セミナーについて

知財啓発セミナーは、ジェトロ、日本特許庁及びミャンマー教育省の共同開催で、二日間にわたりヤンゴン市内にあるホテルで行われました。参加者は、ミャンマー人の会社員や学生など、ミャンマー教育省から招待された方達が100名ほど参加し、盛況のうちに終えることができました。

(1)一日目

一日目は、知的財産権保護の重要性をテーマに講演が行われました。
先ず上記教育省のMoe Moe Thwe氏により「ミャンマーにおける知的財産権の役割(Role of IP Rights in Myanmar)」をテーマに、知的財産法成立に向けたこれまでの歩みや今後の活動の方向性、ミャンマーでの知的財産の重要性について講演がなされました。続いて、日本特許庁から出向されているジェトロバンコク事務所知的財産部長の高田元樹氏により「ASEAN地域における知的財産権保護の重要性(Importance of Protecting IP Rights in ASEAN Regions)」をテーマに、日本の知的財産制度の成り立ちや知的財産を活用した企業の実例をもとに知的財産保護の重要性について講演がなされました。その後、昼食を挟んで、ミャンマー人弁護士のThein Aung氏により、「ミャンマーにおける知財訴訟の実例(Practical Example of IP cases in Myanmar)」をテーマに、ミャンマーにおけるコモンローや著作権法に基づく訴訟の実例が紹介されました。最後に私が「イノベーションのための知的財産権の役割(Roles of IP Rights for Innovation)」をテーマに、特許権や商標権の役割とともに、特許権を活用した事例として換気口具(サンプランテーショントレーディング株式会社様)や果実の処理装置(押尾産業株式会社様)などを紹介し、商標権を活用した事例としてCoCo壱番屋様などを紹介しました。今回のセミナーにあたり事例紹介にご協力いただきました企業様に、この場を借りてお礼申し上げます。

一日目のセミナー終了後は、セミナー講師やミャンマー教育省の方たちと夕食会がありました。ミャンマーの状況などについてざっくばらんにお話をし、ミャンマーについての理解を深めるとともに親睦を深めることができました。

(2)二日目

 

二日目は、知的財産権を活用した実例をテーマに講演が行われました。
先ずミャンマー企業のSINMA Furnishing社のKyaw Kyaw Win氏により、ミャンマーでの知財事情と知的財産権がないことによる経済活動の不利益などが紹介されました。続いてヨネックス株式会社の大久保氏により、特許権や商標権などを活用して発展してきた自社の歩みのほか、ASEAN各国での模倣品に関するニュース報道を交えながら自社での模倣品対策などが紹介されました。その後、味の素株式会社の五十嵐氏により、同じく特許権や商標権などを活用して発展してきた自社の歩みのほか、冒認商標に対する取り組みなどが紹介されました。さらに昼食を挟んで「ミャンマーにおける知的財産を活用したビジネスの将来像(Future Vision of Business Utilizing IP in Myanmar)」をテーマに講師全員でパネルディスカッションが行われました。このパネルディスカッションでは、二日間の講演に対するセミナー参加者からの質問に基づいて議論がなされました。商標や著作権に関する事項以外に、発明(イノベーション)を生み出すための仕組みや支援についても議論され、最終的にはパネルディスカッションの時間を30分延長して活発な議論をすることができました。

まだ知財制度が確立されてないミャンマーですが、こうしたセミナーが度々開催されており、少しずつですが知財啓発が進んでいるように思います。ミャンマー教育省の方は、2017年中の知的財産法成立を目指して活動しているとのことですし、皆さまにもミャンマーとミャンマーの知財状況に関心を持って頂ければ幸いです。最後までお読み頂きありがとうございました。