限定公開AI関連発明の記載要件について|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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限定公開AI関連発明の記載要件について

(パテントメディア2021年9月発行第122号掲載)
弁理士 押見幸雄

近年、AI関連発明の特許出願が急増しています。国内での出願件数が、2015年は1304件であったのに対して、2018年では4728件と3倍以上になったことが報告されています。1)

AI関連発明において気を付けなくてはならないことの一つに、明細書の記載内容が挙げられます。特許庁は、平成31年にAI関連技術に関する審査事例を公表しました。この中で、明細書の記載内容に関する要件である記載要件について説明しています。また、特許庁が令和3年4月に公表した「漫画審査基準 AI・IoT編」の中でも記載要件について説明しています。

本稿では、特許庁が公表した審査事例を元に、記載要件のうち、実施可能要件の判断について説明します。また、実際の審査事例を紹介して、明細書作成時の留意点について説明します。

1.AI関連発明の実施可能要件の概要

参考図1に示すように、AI関連発明では、教師データに基づいて機械学習を行い、学習済みのモデルであるAIモデルを作成するケースが多いです。作成したAIモデルを用いて、特定の入力情報Qから判定結果Aを導き出します。

[参考図1]
限定公開AI関連発明の記載要件について | 2021年

特許庁が公表した例では、例えば、教師データとして、多数の人物のフェイスラインの角度と、その人物の身長と体重の実測値とを用いて、AIモデルを作成しています。作成したAIモデルは、入力情報Qとして、特定の人物の顔写真と身長とを入力します。すると、判定結果Aとして、その人物の体重の推定値を出力します。何ともおせっかいなAIモデルです。この発明における実施可能要件の判断としては、以下の3つの要件のいずれかを満たしている必要があります。

①;教師データに含まれる複数種類のデータの間の相関関係等が明細書等に記載された説明や統計情報に裏付けられている。

②;出願時の技術常識に鑑みて、教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが推認できる。

③;教師データに含まれる複数種類のデータの間の相関関係等が実際に作成した人工知能モデルの性能評価により裏付けられている。

上記①~③について、上記の審査事例を用いて説明します。

①は、例えば教師データに含まれるフェイスラインの角度と、体重との相関関係を示すデータが、明細書に記載されている必要があることを意味します。相関関係を示すデータが明細書に記載されていない場合、実施可能要件違反となる可能性があります。逆に、相関関係を示すデータが明細書に記載されている場合、②の相関関係の存在は推認できなくてもよく、③の性能評価のデータは、必ずしも明細書に記載されていなくてもよいということになります。

②は、技術常識を鑑みれば、人物のフェイスラインの角度と、その人物の体重との関係に相関関係が存在すると推認できる必要があることを意味します。相関関係が存在すると推認できない場合、実施可能要件違反となる可能性があります。逆に、相関関係が存在すると推認できる場合、①の相関関係を示すデータや、③の性能評価のデータは、必ずしも明細書に記載されていなくてもよいということになります。

③は、作成したAIモデルを用いて、特定の人物の顔写真と身長から、その人物の体重の推定値を評価した性能評価が、明細書に記載されている必要があることを意味します。性能評価が明細書に記載されていない場合、実施可能要件違反となる可能性があります。逆に、性能評価が明細書に記載されている場合、①の相関関係を示すデータは、必ずしも明細書に記載されていなくてもよく、②の相関関係の存在は推認できなくてもよいということになります。

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