由なし事|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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由なし事

(パテントメディア2019年9月発行第116号掲載)
弁理士 鈴木あかね

我が家には二人の子供がおります。今年の春、下の子も社会人として自立したこともあり、このところ、親としてほっとしたような、或いは少し気が抜けたような、そして少し寂しいようなそんな気分になっていました。

そんな微妙な気分が続いていた先日の母の日の朝、テレビの情報番組で一冊の絵本を紹介していました。それは、アリスン・マギーというアメリカの絵本作家による「ちいさなあなたへ」という作品で、母の日の前には売り上げがぐんと伸びる話題の絵本ということでした。番組ではその中の冒頭の一節を紹介していました。

「あのひ、わたしは あなたの ちいさな ゆびを かぞえ、その  いっぽん いっぽんに キスを した。」

ベッドの中で、まだもう少しのんびりしていたいな、という気分のまま、テレビの音だけを聞いていたのですが、その一節が心に響いて、どんな内容なんだろうと気になってきました。話題の本だし、今日は母の日だし、と思いながら図書館のサイトを検索すると、一冊貸し出し可能とのこと。即行、図書館へ行って借りてきました。

一人の女性が子供を産み、その子の成長を淡々と綴っていくという内容でした。絵本ですから一節一節は短く、あっという間に読んでしまえるのですが、心に浸み込むような短い文章が繋がっていき、内容に引き込まれます。子供を授かって育てていく中で、自分もこんなふうに育てられてきたのかという親への想い、親への感謝の気持ちに心を寄せて、母親に贈りたい絵本として選ばれるのだろうと思います。
ずっと読み進んでいって、最後の一節でノックアウトされました。成長した我が子が親となり、その子供も巣立っていったときの親となった我が子に向けての一節です。

「わたしの いとしいこ。そのときには、どうか わたしの ことを おもいだして。」

子供たちが自立して複雑な気分の中で、自分の母親への想いどころか、自分と子供たちとのいろいろな出来事がじわじわと思い出されてきます。
天気のいい日に近所の田んぼのあぜ道を散歩したこと、幼稚園から持ち帰ってきた得体のしれない工作や、たくさんのダンゴムシの入った牛乳パック、近所の空き地へテントウムシの幼虫や蛹を取りに出かけたこと。特別な出来事ではなく、子供たちが小さかった頃の、ごく日常の他愛のない出来事がいろいろと思い浮かんできます。

ところで、当所は、一昨年度の「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」に認定されたこともあり、産休、育休や子育て時のバックアップ体制がしっかりしていると感じています。そのため、子供ができた後も、以前と同じように仕事を続けることがごく当たり前のことのようになっています。しかし、家庭と仕事が両立できるような支援体制が会社全体で整っている一方で、やはり働きながらの子育ての大変さというのは相変わらずではないかと思います。

子供ができる前には当然のようにできていた仕事が時間の制約で思い通りにできなかったり、子供が体調を崩さないように気を配るあまりに大事を取りすぎてしまったり、仕事と家庭との間で気持ちの切り替えがうまくできなくて悩んだり、或いは、仕事と家庭とのバランスがうまくとれない状態が中途半端に思えてきてモヤモヤしたり。そして、目まぐるしい毎日の中で、少しだけでも自分の自由な時間が欲しいと思うこともあると思います。

自分は子供たちが小さい頃は仕事をしていなかったため、幼い子供を抱えての仕事との両立の大変さを経験していませんが、こうした葛藤は、子供が小学校や中学校に上がってもずっと続くことです。実際、仕事に余裕がない時に限って子供が体調を崩すといったようなこともありましたし、学校行事に参加したくてもなかなか仕事の日程を調整できないといったようなこともありました。
そんな経験を通じて、会社の中で育休後に復帰して頑張っている人たちを見ると、出勤前や帰宅後の限られた時間で大変な思いをしてやりくりをしているのだろうと、心配したり応援したりする気持ちになります。

でも、子供たちが成長して社会人となった今、子供に関わる時期というのは限りあるもので、一生の中ではほんの少しの時間にしか過ぎないのだなということを強く感じます。今、仕事と子供との間で四苦八苦している方たち、本当に大変だと思いますが、一瞬にして過ぎる子供たちとの時間が愛おしくなる日がきっと来ます。大変な今だけれど、大切に楽しんでね、と思っています。