【判例研究】平成28年3月28日判決言渡 「書画カメラ」事件 (平成27年(行ケ)第10156号 審決取消請求事件) -主として、請求項に係る発明と引用発明との対比について-
2017年1月4日掲載
弁理士 福井宏司
1.事案の概要
本件は、特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟であって、原告の請求が却下されたものである。
原告(無効審判請求人) 株式会社エルモ社
被告(特許権者) セイコーエプソン株式会社
2.事案の経緯
平成26年5月9日 被告が特願2009-12690号の一部を分割出願(特願2012-282796号)
発明の名称「書画カメラ」
平成26年5月9日 特許権の設定登録、特許5533998号(「本件特許」という)
平成26年9月4日 原告が本件特許の請求項1に係る発明(「本件発明1」という)及び請求項5に係る発明について特許無効審判を請求(無効2014-800151号)
[本件発明1を無効にすべき理由];甲第1号証又は甲第2号証と、甲第3号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明をすることができた
平成27年7月7日 請求棄却の審決
平成27年8月7日 本件訴訟の提起
平成28年3月28日 請求棄却の判決言渡、知財高裁第2部、裁判長裁判官 清水節
3.争点(原告主張の審決取消事由)
(1)甲1発明の認定(本件発明1の「本体部」に相当する構成要素の認定)の誤り。
(この主張は、本件訴訟に入ってからの原告の主張)
(2)甲1発明の認定の誤りが結論(容易想到性の判断)に影響すること。
4.本件発明1
【請求項1】(本件発明1)…下線及び符号は筆者が記載したものである。
A 先端にカメラ136を有する第1アーム部130と前記第1アーム部を支持する第2アーム部120とを有し、前記第1アーム部と前記第2アーム部とを折り畳み可能なアーム部と、
B 非使用時には前記アーム部を折り畳んだ状態で収納する収納凹部114と、操作部112とを有する本体部110とを有する書画カメラ100であって、
C 非使用時には、前記アーム部を、前記第1アーム部と前記第2アーム部と前記本体部とがZ字状になるように折り畳んで前記収納凹部に収納し、
D 使用時には、前記アーム部を、前記第1アーム部と前記第2アーム部とが逆L字状になるように展開して使用するように構成され、
E 前記アーム部を折り畳んで前記収納凹部に収納したとき、前記アーム部の上面と前記操作部の上面とが略面一となるように構成されていることを特徴とする書画カメラ。
<本件特許の明細書における「本体部」に関連する記載の抜粋>
【0002】 書画カメラは、文書や画像などを取り込んでパソコンやプロジェクターなどにデータを送り多人数に同時に見せることのできる機器であり、…。
【0006】 そこで、本発明は、従来の書画カメラよりも可搬性のよい書画カメラを提供することを目的とする。
【0028】 実施形態に係る書画カメラ100は、…第1アーム部130と第2アーム部120とを折り畳み可能なアーム部と、…非使用時にはアーム部を折り畳んだ状態で収納する収納凹部114と操作部112とを有する本体部110とを有する。
【0029】 本体部110(「100」との誤記を筆者訂正)は、…、アーム部を展開したときに書画カメラが転倒しないようにするための転倒防止ストッパ116をさらに有する。…。また、本体部110(「100」との誤記を筆者訂正)は、図1に示すように、プロジェクター、パソコンその他の電子機器に書画カメラ100を接続するためのUSBコネクタ(USB Aコネクタ118及びUSB Bコネクタ119)を有する。
【0041】 次に、USBケーブルを用いて、予め準備しておいたプロジェクター(図示せず。)に書画カメラ100を接続する。これによって、書画カメラ100を使用することができる状態となる。
【0042】 …。まず、プロジェクターの電源を入れる。すると、USBケーブルを介して、書画カメラ100に電源が供給されるようになる。次に、書画カメラスイッチ140を入れる。すると、書画カメラ100の電源が入る。
5.甲1発明
審判において、原告主張の通り、甲1には以下に分説した書画カメラに係る発明(即ち「甲1発明」)が記載されていると認定された。分説符号は特許庁が付したものである。
a ビデオカメラ本体部32と、 一端側に前記ビデオカメラ本体部32が接続された棒状部材45と、前記棒状部材45を支持する棒状部材42とを有し、前記棒状部材42と前記棒状部材45とを折り畳み可能なアーム40と、
b 非使用時には前記ビデオカメラ本体部32を配置する段部36と操作部35とを備える回路収納部34と、ビデオカメラ支持部33を有する書画カメラ装置であって、
c 非使用時には、前記アーム40を折り畳んで前記ビデオカメラ本体部32を前記段部36に配置し、
d 使用時には、前記アーム40を、前記カメラ本体部32が接続された前記棒状部材45と前記棒状部材42とが折れ曲がるように展開して使用するように構成される
e 書画カメラ装置。
<甲1明細書における、「本体部」に関連する記載の抜粋>
【0001】【発明の属する技術分野】 この発明は、撮像した映像を映像信号に変換して出力する書画カメラ装置に関する。また、この発明は、プロジェクタ本体に書画カメラ装置を着脱自在にした書画カメラ装置付きデータプロジェクタに関する。
【0009】【発明が解決しようとする課題】 上述した従来の書画カメラ装置付きデータプロジェクタでは、書画カメラ部がプロジェクタ本体に一体的に結合しているため、使用勝手が悪くを(「を」は不要?)、操作しにくいという問題があった。
【0010】 この発明は上記問題点を除去し、書画カメラ部を有効活用できる書画カメラ装置及び書画カメラ装置付きデータプロジェクタの提供を目的とする。
【0026】 図1に示すように、書画カメラ装置10は、書画カメラ部31に転倒防止用のアタッチメント11を取付けたものである。
【0027】 書画カメラ部31は、撮像対象物の撮像を行い撮像した映像を映像信号に変換して出力するビデオカメラ本体部32と、このビデオカメラ本体部に一端側が取り付けられたアーム40と、このアーム40の他端側を取り付けるビデオカメラ支持部33と、から構成されている。
【0031】 書画カメラ部31は、板状に形成されたビデオカメラ支持部33の背面の下側に回路収納部34を取付け固定している。回路収納部34は、上面の図中右側が操作キーを設けた操作部35となり、図中左側が低く形成された段部36となっている。
【0028】 一方、アタッチメント11は、前記ビデオカメラ支持部33を着脱自在に取り付ける取付台12と、この取付台12に設けられ、前記取付台12に前記ビデオカメラ支持部33を取り付けたとき、前記ビデオカメラ支持部33の転倒防止を行う転倒防止機構(転倒防止脚)13,14と、から構成されている。
【0032】…。アーム40は、他端側から回動部41、棒状部材42、回動部43,44、棒状部材45、回動部46の順番で連結している。アーム40の一端側の回動部46は被写体50の撮像を行うビデオカメラ本体部32に接続される。
【0033】 書画カメラ部31は、回動部41,43,44,46の回動により、ビデオカメラ本体部32の位置調整が行えるとともに、アーム40を折り畳んだ状態で段部36にビデオカメラ本体部32を配置できるようになっている。
【0036】 …、取付台12の内部には、電源供給及び信号処理の回路が設けられており、アタッチメント11はコネクタ18を介して図1の書画カメラ部31に電力を供給するとともに信号の授受を行うようになっている。
【0037】 これにより、書画カメラ装置10は、書画カメラ部31にアタッチメント11に取り付けることにより、書画カメラ部31が撮像した画像の映像信号をアタッチメント11から図示しない信号ケーブルを介して出力させることができる。
6.争点についての原告の主張及び裁判所の判断
(1)甲1発明の認定の誤りの点
[原告の主張の要旨]
審決は、本件発明1における「本体部」に相当する甲1発明の構成要素は、「ビデオカメラ支持部33と回路収納部34」とからなる部材であると認定しているが、かかる認定は誤りである。
本件明細書の【0029】、【0041】の記載によれば、「本体部」は、プロジェクタ、パソコン等にケーブルで接続され、カメラで撮像した画像の映像信号をプロジェクタ、パソコン等に出力する機能を備えたものであることは明らかである。
一方、甲1の【0036】、【0037】等の記載から明らかなように、書画カメラ装置10において書画カメラ部31で撮像した映像信号は、ビデオカメラ支持部33にねじ47で一体的に固定されるアタッチメント11から出力されることが記載されている。
してみると、本件発明1の「本体部」に相当する甲1発明の構成部材は、書画カメラ部31の構成部材である「ビデオカメラ支持部33と回路収納部34」及び「ビデオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的に固定されるアタッチメント11」からなる部材であると認定すべきである。
なお、このことは、転倒防止機能及び電源供給機能に関し、本件明細書の記載によれば本体部がこれら機能を有する(【0029】、【0041】)のに対し、甲1ではアタッチメント11がこれら機能を有する(【0030】、【0036】)ことからも裏付けされる。
[裁判所の判断要旨]
・本件発明1の特許請求の範囲において、「本体部」が「非使用時には前記アーム部を折り畳んだ状態で収納する収納凹部と、操作部とを有する」こと、「本体部」が有する「収納凹部」が「非使用時には、前記アーム部を、前記第1アーム部と前記第2アーム部と前記本体部とがZ字状になるように折り畳んで」「収納」すること、及び、「本体部」が有する「操作部の上面」が「前記アーム部を折り畳んで前記収納凹部に収納したとき、前記アーム部の上面と」「略面一となるように構成されている」ことが特定されているにすぎない。
・ 従って、本件発明1の「本体部」が、プロジェクタ、パソコン等にケーブルで接続され、カメラで撮像した画像の映像信号をプロジェクタ、パソコン等に出力する機能を備えていることは、特許請求の範囲に記載されておらず、出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(以下「発明特定事項」という。)であるとはいえない。よって、原告の上記主張は、特許請求の範囲に基づいた主張ではなく、採用することができない。
また、原告は、本件特許の明細書の記載を理由に、本件発明1の「本体部」が、書画カメラの転倒防止機能及び電源供給機能を有することを、原告主張の根拠として指摘するが、上記主張は、同様に、特許請求の範囲に基づかない主張であり、採用することができない。
・ 加えて、審決の行った甲1発明の認定は、原告の主張するとおりに、甲1発明を認定したものにすぎない上、ビデオカメラ支持部33を側面とし、段部36と操作部35(すなわち回路収納部34の上面)を底面とした空間(以下、「段差空間」という。)が、本件発明1の「収納凹部」に対応し、甲1発明における、回路収納部34の上面に設けられた「操作部35」が、本件発明1の「操作部」に対応するものであって、甲1発明の「段差空間」及び「操作部35」は、甲1発明の「ビデオカメラ支持部33」及び「回路収納部34」により構成されている。
従って、本件発明1の「本体部」に関し、発明特定事項のすべてを、甲1発明の「ビデオカメラ支持部33」及び「回路収納部34」が有していることから、甲1発明の「ビデオカメラ支持部33」及び「回路収納部34」が本件発明1の「本体部」に相当するといえ、審決における甲1発明の認定に誤りはない。
(2)甲1発明の認定の誤りが結論に影響する点
[原告の主張の要旨]
審決は、本件発明1の「本体部」に相当する甲1発明の構成部材の誤った認定に基づくものである。そして、審決では、「甲1発明において、アーム40を折り畳んで段差空間に収納させたとき、アーム40の上面と略面一となる部分は、板状に形成された支持板に過ぎないビデオカメラ支持部33の上面となる。従って、その内部に回路の収納等を開示も示唆もしていないビデオカメラ支持部33の上面に操作部を設けることは、当業者であっても容易想到であるとは到底認められない」との誤った認定がなされた。
しかしながら、アタッチメント11の取付台12の上面に操作部35を設けることは当業者なら容易に想到し得る。
すなわち、アタッチメント11の取付台12には、電源供給及び信号処理の回路が設けられている。また、取付台12は、上面に操作部35を設けることが可能なボックス形状である。そして、甲1発明は、操作部35が書画カメラ装置10の背面側に配置されていることから、正面側から操作部35を操作できないという不都合もある。そのため、取付台12の上面に操作部35を設け、アーム40を折り畳んだ状態でも操作部35を操作できるように構成することは、当業者なら容易に想到し得る。
また、収納時にアーム部上面と操作部の上面を略面一にすることも当業者にとって容易である。すなわち、審決においても、収納時にアーム部上面と操作部の上面を略面一に構成することは、甲4,5及び7発明に例示された周知技術と認定しているとおりであり、その構成を甲1発明に適用することは、当業者にとって容易である。
[裁判所の判断要旨]
・仮に、原告が主張するように甲1発明が「アタッチメント11」を含むことを前提としても、以下のとおり、本件原出願時において当業者が容易に想到できたものとはいえない。
・甲1には、審決の認定した甲1発明のほかに、原告の主張する、「書画カメラ部31の構成部材である『ビデオカメラ支持部33と回路収納部34』及び『ビデオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的に固定されるアタッチメント11』からなる部材」を含む書画カメラ装置についての発明も開示されていると認められる(以下、この発明を「甲1’発明」という。)。
・甲1’発明は、前記認定のものであり、アタッチメント11を取り付ける場合とアタッチメント11を取り付けない場合の両方の場合を想定した発明であり、ビデオカメラ支持部33を有する書画カメラ部31をアタッチメント11やプロジェクタ本体から着脱可能なようにしたことで、書画カメラ部31を有効活用でき、ユーザに好ましい印象を与えることができるものである。そうすると、甲1’発明の操作部35は、アタッチメント11を取り付ける場合及びアタッチメント11を取り付けない場合に共通に使用されるものであるから、書画カメラ装置を操作する上で必須である。このため、甲1’発明において、操作部35を設ける場所を、書画カメラ部31の回路収納部34の上面からアタッチメント11の上面に変更すると、アタッチメント11を取り付けない場合、書画カメラ装置は操作部35を具備しない構成となって、書画カメラ装置の操作ができなくなり、書画カメラ部31を着脱可能なようにしたことで有効活用し、ユーザに好ましい印象を与えるとの効果を奏しないこととなる。
そうすると、当業者は、甲1’発明において、他に何らの示唆もなく、操作部をアタッチメント11の上面に設けようと動機付けられることはない。
7.考察
(1)「本体部」に相当する甲1発明の構成要素の認定の点について
本件発明1の実施の形態における書画カメラ100は、アーム部と本体部110とからなる。これに対する甲1発明の書画カメラ装置10は、本件発明1における書画カメラ100に相当するものであって(【0001】)、本件発明1のアーム部に相当する「アーム40とビデオカメラ本体部32とからなる部材」と「ビデオカメラ支持部33と、回路収納部34と、アタッチメント11とからなる部材」とから構成されている。そして、アタッチメント11は、電源供給機能、映像信号出力機能、転倒防止機能を備えている点で本体部110と同一であって、書画カメラ装置10としては欠かすことのできない部材である。
従って、本件発明1における「本体部」に相当する甲1発明の構成要素は、「ビデオカメラ支持部33と、回路収納部34と、アタッチメント11とからなる部材」と判断されるべきという印象を受ける。
ところが、本判決では、本件発明1の「本体部」が、カメラで撮像した画像の映像信号をプロジェクタ、パソコン等に出力する機能を備えたものであるという原告の主張は特許請求の範囲に記載されておらず、発明特定事項であるとはいえないから、特許請求の範囲に基づいた主張ではなく採用することができないと判断されている。これは、本件発明の「発明特定事項」の認定についての判断であり、引用発明の引用発明特定事項の認定についての判断とは異なるように思われる。
このようになった要因は、原告主張の引用発明の認定に問題があるからと思われる。
原告は、審判において、甲1発明のb項を「b 非使用時には前記ビデオカメラ本体部32を配置する段部36と操作部35とを備える回路収納部34と、ビデオカメラ支持部33と、アタッチメント11とを有する書画カメラ装置であって、」と主張すべきところ、アタッチメント11を記載していない。
請求項に係る発明と引用発明との対比は、請求項に係る発明の特定事項(発明特定事項)と、引用発明を文言で表現する場合に必要と認められる事項(引用発明特定事項)と一致点及び相違点を認定してなされる(後掲の審査基準の抜粋参照)。従って、引用発明の認定に関する主張は、慎重を期すべきである。
特に注意すべきは、構造ものの発明の場合、本事案の場合もそうであるように、当然備えていなければならない構成や、周知或いは公知の構成は、請求項には記載されず、実施の形態においてのみ記載されるのが通常である。このような場合、請求項の記載に引っ張られ、引用発明の認定を誤るおそれがあるので注意を要する。本事案の「本体部」のように、請求項に係る発明に包括的概念の構成要素を含む場合には、この構成要素に相当する部材を意識して引用発明の認定についての主張をする必要があると思われる。本事案から見ると無効を主張する立場からいえば、請求項に係る発明の実施の形態の記載を見て、相当する部材を幅広く捉える方が有利であると考えられる。
(2)容易想到性の点について
本判決によれば、操作部35は、書画カメラ部31を操作する上で必須であるため、操作部35をアタッチメント11に移動すると、書画カメラ部31をアタッチメント11に取り付けない場合に操作できなくなるから、書画カメラ部31を有効活用できなくなると判断している。しかし、操作部35をアタッチメント11に取り付けるのと同様にプロジェクタ本体61にも取り付けるようにすれば解決される事柄である。また、甲1明細書においても、操作部35が書画カメラ部31にとって必須構成要素であるとの記載は一切ない。従って、容易想到性について本判決は妥当といえるのかの疑念が湧いてくる。
しかしながら、操作部35を具備しない書画カメラ部31は、操作部35を具備する書画カメラ部31と比較すると、有効活用度及び好ましい印象度が低くなることは否めない。従って、甲1’発明において、他に何ら示唆もない限り、書画カメラ部31の操作部35をアタッチメント11やプロジェクタ本体61へ移動させるという動機付けは生まれないという結論は妥当であると思料する。
本事案は、甲1’発明の課題及び効果に着目し、甲1’発明から本件発明1を想到する阻害要因があることを認めたものである。普段の仕事でも拒絶理由通知において、請求項に係る発明と主引用例に係る発明との間で課題が異なることが多く見られるが、このような場合本事案のように容易想到性を否定する阻害要因を見出せないか検討することが有用であると思料する。
(3)明細書作成上の留意点
特許請求の範囲の記載において、限定事項が多いほど技術的範囲は狭くなるので、不要な限定は厳に戒められなければ成らない。とはいえ、当然備えていなければならい構成要素について、不用意に限定することもあると思われるが、本事案は、そのような場合、単に技術的範囲が狭くなるおそれがあるばかりでなく、引用例との対比において不利な扱いを受け易くなることを示唆していると考えられる。
<参考>審査基準の抜粋(第III部第3節「4.請求項に係る発明と引用発明との対比」)
4.1 対比の一般手法
審査官は、認定した請求項に係る発明と、認定した引用発明とを対比する。請求項に係る発明と引用発明との対比は、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明を文言で表現する場合に必要と認められる事項(以下この章において「引用発明特定事項」という)との一致点及び相違点を認定してなされる。
4.1.1 発明特定事項が選択肢を有する請求項に係る発明について
審査官は、選択肢(注1)中のいずれか一の選択肢のみを、その選択肢に係る発明特定事項と仮定したきの請求項に係る発明と、引用発明とを対比することができる(注2)。
(注1)選択肢には、形式上の選択肢と、事実上の選択肢がある。「形式上の選択肢」とは、請求項の記載から一見して選択肢であることが分かる表現形式の記載をいう。「事実上の選択肢」とは、包括的な表現によって、実質的に有限の数の、より具体的な事項を包含するように意図された記載をいう。
(注2) 請求項に係る発明が新規性及び進歩性を有すると判断するためには、審査官は請求項に記載された事項に基づいて把握される発明のすべてについて、その判断をしなければならない、従って、審査官は、必ずしもその発明の一部について対比をすればその判断ができるとは限らないことに留意する。
4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する方法
審査官は、請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比し、両者の一致点及び相違点を認定することができる(上記(注2)参照)。
請求項に係る発明の下位概念には、発明の詳細な説明又は図面中に請求項に係る発明の実施の形態として記載された事項等がある。
以上