限定公開【判例研究】令和2年(ワ)第13626号 「ガススクラバー流体のための浄化設備」事件
2025年3月21日掲載
弁理士 立山千晶
本件特許発明
【請求項1】
A 排出ガススクラバー流体ループ(9)からの汚染されたスクラバー流体のための浄化設備であり、
B 前記スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取り除くための手段と、
C 前記汚染されたスクラバー流体の前記一部から少なくとも汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を分離するためのディスクスタック遠心分離機(12,12’)を備えており、
D1 その分離機は、分離ディスク(15,15’)のスタックを備えた分離空間(14,14’)を取り囲んでいるローター(13,13’)と、
D2 前記分離空間の中へ延びている前記汚染されたスクラバー流体の前記一部のための分離機入口(11,11’)と、
D3 前記分離空間から延びている浄化されたスクラバー流体のための第一の分離機出口(16,16’)と、
D4 前記分離空間から延びている前記汚染物質相のための第二の分離機出口(17,17’)を備えており、
E さらに、前記汚染されたスクラバー流体の前記一部を前記分離機入口に案内するための手段と、
F 前記浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出するための手段と、
G 前記汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するための手段を備えている
H 浄化設備。
※下線は本件特許に対してなされた異議申立に対して訂正がなされた箇所(後ほど詳述)
【図1】
被告製品1(主位的主張)及び被告製品2
1a 排ガス再循環ユニットに噴霧される噴霧水の循環からの、汚染された噴霧水のための浄化設備であり、
1b 前記噴霧水の循環から汚染された噴霧水の一部を処分のために噴霧水の循環から取り除くための手段と、
1c 前記汚染された噴霧水の前記一部から少なくとも汚水と浄化された噴霧水を分離するためのディスク型遠心分離機を備えており、
1d1 その分離機は、積み重ねた分離板を備えた空間を取り囲んでいるローターと、
1d2 前記空間の中へ延びている前記汚染された噴霧水の前記一部のための分離機入口と、
1d3 前記空間から延びている浄化された噴霧水のための第一の分離機出口と、
1d4 前記空間から延びている汚水のための第二の分離機出口を備えており、
1e さらに、前記汚染された噴霧水の前記一部を前記分離機入口に案内するための手段と、
1f 前記浄化された噴霧水を前記第一の分離機出口から環境に放出するための手段と、
1g 前記汚水を前記第二の分離機出口から回収するための手段を備えている、
1h 浄化設備。
(1)当該水処理システムは、外部排ガス再循環ユニットに噴霧された噴霧水の循環経路から一部の噴霧水を外部バッファタンクを介して水処理システムポンプにより引き込む。
(2)当該水処理システムは、当該一部噴霧水から、分離機により、汚染物質を含む汚水を分離して、一方の分離機出口から、陸揚げ向けの外部EGR汚水タンクに回収し、他方の分離機出口から浄化された水を出してその一部を船外排出する。
原告主張
被告は、「第一の分離機出口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、浄化されたスクラバー流体が、ディスクスタック遠心分離機(の第1の分離機出口)から、更なる処理を行うことなく船外排水設備(環境に放出するための手段)に送られ、環境(海)に放出される構成を意味するところ、被告製品例1及び2では、「分離機」による分離後に更に「フィルタ」により油分等を除去して、初めて「浄化されたスクラバー流体」が生成されることになると主張する。
被告:被告製品は海に放出する前にフィルタ処理を介する
原告主張①
しかし、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化されたスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要するとの記載はなく、本件異議申立事件の審理経過においても、原告は、そのような主張を行っていない。
原告主張②
また、原告は、本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定しているといえる。
原告主張③
さらに、本件明細書には、「したがって、浄化設備は、フィルターまたは他の処理ステップについて同じ必要がなく」(【0014】)との記載があるが、これは、「フィルターまたは他の処理ステップについて」、「油粒子などのスクラバー流体中のより軽量な液状有機残留物」(同)を分離する作業が独立して必要ないということをいうにすぎず、「フィルターまたは他の処理ステップ」が完全に不要であるとか、これらと両立しないことを述べるものではない。現に、同じ段落において、「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」との記載があり、裏を返せば、ディスクスタック遠心分離機によっても分離し得ない汚染物質相が残存し得るということであるから、その場合に補助的にフィルタ等による分離を行うことは排除されない。
原告:放出前のフィルタ等による処理を排除するものではない
したがって、被告の上記主張は理由がない。
被告反論
被告反論①
本件発明における「第一の分離機出口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、浄化されたスクラバー流体が、ディスクスタック遠心分離機(の第1の分離機出口)から、更なる処理を行うことなく船外排水設備(環境に放出するための手段)に送られ、環境(海)に放出される構成を意味する。このことは、特許請求の範囲の記載上、「環境に放出するための手段」による放出対象が、分離機(の第1の分離機出口)「から」出てくる「浄化されたスクラバー流体」であると明記されていることからも明らかである。
被告反論②
また、本件明細書で、遠心分離機及びオイルフィルターを備える浄化設備である先行技術が有するキーコンポーネントの点検修理(オイルフィルター部品(油吸着マット)の定期的な確認及び交換)等の課題を本件発明が解決すること(【0009】及び【0014】)が記載されている。
被告反論③
さらに、本件異議申立事件において、原告は、本件発明の構成要件Fについて、浄化されたスクラバー流体が、ディスクスタック遠心分離機(の第1の分離機出口)から、更なる処理を行うことなく、船外排水設備(環境に放出するための手段)に送られて環境(海)に放出されるとの理解に基づいた主張をしており、特許庁も、同様の理解の下に、本件発明と特開2007-7581号公報に記載された発明を対比して、「本件発明1(注:本件発明)の「環境に放出するための手段」は、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出するための手段」であるのに対して、甲2-1発明(注:特開2007-7581号公報に記載された発明)の「系外(例えば既存の排水処理設備)に放出される構成」は、固液分離装置35で分離された液体分34をそのまま系外に放出する手段ではなく、系外に放出する前に廃液処理装置25を介して、さらに水銀を除去する処理がなされてから、系外へ放出する手段である点。」が相違点であると認定している。
しかし、被告製品例1は、汚染されたスクラバー流体を「分離機」のみで「浄化されたスクラバー流体」にすることはできず、「分離機」による分離後に更に「フィルタ」により油分等を除去して、初めて「浄化されたスクラバー流体」が生成され、「浄化されたスクラバー流体」は、「フィルタから」(被告が製造販売しない)船外排水設備に案内され、船外排水設備により環境(海)に放出されることになる。
したがって、被告製品例1は、「第一の分離機出口から環境に放出するための手段」の構成を備えない。
原告は、本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定していると主張する。
被告反論④
しかし、本件特許の【請求項10】は、遠心分離機により分離された「浄化されたスクラバー流体」の「品質が所定のレベルよりも低い場合」に当該「浄化されたスクラバー流体」を遠心分離機に戻すなどする手段を備える浄化設備に関する発明であり、遠心分離機により「浄化されたスクラバー流体」を生成し得ることが前提となっている。これに対し、被告製品シリーズでは、遠心分離機による分離では「浄化されたスクラバー流体」が生成できず、フィルタ等を使用して初めて「浄化されたスクラバー流体」が生成されることになるものであるから、いずれにしても本件発明の技術的範囲に含まれるものではない。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
判決
(ア)構成要件Fの解釈
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