限定公開【判例研究】令和5年11月30日判決言渡 令和4年(行ケ)第10124号審決取消請求事件(卵パックの移載ロボットシステム事件)
2024年2月21日掲載
弁理士 金森晃宏
1.はじめに
今回は、令和4年(行ケ)第10124号審決取消請求事件から、裁判所が実施可能要件及びサポート要件について判示した内容を紹介いたします。なお、本文中の太字及び図面中の赤字の加工は筆者によるものです。
2.事件の概要
原告:共和機械株式会社
被告:株式会社ナベル(特許権者)
本件特許:特許第6989989号
発明の名称:卵パックを移載するロボットシステムおよび移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法
経緯
○令和3年12月7日 特許権の設定登録(請求項の数3)
○令和4年3月15日 特許法第36条第4項第1号、同条6項1号、同項2号
違反を理由として特許無効審判を請求
○令和4年11月8日 請求不成立の審決
○令和4年12月9日 本件訴訟の提起
3.本件特許の概要
(1)特許請求の範囲
【請求項1】
ロボットヘッドとロボットアームと制御部とを備え、展開された使用状態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複数枚有する移動式のラックに前記ロボットヘッドで保持した卵パックを移載するロボットシステムであって、
収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段をさらに備え、
前記展開させる手段は、卵パックを移載するロボット又は卵パックを移載するロボットとは異なる装置であり、
前記ロボット又は前記装置は、卵パックが移載された棚板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開させる、ロボットシステム。
【請求項2】
前記展開させる手段は、棚板を把持する手段を含む、請求項1記載のロボットシステム。
【請求項3】 省略(請求項1に対応する方法)
(2)明細書(抜粋)
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2記載の移動式のラック(ロールインナー)に卵容器を収納する作業は、人手により行われており、いまだ自動化が達成されていない。
【0010】
卵パックをロールインナーに収納しようとした場合、折り畳まれている棚板を展開操作しなければならないので、人手に代わってロボットを用いる特許文献1に開示されている技術を、そのまま適用することができないという課題があった。
【0022】
…(略)…ロボットアーム2は、例えば、6軸垂直多関節ロボット等の、任意に作動する慣用の多関節ロボットが適用される。この他に、ロボットアーム2は、ロボットヘッド1をX軸、Y軸およびZ軸に対して、任意に移動させることができるロボットまたは装置など種々のものを採用できる。…(略)
【0032】
棚板R1の一段分を移載した後、図6及び図7に示すように、制御部3は、折り畳み式の棚板R1を展開させる。すなわち、折り畳み式の棚板R1は、卵パックPを移載する際と同じロボットヘッド1を用いて、収納状態から使用状態に展開される。具体的には、制御部3は、把持部11が棚板R1を吸着し、その状態のままロボットヘッド1を手前側に移動させることで、折り畳み式の棚板R1が展開される。…(略)
【0043】
折り畳み式の棚板R1を展開させるステップは、卵パックPを移載するロボットとは異なる装置を用いるなどしてもよい。
(3)図面
(4)解説
請求項1の下線部分は、拒絶理由対応時に補正により追加された構成です。卵パックを移載するロボットによって収納状態の棚板を使用状態に展開させることは、図面を参照しつつ実施形態として記載されています。一方で、卵パックを移載するロボットとは異なる装置によって収納状態の棚板を使用状態に展開させることは、【0043】の記載のみとなっており、実施可能要件及びサポート要件を充足するかについて争われました。
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