この10年間
(パテントメディア2012年1月発行第93号掲載)
弁理士 佐橋信哉
私が入社してもうすぐ10年になります。この10年間は明細書や意見書・補正書の作成をはじめ、特許・侵害調査等の様々な仕事をさせて頂きました。しかしながら、仕事をしながら、まだまだ知らないことが多いなと感じることもあります。それだけこの分野は仕事の内容が多岐にわたり、奥が深いということでしょうか。私がこの10年間で感じたことをこの場でお話しできればと思います。
努力の賜物の話
私は、時々在宅勤務をすることがあります。昔は考えられませんでしたが、自宅にいながら会社のパソコンをモニタに映し出し仕事をすることができます。社内メールも見れますし、会社のメールアドレスで送信も出来ます。本当に便利な時代になりました。この特許の分野で仕事をするようになって、様々な技術と関わりを持つようになりました。一見するとどこにでもあるような携帯電話の押しボタン一つをとっても、押し易さ、耐久性、美観等の様々な要素を考慮し、大変多くの開発者によって生み出されます。特許出願において新たに生み出された発明・技術について、お客様から話を伺うと、一つの製品、その中にあるたくさんの技術の一つ一つが大変な努力や苦労によって生み出されたものであることが理解されます。日常生活で目にする全ての製品は、その製品が構成される一つ一つの技術に関わる多くの開発者の努力の賜物ではないでしょうか。
私たちは仕事中はサービスの提供者でもありますが、仕事が終われば、商品やサービスを受ける側にもなります。私たちが購入により受け取る一つ一つの製品、そればかりでなく日常受ける様々なサービスは、人々の努力がこもったものであり、提供する側は、大変な思いをして開発したり提供したりしていると感じることがあります。それを思うと製品やサービスを提供して頂ける提供者に感謝する気持ちでいっぱいになります。この10年はそんなことを感じることができるようになった10年であったような気がします。周りの物事に感謝するようになって以来、逆に、私が仕事の上で感謝されることも多くなったような気がします。感謝はこんな形で帰ってくるものかと思ったりもします。入社して10年ですので、後輩の面倒を見ることもあります。オンダ国際特許事務所には、若手も多いですが、お客様への感謝はもちろん、日頃の社員間のやり取りに関しても、ほんの些細なことであっても感謝出来るような人間に成長して欲しいと思っています。
人間関係の話
特許の分野は基本的には書面主義のため、明細書や意見書等の書類として書面でやり取りが交わされます。終日パソコンに向かい合って書面を作成します。丸一日誰とも話さなくても仕事を進めようと思えば進められます。様々な書面を作成するのが仕事ですから当然です。お客様とのやり取りも原稿を送付したり受け取ったりする必要があるためメールやFAXでのやり取りが中心になります。携帯やパソコンが進歩してから日常生活においても、メールで済ますことが大変多くなりました。その一方、人間関係の希薄化、意思の伝達不良等の不利益も生ずることが社会問題にもなってきました。
この分野は、昔から特許庁でのやり取りは書面で行う書面主義が原則ではあります。しかしながら、審査官とのやり取りも結局のところ、人と人の間のやり取りです。意思の疎通ができて初めて明細書に記載される発明の素晴らしさが分かることもあるのではないでしょうか。私は、弁理士のため特許庁の面接審査により審査官と直接話しをする機会がよくあります。審査官との打ち合わせにより、初めて発明の良さ、技術の素晴らしさを理解して頂けることもあります。明細書や意見書において、文字では表わせない発明者の熱意も全て表現できれば、拒絶理由も少なくなるかもしれませんが、なかなかそうはいきません。書面主義が原則のこの分野だからこそ、文字だけでは表わせない発明者の熱意までも汲み取って、審査官に伝えるために、お客様や審査官と直接お会いして話を伺ったり、電話で話しをすることにより意思の疎通を図ることが非常に重要なことだと感じる10年間でもありました。
よく話しかけられる話
この仕事は本当に頭を使います。原稿の誤記は当然許されませんし、拒絶理由対応では、何が何でも通そうと意気込んでしまいます。場合によっては、大脳だけでなく小脳から骨髄の辺りの神経まで動員することもありますので、夕方、首~肩~腰にかけて完全にモルタル化します。土日も仕事をするときがありますが、週末のリフレッシュが非常に重要になってきます。私は、ときどき週末登山に出掛けます。家族は、疲れるからとついてきません。唯一一人になれる時間でしょうか。事務所前の金華山はもちろん、百名山の伊吹山や御岳山に登りに行きます。
山ではよく登山者に話しかけられます。道を聞かれたり、写真を頼まれたりもします。カメラのシャッターのお願いは観光地へ行った場合ものすごく多いです。もちろん快く応じます。周りの人から見れば、私自身、話しかけやすいタイプなのかもしれません。ところで、日常、家やお金のこと、あまり詳しくないパソコンや車のことでも、気軽に相談できる相手がいたらどれだけありがたいことでしょう。例えば、今乗っている車は、少しでも調子が悪くなれば、直ぐに昔から付き合いのある自動車販売店に連絡します。そこは、両親の代からお世話になっているお店で今は2代目が店長です。年齢も近いこともあり、人見知りの私でも些細なことでも気軽に相談できます。
知的財産の分野は、とても奥が深く、法改正もたびたび行われます。専門家の私ですら、分厚い参考書を調べ上げなくては分からないこともあります。お客様にとっては、なおさら複雑で難しいと感じている方も多いと思います。私は、お客様にとって気軽に相談できる特許担当者であったらと思いますし、お客様に頼れる弁理士に成長したいと思っています。そのためには、日々の情報収集による知識の向上はもちろんのこと、様々な経験を通して人間性までも成長できたらと思っています。
以上