子供たちが憧れる職業|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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子供たちが憧れる職業

(パテントメディア2022年5月発行第124号掲載)
弁理士 上野友里

 意匠部の上野と申します。オンダ国際特許事務所に入所して、今年でちょうど10年になります。そして昨年弁理士登録をしたばかりの新米弁理士です。プライベートでは2人の子供の母です。

 最近、上の子は「将来の夢」について話をするようになりました。通っているこども園で、お友達とそのような話題になるようです。子供たちに人気の職業は、看護師さん、保育園の先生、お花屋さん、警察官、消防士、サッカー選手などだそうです。残念なことに、「弁理士」になりたいという子は一人もいません。知的財産に馴染みのない大人にも、ほとんど知られていない弁理士なので、子供たちに人気がないのも当然かもしれません。

 自分の子に、「弁理士なんてどう?」と聞くと、「うーん、私はカーリング選手になりたい」と、思いっきりオリンピックに影響されていて、弁理士には全く興味がない様子です。ぜひ自分の子に弁理士になってほしい、とまでは思いませんが、多少なりとも母の仕事について興味を持ってもらいたいところです。

 さて、子供たちに人気の職業は、どれも子供たちにとって身近な存在で、テレビなどで取り上げられることもあり、憧れの対象になりやすい職業だと思います。また、これらの職業は子供でもなんとなく仕事内容について想像がつき、やってみたい!と思うようなものだと思います。一方で弁理士は、全く聞き慣れない、身近に弁理士がいないなどの理由から、残念ながら子供の夢とは縁のない職業かもしれません。

 しかし、私たちの生活の中に目を向けると、様々な場面に弁理士が取り扱う知的財産があふれていて、弁理士という職業が、子供たちにとって無縁の存在とはいえないと感じます。今回は、知的財産の世界に馴染みのない子供たちや一般の方々にも知的財産が身近に感じられるようなお話をさせていただきたいと思います。

 

特許・実用新案について

 たとえば、私たちが毎日使っているスマートフォンや自動車、子供たちが大好きなゲーム機などには、国内外でたくさんの特許出願がされており、私たちの身近な最新技術には、弁理士が取り扱う知的財産が関わっています。

 さらに最近では、ユニクロやGUを運営するファーストリテイリング社のセルフレジに関して、特許権侵害のニュースが各種メディアで報じられました。普段何気なく使っている身近な技術に特許権が付与されていること、そして、その技術を使用するために高額なライセンス料が要ることに驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。特許権侵害という少しネガティブにも聞こえるニュースですが、メディアで報じられることにより、一般の方にも特許が身近なものとなったり、新しい発明を保護する特許制度がテレビなどで取り上げられたりすることは、弁理士としては少し喜ばしいことでした。

 また、時々、小学生が身近なものから新しい発明をして特許権を取得した、というニュースを耳にすることがありますが、子供の柔軟な発想や、困りごとを解決したいという純粋な願いから新しい発明がなされることは、実に素晴らしいことだと思います。ぜひ、自分の子にも、夏休みの宿題で面白い作品を作ってもらい、特許権がとれたらなとひそかに願っています。

 

意匠について

 意匠は、特許や商標等の他の知的財産に比べて、子供たちだけでなく大人にとっても一番馴染みのない言葉ではないかと思います。実は、そんな私も意匠部に配属が決まった当初は、意匠と商標の区別がつかず、製品の形やロゴ、マークなどのいわゆるデザインは、全て「商標」だと思っていました。

 しかし、意匠とは物品等のデザインのことであって、商品名や会社のロゴマークなどの商標とは法律上は別物です。私たちの身の回りのものに目を向けると、オシャレでかっこいい形をした製品がたくさんあることに気がつきます。これが意匠です。

 たとえば、私たちの生活に欠かせない自動車は、各メーカー独自のデザインコンセプトによって創作がされ、他社との差別化が図られています。特に、自動車の顔ともなるフロントグリルの形状は、各メーカーでそれぞれの特徴があり、車種が異なっていても、そのメーカーの自動車全体で、統一されたデザインが感じられるものとなっています。このように、製品のデザインを保護するのが、意匠権です。

 近年では、意匠法の改正により、物品のデザインだけでなく、建築物や内装、画像単独のデザインも意匠法の保護対象となりました。私たちの身の回りの話題のスポットや、ヒット商品にも意匠権が取得されているかもしれません。今は、誰でもJ-PlatPatで登録意匠を検索することができるので、お気に入りの商品の意匠登録の有無をチェックしてみるのも楽しいと思います。

 

商標について

 一方で、商標は子供たちにとってもかなり身近なものではないでしょうか。大好きなハンバーガー屋さんのマーク、自動車のエンブレム、おもちゃ等の製品の名前など、世の中にはたくさんの商標があふれています。普段何気なく使っている単語が、実は登録商標、ということもよくあります。

 商標は、同じ知的財産である特許や意匠とはやや性質が異なっており、様々な点で違いがあります。その中でも特に注目したいのは、法目的です。各法の第1条にはそれぞれの法目的が明記されていて、特許法と意匠法では、「発明(意匠)の保護及び利用を図ることにより、発明(意匠の創作)を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」とされています。一方、商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」となっており、商標法は、産業の発達への寄与のみならず、需要者である私たちの利益をも保護することが法目的とされているのです。このように、商標法の法目的からも、商標がより私たちの生活に密接に関連しているのが分かります。

 「この前食べたあのお菓子が美味しかったから、もう一度食べたい」と思ったときに、スーパーへ行き、商標を目印に同じお菓子を見つけて、他のお菓子と間違えずに前回と同じお菓子を購入することができます。私の下の子供はまだ文字が読めませんが、気に入ったお菓子やおもちゃは、文字が読めなくてもお店で上手に見つけ、買い物かごへぽんぽんと入れていきます。小さな子供は、大人よりも色や図形、音などへの感覚が優れており、これらに対する記憶力、執着心が強いと感じます。商標の機能を身をもって感じる瞬間です。

 

 以上のように、私たちの身の回りには、知的財産があふれています。これらの権利化に弁理士という職業が携わっているということは、残念ながら今のところ子供たちにはほとんど知られていませんが、今後、テレビドラマや漫画の題材にされるなど、メディアで広く取り上げられるようなことがあれば、少しは、子供たちに興味を持ってもらえるのではないかと、期待しています。子供たちには、もっと知的財産を身近に感じてもらい、弁理士という職業にも興味を持ってもらえたらいいなと願っています。また、それが、日本のものづくりを守っていくことにもつながり、そして、日本の産業や経済の活性化にもつながると信じています。