食品の用途発明とその活用方法について|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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食品の用途発明とその活用方法について

(パテントメディア2017年1月発行第108号掲載)
弁理士 押見幸雄

食品の用途発明に関する審査基準が改訂され、2016年4月1日より運用が開始されました。
従前は、公知の食品の新たな属性を発見し、新たな属性に基づいて用途限定した請求項を作成しても、新規性は認められませんでした。これに対し、改訂後の審査基準では、食品に関する発明の請求項に用途限定がある場合には、用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有するものとして認定されることになりました。すなわち、食品の用途限定が、発明を特定する構成要件として認められることになりました。本稿では、食品の用途発明の概要と、その活用方法について説明したいと思います。

1.食品の用途発明の概要

図1に示すように、例えば、成分Aに「抗アレルギー」という新たな属性を発見し、「抗アレルギー用食品」に用いるとします。この場合、「成分Aを有効成分とする抗アレルギー用食品。」という請求項を作成すれば、「抗アレルギー用」という用途限定が構成要件として認められます。したがって、成分Aを含む食品が公知であったとしても、発明の新規性は否定されません。

進歩性については、図2に示すように、公知技術に基づいて、成分Aを含む従来の食品を抗アレルギー用食品に用いることが容易でない場合、発明の進歩性は否定されません。

また、同様に、図3に示すように、成分Bを有効成分として含む抗アレルギー用食品において、成分Bを成分Aに置き換えることが容易でない場合、発明の進歩性は否定されません。

ここで注意しなければならないのは、請求項中に用途限定が付されていても、用途限定のないものとして解釈される場合があります。植物・動物については、用途限定が付されていたとしても、そのような用途限定は、植物・動物の有用性を示しているにすぎないから、用途限定のない植物・動物そのものと解釈されます。表1は「特許審査における食品の用途発明の認定についての説明会資料」を参考にして、食品の用途発明の記載例をまとめたものです。例えば、表1に示すように、「○○用バナナ。」は、バナナの有用性を示しているにすぎないため、用途限定は認められません。また、「○○用種子。」、「○○用卵。」は、植物・動物の体の一部であるため、同じく用途限定は認められません。これに対し、「○○用バナナジュース。」は、バナナを加工したものであり、植物そのものではないため、用途限定が認められます。

今回の審査基準の改定を受けて、すでに出願済みの案件を、食品の用途発明に補正することも可能です。例えば、請求項の記載が、「有効成分Aにより・・・させる方法。」という出願済みの案件があった場合、補正の要件を満たしていれば、「成分Aを有効成分とする○○用剤。」という食品の用途発明に補正することが可能です。

表1 食品の用途発明の記載例

記載例
判断
 
成分Aを有効成分とする○○用剤。
用途限定が認められる。
・・・○○用組成物。
同上
・・・○○用食品組成物。
同上
・・・○○用食品。
植物・動物そのものと判断される場合、用途限定のない食品として解釈される。
・・・○○用バナナ。
×
植物であるバナナの有用性を示しているにすぎない。
・・・○○用バナナジュース。
加工されていればOK。
・・・○○用種子。
・・・○○用卵。
×
植物・動物の体の一部はダメ。
・・・○○用微生物。
×
微生物そのものはダメ。
・・・○○用牛乳。
・・・○○用ヨーグルト。
・・・○○用ハチミツ。
・・・○○用メープルシロップ。
加工されていると判断されればOK。
・・・○○用加工牛肉。
・・・○○用冷凍肉。
加工の程度によって変わる。

 

2.食品の用途発明の活用方法

食品の用途発明の活用方法としては、製品のパッケージに新たな属性(食品の機能)を表示して、他社製品との差別化を図ることが考えられます。しかし、図4に示すように、厚生労働省が食品と分類するものの中で、「特定保健用食品」、「栄養機能食品」、「機能性表示食品」といった保健機能食品以外の一般食品は、機能性の表示をすることができません。

つまり、製品のパッケージに食品の機能を表示するためには、保健機能食品であることが条件になります。ここで、「栄養機能食品」は、例えば、「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です。」という表現のように、あくまで、栄養成分の機能を表示するものです。そのため、食品の用途発明における機能とは趣旨が異なります。したがって、食品の用途発明に関する機能を表示するには、「特定保健用食品」、又は、「機能性表示食品」が適しているといえます。

以下では、「機能性表示食品」について説明します。「機能性表示食品」の制度は、平成27年4月から開始されました。この制度では、「特定保健用食品」と同様に、特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)食品の機能性を表示することができます。例えば、「おなかの調子を整えます」、「脂肪の吸収をおだやかにします」といった表示が可能になります。
「機能性表示食品」の制度の特徴は、特定保健用食品のように国が安全性と機能性の審査を行うのではなく、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示することです。具体的には、事業者が、国の定めた一定のルールに基づき、安全性や機能性に関する評価を行うとともに、生産・製造、品質の管理体制、健康被害の情報収集体制を整え、商品の販売日の60日前までに消費者庁に届け出ることとなっています。国の審査を受ける必要がない点において、事業者にとって、「機能性表示食品」は、「特定保健用食品」よりも利用しやすい制度であるといえるかもしれません。

3.まとめ

以上のように、食品の用途発明の活用方法としては、特許を取得するとともに、「機能性表示食品」としての機能をパッケージに表示し、消費者にアピールすることが考えられます。ただし、「機能性表示食品」は、あくまで事業者の責任において届出が行われるため、「機能性表示食品」の制度自体が、いかにして消費者の信頼を得て、制度として定着したものとなるのかが、食品の用途発明の活用を図るうえで重要になると思います。

参考資料

  • 特許審査における食品の用途発明の認定についての説明会資料
     JAFBIC 一般社団法人 日本食品・バイオ知的財産権センター
  • 機能性表示食品に関するパンフレット
     消費者庁
  • 機能性表示食品の届出等に関するガイドライン
     消費者庁