【判例研究】知財高裁平成26年(ネ)10063号(平成27年4月14日判決)|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

【判例研究】知財高裁平成26年(ネ)10063号(平成27年4月14日判決)|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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【判例研究】知財高裁平成26年(ネ)10063号(平成27年4月14日判決)

2015年9月24日掲載
弁理士 井出佳一

1.事件の概要

被控訴人製品のデザインは著作権法の保護を受ける著作物に当たらないとする原審に対する控訴事件。

2.当事者

控訴人:ピーター・オプスヴィック・エイエス
被告訴人:ストッケ・エイエス

3.原審について
[控訴人の主張]

 ・被告訴人製品は控訴人製品の形態を模倣しており著作権(複製権又は翻案権)を侵害している。

[被控訴人の主張]

・応用美術が著作権の保護を受けるのは高度な美術性を有している場合に限るから侵害ではない。

[裁判所の判断]

控訴人製品は応用美術の範囲に属するため、著作物に該当するためには美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要する。したがって、著作権侵害ではない。 ※通説通り

4.美術の著作物に関する通説
[法条の著作物]

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(2条1項1号)。
この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする(2条2項)。

「美術」は純粋美術(※1)と応用美術(※2)に分類することができる。美術工芸品は応用美術に含まれるが、美術工芸品を除く応用美術が著作物に該当するかが著作権法上に明記されていない。このため、美術工芸品以外の応用美術が著作物に該当するか否かが永遠のテーマとなっている。
通説(多くの学説や判例)では、「美術工芸品」を除く応用美術については、実用性や機能性とは別に独立して美的鑑賞の対象となり得る程度の審美性を備えていることで、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を備えている場合には著作権法による保護の対象となる場合がある。

※1純粋美術…実用性がなく、専ら芸術性のみを追求したもの(=鑑賞以外の使い道がないもの)。
※2応用美術…美術を実用品に応用したものであり、芸術性だけでなく実用性も備えているもの(=鑑賞以外の使い道があるもの)。
例:ライオンの絵(左)は純粋美術、ライオンの形をしたカーペット(右)は応用美術。

【判例研究】知財高裁平成26年(ネ)10063号(平成27年4月14日判決) | 2015年

純粋美術は著作権法による保護、応用美術(美術工芸品除く)は意匠法による保護とすることで、著作権法と意匠法との住み分けを図っている。仮に、応用美術にまで著作権法による保護を与えると、応用美術が意匠法と著作権法により重複して保護されることになり、意匠法の存在価値が薄れる。

5.本件について
[控訴人の主張]

 応用美術について,著作物性が認められるためには通常よりも高度の創作性を要すると考えることは相当ではなく,それ以外の美術の著作物と同程度の創作性,すなわち,表現者の個性が何らかの形で表れていることが認められれば著作物性が肯定されるものと解すべきである。~略~
 以下の②から④の点に鑑みると,原判決の判示する内容は,応用美術が著作物として保護されるためには,「美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性」を要すると解すべき根拠となるものではない。
② 著作権法上,応用美術につき,著作物として保護されるためには「美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性」を要する旨定めた規定は,存在しない。~略~
④ 意匠法との関係についても,応用美術を著作物として著作権法の保護対象とすると,直ちに意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが減殺されるとはいえず,したがって,上記存在意義やインセンティブの確保は,創作性のある表現について著作権法による保護を自制しなければならないことを正当化する理由になるとはいえない。すなわち,ある客体が,著作権法及び意匠法の保護要件を満たす場合は,これらのいずれの法律の趣旨にも適合しているといえるから,両法による重複的保護が与えられるべきであり,各法は制度趣旨を異にするものであることを考慮すれば,重複的保護を与えることにつき,何ら問題はない。また,意匠権は,絶対的独占権であり,他人の意匠に依拠することなく独自に同一の意匠を創作しても意匠権侵害が成立するという点において,著作権よりも強い保護を与えるものといえるから,上記重複的保護により,意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが減殺されるとは,必ずしもいえない。
 本件についてみると,以下の点によれば,控訴人製品については,応用美術以外の美術の著作物と同程度の創作性があること,すなわち,表現者の個性が何らかの形で表れていることが明らかといえるから,著作物性が肯定されるべきである。

要約

・応用美術が美術の著作物として保護されるためには、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性は必要ない。表現者の個性が何らかの形で表れていることが認められれば著作物性が肯定されるべき。理由は、著作権法には応用美術が著作物として認められるためには高い創作性を要する旨の規定はないから。
・意匠法と著作権法の保護対象が重複しても意匠法の存在意義が薄れるとはいえない。意匠権では他人の意匠に依拠することなく独自に同一の意匠を創作しても意匠権侵害が成立する。このため、意匠権は著作権よりも強い保護を与えるものといえるから意匠法の存在意義が薄れるとはいえない。したがって、控訴人製品について著作物性が肯定される。

[被控訴人の主張]

 応用美術の著作物性が肯定されるためには,著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地から,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要する。~略~重複適用を認めると,存続期間を短く定めた意匠法の趣旨が没却されることになる。また,意匠権は経済財であるところ,上記重複適用を認めれば,事実上,意匠権に人格権を認めたのに近い状況が生じ,それは,経済財としての流通,利用にとって好ましくない。現行著作権法の立法過程においても,応用美術の保護の在り方につき,意匠権とのすみ分けの必要性を強く意識して検討されたという経緯がある。
 また,応用美術とされる商品に著作権法を適用することについては,それによって,関連産業の発展の阻害や改良商品の開発等に対する不当な制約が生じ,ひいては国民生活の利便性の向上にも悪影響を及ぼすなど,当該商品の分野の生産的側面及び利用的側面において弊害を招く可能性等を考慮して,判断すべきである。
 以上に鑑みると,純粋美術が,何らの制約を受けることなく美を表現するために創作されるのに対して,応用美術は,実用目的又は産業上の利用目的という制約の下で創作されることから,その制作,流通の実情を考慮して意匠法的に保護するというのが,創作法の基本的な考え方といえる。すなわち,①著作権は,創作のみによって発生し,公示制度は存在しないこと,②著作権には,長期の保護期間が認められていること,③著作者人格権等の支分権が存在することなどから,応用美術に著作権法上の保護を付与すれば,当該応用美術の利用,流通が妨げられる。この点に鑑みると,応用美術については,そのような利用,流通に係る支障を甘受してもなお,著作権法を適用する必要性が高いものに限り,著作物性を認めるべきである。~略~控訴人製品は,量産を前提とした実用品であり,そのデザインも,人間工学又は機能性に基づく形態を有しており(甲5,甲7等),実用面及び機能面を離れて,それ自体,完結した美術品として,専ら美的鑑賞の対象とされるものではない。以上によれば,控訴人製品の著作物性は,認められない。

要約

・著作権のほうが意匠法より保護期間が長いから重複適用を認めると意匠法の趣旨が没却されることになる。また、事実上、意匠権に人格権を認めたのに近い状況が生じる。
・応用美術に著作権法の適用を適用すると、関連産業の発展を阻害する。
・したがって、控訴人製品の著作性は認められない。

[裁判所の判断]

 著作権法は,同法2条1項1号において,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,同法10条1項において,著作物を例示している。控訴人製品は,幼児用椅子であることに鑑みると,その著作物性に関しては,上記例示されたもののうち,同項4号所定の「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」に該当するか否かが問題になるものと考えられる。この点に関し,同法2条2項は,「美術の著作物」には「美術工芸品を含むものとする。」と規定しており,前述した同法10条1項4号の規定内容に鑑みると,「美術工芸品」は,同号の掲げる「絵画,版画,彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解される。しかしながら,控訴人製品は,幼児用椅子であるから,第一義的には,実用に供されることを目的とするものでありしたがって,「美術工芸品」に該当しないことは,明らかといえる。
 そこで,実用品である控訴人製品が,「美術の著作物」として著作権法上保護され得るかが問題となる。この点に関しては,いわゆる応用美術と呼ばれる,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする表現物(以下,この表現物を「応用美術」という。)が,「美術の著作物」に該当し得るかが問題となるところ,応用美術については,著作権法上,明文の規定が存在しない。しかしながら,著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。同法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。したがって,控訴人製品は,上記著作物性の要件を充たせば,「美術の著作物」として同法上の保護を受けるものといえる。

要約

・控訴人製品は美術工芸品に該当しない応用美術である。
・著作権法上の「美術工芸品」は美術の著作物の例示規定にすぎず、「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても著作権法の保護対象となり得る。
※通説と同様

 著作物性の要件についてみると,ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号),「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたものである場合,当該表現は,作成者の個性が発揮されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできない。
 応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり(甲90,甲91,甲93,甲94),表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。

要約

・著作物性を満たすためには、作成者の何らかの個性が発揮されている必要がある。
・応用美術には様々なものがあり、表現態様も多様であるから応用美術が著作物として保護されるために一律に高い創作性(純粋美術と同視し得る程度の美的創作性)を求めるのは相当とはいえない。個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを検討し、作成者の個性が発揮されていれば著作物として保護するべき。
※通説とは異なる立場。

~略~そこで,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴につき,著作物性の有無を検討する。~略~
 控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴は,①「左右一対の部材A」の2本脚であり,かつ,「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」ている点,②「部材A」が,「部材B」前方の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接している点及び両部材が約66度の鋭い角度を成している点において,作成者である控訴人オプスヴィック社代表者の個性が発揮されており,「創作的」な表現というべきである。したがって,控訴人製品は,前記の点において著作物性が認められ,「美術の著作物」に該当する。

要約

・被控訴人製品は美術の著作物に該当する。

 被控訴人は,応用美術の著作物性が肯定されるためには,著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地から,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要する旨主張する。
 しかしながら,前述したとおり,応用美術には様々なものがあり,表現態様も多様であるから,明文の規定なく,応用美術に一律に適用すべきものとして,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは,相当とはいえない。また,特に,実用品自体が応用美術である場合,当該表現物につき,実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは,相当に困難を伴うことが多いものと解されるところ,上記両部分を区別できないものについては,常に著作物性を認めないと考えることは,実用品自体が応用美術であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり,相当とはいえない。加えて,「美的」という概念は,多分に主観的な評価に係るものであり,何をもって「美」ととらえるかについては個人差も大きく,客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成することが困難な場合が多いから,判断基準になじみにくいものといえる。

要約

・実用性や機能性とは別に独立して美的鑑賞の対象となり得る程度の審美性を備えていることを著作物の要件とすると、実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを区別することができないものについては常に著作物として認められないことになる。すると、実用品自体が応用美術であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり相当とはいえない。

 ~略~著作権法と意匠法とは,趣旨,目的を異にするものであり(著作権法1条,意匠法1条),いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され,他方の適用を不可能又は劣後とするという関係は,明文上認められず,そのように解し得る合理的根拠も見出し難い。加えて,著作権が,その創作時に発生して,何らの手続等を要しないのに対し(著作権法51条1項),意匠権は,設定の登録により発生し(意匠法20条1項),権利の取得にはより困難を伴うものではあるが,反面,意匠権は,他人が当該意匠に依拠することなく独自に同一又は類似の意匠を実施した場合であっても,その権利侵害を追及し得るという点において,著作権よりも強い保護を与えられているとみることができる。これらの点に鑑みると,一定範囲の物品に限定して両法の重複適用を認めることによって,意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが一律に失われるといった弊害が生じることも,考え難い。
 以上によれば,応用美術につき,意匠法によって保護され得ることを根拠として,著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は,見出し難いというべきである。かえって,応用美術につき,著作物としての認定を格別厳格にすれば,他の表現物であれば個性の発揮という観点から著作物性を肯定し得るものにつき,著作権法によって保護されないという事態を招くおそれもあり得るものと考えられる。

要約

・著作権では他人の意匠に依拠することなく独自に同一の意匠を創作しても意匠権侵害が成立する。このため、著作権は著作権よりも強い保護を与えるものといえるから意匠法の存在意義が薄れるとはいえない(控訴人の主張通り)。

 また,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。
 以上に鑑みると,応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。以上によれば,被控訴人の前記主張は,採用できない。

要約

応用美術は、実用に供されるものであるから、実用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり、その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。すると、応用美術の表現については制約が課され、著作権の範囲は比較的狭いものになる。したがって、一般社会における利用、流通に関し、実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことは考えにくい。

~略~前述したとおり,控訴人製品は,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴につき,①「左右一対の部材A」の2本脚であり,かつ,「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」ている点並びに②「部材A」が,「部材B」前方の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接している点及び両部材が約66度の鋭い角度を成している点において著作物性が認められる。このことから,控訴人オプスヴィック社の著作権及び控訴人ストッケ社の独占的利用権の侵害の有無を判断するに当たっては,控訴人製品において著作物性が認められる前記の点につき,控訴人製品と被控訴人製品との類否を検討すべきである。
 前記のとおり,控訴人製品は,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴につき,①「左右一対の部材A」の2本脚であり,かつ,②「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」ている点に著作物性が認められるところ,被控訴人製品は,いずれも4本脚であるから,上記①の点に関して,控訴人製品と相違することは明らかといえる。他方,被控訴人製品は,4本ある脚部のうち前方の2本,すなわち,控訴人製品における「左右一対の部材A」に相当する部材の「内側に床面と平行な溝が複数形成され,その溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)をはめ込んで固定」しており,上記②の点に関しては,控訴人製品と共通している。また,被控訴人製品3,4及び6は,「部材A」と「部材B」との結合態様において,控訴人製品との類似性が認められる。しかしながら,脚部の本数に係る前記相違は,椅子の基本的構造に関わる大きな相違といえ,その余の点に係る共通点を凌駕するものというべきである。以上によれば,被控訴人製品は,控訴人製品の著作物性が認められる部分と類似しているとはいえない。

要約

・控訴人製品は著作物だが、被控訴人製品とは類似してないから侵害ではない。

6.結論

結果として、控訴人製品の著作権は認められた。しかし被控訴人製品と控訴人製品とは類似していないとして著作権侵害は認められなかった。
応用美術が著作物として認められるために超えられない壁として存在した「高い創作性」がなくても、作成者の個性が発揮されていれば応用美術が著作物として認められることになった。すなわち、従来に比べて応用美術が著作物として認められるためのハードルが低くなった。

7. まとめ(実務上の指針)

従来の考えからすれば、意匠権が切れた場合には、当該意匠権に係る物品については何人なりとも自由に製造などを行うことができる(高い創作性がなく、不正競争防止法を考慮しなければ)。現に、意匠権が切れた製品の模倣品(いわゆるジェネリック製品)は既に市場に流通している。応用美術について高度な創作性を要することなく著作物として保護されるとすると、これらの模倣品について著作権による差し止めなどが可能となる場合が生じる。
従来であれば、応用美術が著作物として認められるハードルが高く、意匠権が切れた製品を模倣しても合法となる可能性が高かった。しかし、応用美術が著作物として認められるハードルが低くなったことで、今後は意匠権が切れた製品を模倣すると違法となる可能性が従来よりも高くなる。したがって、意匠権が切れている製品であっても安易に模倣ができなくなるおそれがある。今後は、意匠権が切れている製品についても著作権侵害にならないかを検討する必要がある。

以上

【関連ページ】弁理士コラム「良いデザイン」(パテントメディア104号)