全社員発明者時代の到来?生成AIがもたらす出願革命|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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全社員発明者時代の到来?生成AIがもたらす出願革命

弁理士 桑垣 衛

生成AIを活用した大規模特許出願の動向 -請求項が極端に短い出願事例-

ソフトバンクグループ株式会社による生成AI関連技術の特許出願が、近年、かつてない規模で行なわれております。これらの出願は、技術分野が極めて多岐にわたり、既存の出願戦略とは一線を画しています。

特徴的な出願傾向

2025年3月以前は、孫正義氏が発明者として名を連ねていたのに対し、4月以降は多数の発明者が関与する形となっています。同社の全社員に出願活動が広く展開されているものと考えられます。延べ発明者数は6,000人を超えています。その中には100件以上の出願に関与している方も存在しております。ただし、10件以上関与している発明者は全体のわずか1%に過ぎず、約61%が1件のみの関与にとどまっています。多くの社員に展開して出願数のボリュームを稼いでいると思われます。
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スピード優先の出願

これらの出願において特筆すべきは、請求項1の極端な短さです。例えば、2025-5213号公報では、「文書作成支援ツールを含むシステム。」と、わずか十数文字で請求項が構成されております。

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これは、同年3月時点での孫氏の出願の平均である260文字に比べて極めて短いです。通常の特許出願に比べても大きく逸脱しております。出願の一部には、大風呂敷とも言えるような、抽象度の高い表現が見られます。なお、明細書本文にはそれなりのページ数で発明が説明されています。また、多くの出願で、共通した図面が使われています。

請求項1が極端に短い事例
【公開番号】特開2025-5213

【要約】
【課題】本発明は、手作業による控除用書類の作成におけるストレスや意味のわからない計算といった課題を解決しようとする。
【解決手段】手段として、文書作成支援ツールを含むシステム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  手段として、文書作成支援ツールを含むシステム。
【請求項2】
  請求項1に記載のシステムで、必要な文書を写真で取り込む手段を具備することを特徴とする。
【請求項3】
  請求項1に記載のシステムで、記入が必要な箇所を自動的に判定し、記載方法を表示する手段を具備することを特徴とする。

【公開番号】特開2025-52347

【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、入所施設または一人暮らしの状態を監視し、異常な状態を検知した場合に迅速に通知することで、高齢者や介護が必要な人々の安全を確保することである。
【解決手段】モニタリング手段と、異常検知手段とを含む見守りシステム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  モニタリング手段と、異常検知手段とを含む見守りシステム。
【請求項2】
  請求項1に記載の見守りシステムを利用して、入所施設または一人暮らしの状態を監視し、異常な状態を検知した場合には、専用端末またはスマートフォン等に通知を送信する方法。
【請求項3】
  生成AIによる学習手段を含むケアプラン作成システム。このシステムは、請求項1に記載の見守りシステムを利用して、入所施設または一人暮らしの状態を監視し、異常な状態を検知した場合には、専用端末またはスマートフォン等に通知を送信し、生成AIにより最適なケアプランを作成する方法を実行する。

共通した図面の事例 

また、多くの出願(例えば、特開2025-44200~特開2025-44204)で、共通した図面が使われています。
今回の出願では、2つの特許事務所が関わっています。異なる事務所(例えば、特開2025- 46787)でも、共通した図面が使われています。

公開番号

主題/技術分野

主な特徴

特開2025-44200

投資家向けQ&Aシステム

決算報告書の分析・
感情分析による応答

特開2025-44201

災害対応アドバイス提供システム

緊急速報メールの解析による
行動指示生成

特開2025-44202

教育プラットフォーム

教師・学生にカスタマイズ教育

特開2025-44203

操作支援チャットAI

YES/NO判定による対話AI強化

特開2025-44204

顧客接客支援システム

顧客情報×感情分析による接客支援

特開2025- 46787

キャリアプラン支援システム

キャリアプランと部署の
ミスマッチを解消する支援

公開番号

図1~図10(ハード構成)

図11~(処理フロー)

特開2025-44200
(投資家Q&A)

– 図1:処理システム構成図(汎用)

– 図2:スマートデバイスと
データ装置構成

– 図3~8:装置別
(眼鏡・ヘッドセット・ロボット)

– 図9, 10:感情マップ

– 図11~16:投資支援の実施例、
応用例のシーケンス

– 図17~22:感情連携のシーケンス

特開2025-44201
(災害対応)

構成は上記と同様
(図番号・順序すべて同一)

– 図11~17:災害対応の実施例、
応用例のシーケンス

– 図17~22:感情連携のシーケンス

特開2025-44202
(教育AI)

構成は上記と同様
(図番号・順序すべて同一)

– 図11~16:教育支援の実施例、
応用例のシーケンス

– 図17~22:感情連携のシーケンス

特開2025-44203
(操作支援AI)

構成は上記と同様
(図番号・順序すべて同一)

-図11~16:操作支援の実施例、
応用例のシーケンス

-図17~22:感情連携のシーケンス

特開2025-44204
(接客支援)

構成は上記と同様
(図番号・順序すべて同一)

-図11~16:接客支援の実施例、
応用例のシーケンス

-図17~18:感情連携のシーケンス

特開2025- 46787
(キャリアプラン支援)

構成は上記と同様
(図番号・順序すべて同一)

なし

 

網羅的な技術分野への展開

出願されている発明が、特定の技術分野に偏ることなく、非常に広範な領域を網羅しています。
このような出願戦略は、これまでに類を見ないスケールです。
出願の狙い目は、技術の独占や防衛的出願等がありますが、新たな産業構造への布石とも言えるものです。
今後もこの動向には注視が必要であり、特許制度全体への影響も含めて議論されることが予想されます。

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