2022.09.01
特許情報を活用した 新規用途探索方法
(パテントメディア2022年9月発行第125号掲載)
知財戦略支援部 一之瀬梨沙
初めまして。
知財戦略支援部 東京グループにて特許調査を担当している一之瀬と申します。
侵害予防調査、無効資料調査、出願前先行技術調査を担当することが多いですが、最近では、アプローチ方法やアウトプットが決まっていないご相談もあり、お客様と試行錯誤しながら調査に取り組む機会も少しずつ増え、知財業務の幅の広がりを感じています。
そうした中で、今回は、特許情報を活用した新規用途探索方法の一例を紹介したいと思います。少しでも、アプローチ方法やアウトプットのご参考にしていただければ幸いです。
題材は、インターネットのアイデア募集サイトで見つけたものにしました。
題材:「TDK製小型マイク」の新規用途探索
※既に募集は終了しているため、実際に応募はしません
出典元:騒音のなかでも、音声だけを聞きとれるマイクの活用アイデア募集 – Wemake(ウィーメイク)
予備検索:TDK(出願人)xマイク(キーワード)
まずは、TDKさん既出の用途を確認しておきます。
「小電力の腕輪型会話検出装置」というものが見つかりました。
会話時間を測定できる活動量計のようで、実際に販売されているようです。今は活動量計でいろいろな測定ができるんですね。
この他には、今回の小型マイクそのものに関する技術がたくさん出ていました。
<TDKさん既出の用途>
- WEB会議で全員活躍できる(雑音の中では話が聞き取れない方)
- 図書館や新幹線で電話可能(静かな場所で電話)
- 微かな悲鳴を拾える(災害・電車内の痴漢行為等での助けを呼ぶ声)
- 風があってもクリアな音(野外ライブ・外での通話)
- 会話量を測定できる活動量計
今回は、これら以外での新規用途を特許情報から探したいと思います。
アプローチ1.TDKさんの出願に対する(被)引用特許
まずは、TDKさんの出願に対する(被)引用特許を調べます。これにより、競合他社さんが把握でき、競合他社さんの用途や、課題等が分かります。もし、TDKさんの方が優位な点が見つかれば、市場参入も期待できますね。
<出願人>
船井電機株式会社、ローム株式会社、新日本無線株式会社、株式会社東芝、パナソニック株式会社、ソニー株式会社、ヤマハ株式会社、オムロン株式会社、凸版印刷株式会社、Knowles Electronics, LLC、BSE Co., Ltd.、GN Hearing A/S、Analog Devices, Inc.等々
多くの出願人を把握できました。特許には産業上の利用分野が具体的に記載されていない場合でも、出願人のホームページ等から用途情報を収集できます。
<用途>
- ICレコーダー(議事録作成)
- 電子辞書、翻訳機
- 補聴器
- 車載オーディオ(ハンズフリー通話・音声アシスタント)
- ロボットクリーナー
- 冷蔵庫
- 家電製品の動作状況検出(自身の行動履歴収集)
- 行動見守り(老人・子ども)
- 百貨店での迷子の捜索
- 不具合検知(エンジンなどの車載機器・工場ライン)
昔、お仕事で海外の鉱山に行くことがありました。とても騒がしい環境で説明を聞いたり、とても暗い場所で急いで測定して結果をメモしたりと、とても大変だったことを思い出しました。あの時あればなぁと思いました。
アプローチ2. TDK社製マイク(実施例)
次のアプローチは、明細書の実施例において、TDK社製のマイクを使用しているものを調べます。自社が知らない所で、活用されている可能性があります。また、どういった理由で自社の製品が使われているか(自社の強み)が得られるかもしれません。
<用途>
補聴器、船上での通話や、リストバンド型活動量計(TDK製 SilmeeW22)を利用した見守り装置等、既出の用途が見られました。
更に、上述で見つかった「競合他社製マイク(実施例)」を調べると、新たな用途や他社製が選ばれる理由(自社の弱み)が分かるかもしれません。
今回は、省略します。
アプローチ3. 騒音(課題・効果)xマイク(特許分類・解決手段)
次は、課題・効果からのアプローチです。マイクを使う状況下で、騒音を課題や効果としているものを探します。TDKさんのマイクが解決手段となる技術です。
A 要約/効果=(騒+喧噪+噪音+ノイズ+雑音+うるさ+騒がし+耳障り)&(声+話)
B 特許分類=H04R 19/04*+H04R 17/02* +H04R 1/00 320.+H04R 1/02 106 //マイクロホン
C 特許分類=G06F 3/16.+G10L* //・音声入力、出力+音声認識
D タイトル・要約・請求項=||マイク||+マイクロフォン+マイクロホン+集音+収音
論理式= A x (B+C+D) ・・・約7100件
出願日:20070701~(15年間),
出願人:TDKさん除く・・・約1900件(母集団)
たくさんヒットしました。さすがに全部見るのは大変ですね。
優先順位を付けてみていきます。
まずは、TDKさんのマイクの特徴である「小型・軽量・省エネ」を課題/効果としたものに限定しました。
E 要約/効果=小型+軽量+省電力+省エネ+節電
論理式= A x (B+C+D) x E ・・・約300件
出願日:20070701~(15年間),
出願人:TDKさん除く・・・約46件(第一優先)
次に、対象としない分野や、マイク自体の技術、音声処理自体の技術と思われそうなもの、MEMSマイク(小型マイク)の主要メーカーの出願の優先度を下げます。
対象としない分野
・A61 ・・・医学または獣医学;衛生学
マイク自体、音声処理自体の技術
・H04R、G06F、G10Lのみが付与されているもの等を除く
MEMSマイク(小型マイク)主要メーカー
・出典元:https://metoree.com/categories/4318/
・出典元:https://www.indexpro.co.jp/Category/583
の出願人を除く
・・・約500件(第二優先)
残りの約1300件は、タイトルでスクリーニングします。
この他に、件数が少ない分野(≒ライバルが少ない)、既出用途以外の分野、参入したい分野等を優先してみていくのも良いですね。
アプローチ4. 小型・軽量・省電力(課題・効果)NOT マイク(特許分類・請求項)
次に、小型かつ軽量かつ省電力を課題としたもので、マイク機能がまだないもの(未開拓市場)を探してみます。最近では、様々な家電に音声入力機能が付いていますが、まだ付いていなものが見つかれば、市場開拓できますね。
A 課題/効果=(小型+小さ)&(軽量+軽い+軽く)&(省電力+省エネ+節電)
B 特許分類=H04R 19/04*+H04R 17/02* +H04R 1/00 320. +H04R 1/02 106 //マイクロホン
C 特許分類=G06F 3/16.+G10L* //・音声入力、出力+音声認識
D タイトル・要約・請求項=||マイク||+マイクロフォン+マイクロホン+集音+収音
論理式= A NOT (B+C+D)
出願日:20070701~(15年間),
出願人:TDKさん除く・・・約445件
見つかった用途は、後述のまとめ方で紹介します。
補足調査
今度は、特許調査で見つかった出願について、出願人のホームページ等を調べて補足調査します。実際の製品情報等があれば、より実現性が高いものだと思われます。
以下の出願を例に、調べてみました。
【公報番号】 | 特開2018-126808 |
【出願人】 | 日本信号株式会社 |
【発明の名称】 | ブース付ロボット |
【課題】 | 利用者とのコミュニケーションを可能とするロボットであって、対象とすべき利用者を確実に特定しつつ外部ノイズを除去可能とし、さらに、装備の軽量化を含む装備の自由度向上を図ることができるブース付ロボットを提供すること。 |
【解決手段】 | 窓部12によってロボット本体部20に利用者を対面させることで、マイク30による利用者の声の認識を確実にできる。また、例えばロボット本体部20においては、視覚的な出力のみを行い、他の機能については、ブース10の内部の各所に必要に応じて分散して設けることで、装備の軽量化を含む装備の自由度向上を図る。 |
利用者と対話して利用者に案内等を行うロボットのようですが、電車騒音や構内アナウンス等の駅構内の騒音や、交通騒音等種々の音声が発生している状況では、利用者と、利用者以外の声との区別が難しいようです。そこで、ロボットの周りにブースを設置することで、音声認識を向上するという技術です。
出願人である日本信号株式会社さんのホームページを検索しました。
実際に駅案内ロボットがありました。海外からの来訪者に対して、より快適に東京の鉄道を利用してもらえるようにと開発されたようです。発明のようなブースは設置されていないようです。シャープさんがAI技術でサポートしているようですが、マイクはどのようなものが使われているのでしょうか。TDKさんのマイクを使えば、ブースの設置が不要のまま音声認識を向上できるので、良いかもしれません。
隣で紹介されていた自動清掃ロボットにも、対話機能をつけてもいいですね。
ここからは、まとめ方を紹介します。
アウトプット1. 用途一覧
まずは、今回見つかったマイクの用途を使用場面で大別してリスト化してみました。騒音や雑音の中でマイクを必要とする場所が見えてきました。
各用途に関連する公報へのリンクや公報番号を付けると、後から詳細の確認がしやすくなります。
アウトプット2. 機能x用途 マップ
次に、マイクの機能(マイクを使って何をするのか)xマイクの用途で関係性をマップ化してみます。
マップの作成方法は、以下です。
- 抽出した公報から、マイクの機能を読み取る
- 読み取ったマイクの機能、マイクの用途のテキストボックスをそれぞれ作成する
- マイクの機能とマイクの用途とを、テキストボックスを線で結ぶ
- 同じ機能で違う用途、同じ用途で違う機能が出てきた場合も、テキストボックスを追加して線で結ぶ
- 最後に線ができるだけ交差しないようにしたり、同じような用途を近くに配置したりする等の調整をする
上記の流れで、下図のマップが作成できました。
下図の赤色(濃い色)のテキストボックスは、マイクの機能を表しています。その他のテキストボックスは、先ほどの使用場面で大別したマイク用途です。
いかがでしょうか。機能や用途の関係性を俯瞰して、この用途に新しくこんな機能をつけたらどうか、この用途にこの機能をつけるなら、こっちの用途の方が・・・等、更にアイデアが膨らむといいです。
まとめ方として、
騒音源(車、風、人ごみ、呼吸・・・等)や聞きたい音声(声・機械音・・等)で大別しても面白そうです。
また、用途展開したい対象(方法・材料・部品等)や調査目的、報告相手(事業部、経営層等)に応じて、まとめ方もより良いものに変えていければと思います。
アウトプット3. 要約書
最後に、見つかった用途の中からいくつかピックアップして用途ごとに要約書を作成します。
特許から把握した課題やTDK製マイクの利点、インターネット情報等を1枚にまとめます。
出典元: https://mintomo.co.jp/service/koepass
出典元: https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1908/22/news024.html
出典元:https://jpn.nec.com/drone-service/index.html
出典元:https://jpn.nec.com/press/202106/20210617_03.html
出典元:https://stworld.jp/feature/drone/column04/
この他に
- メガネ型翻訳機(ソフトバンクモバイル株式会社 特許-5666219)
- 音声操作可能なウインドスクリーン(本田技研工業株式会社 特許-6050292)
出典元:https://www.honda.co.jp/tech/articles/motor/EngineerTalk_SAB/ - 音声入力可能な寸法測定装置(新日本製鐵株式会社 特許-4608593)
等を紹介したかったですが、割愛いたします。
この後は、いくつかピックアップした中で、お客様が気になるものがあれば、更にその用途や分野について深掘り調査をしていきます。
今回は、特許情報を活用した新規用途探索方法を紹介しました。
いかがでしたでしょうか。少しでも参考にしていただければ幸いです。