限定公開【判例研究】ネットワーク型システムなどのIoT発明の適切な権利を取るために
2024年3月19日掲載
弁理士 岡田恭伸
副所長の岡田です。今回は、ネットワーク型システムなどのIoT発明について、より使える権利を取るためのクレームドラフティングについてお話をしようと思います。
この話をしようと思ったのは、もちろんお客様の関心が高い内容であると感じているためです。では、なぜお客様の関心が高いのか?と言えば、昨年判決が出た令和4年(ネ)第10046号(大合議判決)の影響と、どうやって出願していけばいいのか?という疑問が大きいからではないかと感じております。
まず、大合議判決がなぜIoT発明と関連するかというと、IoT発明は、サーバと端末とによって構成されるケースが多いです。この場合、サーバが国外にあるときに日本の特許権で権利行使をすることができるのか?という属地主義問題があります。大合議判決は、この属地主義問題について新たな解釈を示しています。したがって、大合議判決は、IoT発明について大きく関連しています。
次に、どうやって出願していけばいいのか?という疑問について説明しますと、大合議判決については既に色々な所で解説が出されていますが、「じゃあ実際にどうやって出願していけばいいのか?」という問いに対する回答がなかなか難しい気がしています。
私は、以前より、現行法及び判決の傾向を踏まえて、クレームドラフティングを始めIoT発明を適切に保護するためのテクニックを考え、いくつか執筆やセミナーを行ってきました。また、弊所では、属地主義に関する判例について研究を進めておりました。この点については、弊所の二宮弁理士が解説しています「属地主義に関する判例紹介【その1】」及び「属地主義に関する判例紹介【その2】」をご参照いただきたいと思います。
今回は、大合議判決を解説するとともに、当該大合議判決及び二宮弁理士が解説している一連の判例を踏まえて、私なりのクレームドラフティングについて見解を述べたいと思います。
まず、大合議判決について解説します。この大合議判決は、二宮弁理士が解説しています「属地主義に関する判例紹介【その1】」の控訴審になります。可能であれば、こちらを一度お読みいただいた後に、この解説を読んでいただけると理解が深まると思います。
さて、本件発明は、以下のとおりです。
赤色の部分が本件発明の要部です。簡単な模式図を以下に示します。
クレーム中の赤色の部分が要部になりますが、今回は特許性については重要ではありませんので、本件発明は、動画の上にコメントを流して表示させる場合に、第1コメント及び第2コメントを重ならないように表示させる技術というくらいの理解で良いと思います。
大切な点は、端末装置からサーバにリクエストを出して、それを受けてサーバから端末装置に対して動画+コメントを送信している点、すなわち端末装置とサーバとによって発明が構成されている点です。
これに対して、イ号製品は、下記のとおりです。
被告システムの処理は、本件発明の処理と同様であり、被告システムは本件発明の構成要件を全て充足しています。問題は、サーバが、日本ではなく、米国にある点です。このため、構成要件の全てが日本国内に存在しません。このようなケースについて、日本の特許権が権利行使できるのか、もっと言えば被告システムの実施行為(生産)が日本国内で行われていると言えるのかという点が争点となっていました。
これについて、日本の裁判所は、従前は「権利行使できない」との立場を維持してきましたが、今回の大合議判決で「条件付きで権利行使できる」という判断を下しました。以下、この点について解説します。
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