商標審決レポート(飲み頃サインホログラム)
2020年5月28日
弁理士 木村達矢
審判番号 | 商標登録第6241211号 |
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事案の概要 | 示温インクを用いることで温度変化により商品(酒)のパッケージに表示された図形の色・デザインが変化し、「のみごろ」の文字が浮かびあがる商標がホログラム商標として登録された事案 |
登録日 | 2020年3月31日 |
出願人 | 宝ホールディングス株式会社 |
商標 |
本願商標 使用商標 |
指定商品 |
第33類 清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,日本酒,発泡性清酒,にごり酒,泡盛,発泡性焼酎,柳陰,濁酒,発泡性濁酒,マッコリ,ソジュ,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒,アルコール飲料(ビールを除く。) |
商標の詳細な説明 |
商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、可逆性の示温インクを用いることで、商標を付した商品の温度により、表示される内容の一部が出現・消失の変化をなすホログラム商標である。なお、各図の右下隅に表示されている番号は、図の順番を表したものであり、商標を構成する要素ではない。条件により見え方は異なるが、約20℃以上の温度においては図1に示すとおりに見え、温度が下がるにつれて見え方が変化していき、約16℃の温度では図2に示すとおりに、約13℃の温度では図3に示すとおりに見え、約10℃以下の温度では図4に示すとおりに見える。 |
コメント |
「ホログラム商標」とは、「商標に係る文字、図形、記号、立体的形状又は色彩が変化するものであって、ホログラフィーその他の方法により変化するものであって、時間の経過に伴って変化するもの(「動き商標」という。)を除いたもの」であると定義されている(商標法5条2項、同施行規則4条の2)。 したがって、ホログラフィー(見る角度により商標が変化する)ではなく、他の方法により変化するものであって、「動き商標」(時間の経過に伴って商標そのものが変化するもの)でないものは「ホログラム商標」に含まれる。本件では、可逆性の示温インクを用いることで、商標を付した商品の温度によって表示される内容が変化する商標が、ホログラム商標と認められている(温度によって商標の一部が消えたり表れたりするが、商標の構成自体が時間の変化にともなって変化することはない)。 ホログラム商標は、変化商標の一種であるが、変化商標とは「その変化の前後にわたるその文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合からなる商標」(商標法施行規則4条)であるから、変化の状態そのものは商標を構成する要素ではなく、あくまでも変化の前後の文字、図形等が商標の構成要素であると考えられる。したがって、変化すること自体は商標法では保護されないと考えられることから(示温性インクにより飲み頃の温度を示すことはアイデアであり、商標法はアイデアを保護するものではない)、示温性インクにより飲み頃を表示すること自体には商標権の効力は及ばないと考えられる(商標の図形やデザインを変更すれば非類似と判断されるであろう)。としても新しいタイプの商標の斬新な使い方として話題性は十分であり、商標による保護の新たな可能性を示唆するものである。 |