限定公開【判例研究】令和4年2月28日判決言渡 令和2年(ワ)第7486号 「魚体内の血液の瞬間除去装置」特許権移転登録手続等請求事件
2024年3月4日掲載
弁理士 戸部田学
1.はじめに
今回は、大阪地裁での、令和2年(ワ)第7486号 特許権移転登録手続等請求事件を紹介します。
2.事件の概要
被告が単独で出願した本件特許について、冒認出願又は共同出願違反であるとして、その持分の全部又は一部について特許法第74条第1項に基づく移転登録手続をすることを求めた事件です。
特許権にかかる発明の名称は、「高圧水の弓門内噴射による魚体内の血液の瞬間除去装置および方法」というものです。魚の生き締めにおける血抜きの発明に関する事件です。
3.当事者
原告は、水産会社に勤務し、活魚の処理業務を日常的に行っている者になります。原告は、原告の実施する血抜き方法がテレビ番組や新聞、雑誌等で紹介され、単著で血抜き方法に関する本を出版するなど、魚の捌き方、血抜き方法等では相当著名な者になります。また、原告は、血抜き方法を実演した動画を「YouTube」に投稿している者になります。
被告は、バーテンダーとしての勤務を契機に魚の処理に興味を持ち、これを研究していた者になります。
※原告も被告も個人になります。原告と被告との交流は、原告がYouTubeにアップロードした動画をきっかけに主にSNSを通じて始まりました。
4.本件特許権
特許番号:特許第6633229号
発明の名称:高圧水の弓門内噴射による魚体内の血液の瞬間除去装置および方法
従来技術および課題の概略
【0002】
魚を締める目的は、乳酸等の蓄積による味の劣化の防止、死後硬直を遅らせることによる腐敗の抑制、残存血液内での細菌の繁殖の抑制、残留血液の酸化による残留血液自体の腐敗の防止・・・が挙げられる。
【0003】
魚を締める方法として、従来より、・・・ピアノ線等の細長い器具を魚の脊髄に沿って突き通すことにより、神経を破壊し死後硬直を遅らせて鮮度を保っている。
【0004】
しかしながら、細い線材を魚の脊髄に挿入するのは熟練した技術が必要となり、容易かつ効率的に魚を締めるのが困難であることや、脊髄の除去の他に血抜きが完全に行われないと残余の血で細菌が繁殖することとなり、満足な食感を維持する生き締め(活〆)を行う事が出来ないという問題点があった。
【0005】
このような問題点を解決するために、・・神経弓門に圧縮空気またはガスを噴射し、神経抜きと血抜きを行う技術が開示されている。
【0006】
液体を用いていないため洗浄が不十分となり、残余の血液中で細菌の繁殖の可能性がある等、衛生面でも十分とは言えないという問題があった。充分な洗浄を追及して水洗い若しくは水中に浸ける等の余分な工程が必要であった。
魚の大きさに応じて弓門の大きさも異なるため、・・全ての魚に対応したものではなく、利便性に欠けるという問題点も内在していた。
魚が暴れることにより弓門に挿入する針(ノズル先端部)が曲がったり折れたりするという問題点も内在していた。
特許発明
【請求項1】
魚(10)の切断された尾部(12)より血液弓門(14)内に液体(20)を圧力を掛けて噴射することにより魚を生き締め(活〆)する魚体内の血液の瞬間除去装置(1)が、
液体に圧力を掛けて送出する加圧装置(100)と、該加圧装置から送出される圧力の掛かった液体(20)を送るためのホース(200)と、該ホースに接続される前記液体の流路の開閉を行うバルブ(300)と、該バルブに接続されるバルブが開状態の時に前記液体を噴射するノズル(400)と、からなり、
前記バルブ(300)は、ボタン(310)の押下げ乃至引上げによって流路(320)の開閉を行うとともに、前記ノズル(400)は、あらゆる大きさからなる魚の血液弓門の開口を密着封止しながらノズル先端部を挿入するとともに液体噴射中に魚が動くことによるノズル先端部の折れ、曲がり、破損を防止するため、太径の元部(410)から先端部(420)に向かって外形を先細のテーパ状に形成し、かつ、先端部中央の穴径を前記元部(410)の穴径より狭く形成した事を特徴とする高圧水の弓門内噴射による魚体内の血液の瞬間除去装置。
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