良いデザイン|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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良いデザイン

(パテントメディア2015年9月発行第104号掲載)
弁理士 山崎理恵

こんにちは。大阪オフィスで意匠を担当している山崎です。最近、「良いデザイン」ってなんだろうとよく考えます。

1)良いデザインは高額な損害賠償をとる
①アメリカの訴訟

意匠担当者として嬉しい判決が出ました。あの有名なアップル(Apple Inc.)とサムスン電子(Samsung Electronics co.,Ltd.)のCAFC判決です(2015/5/18)。何が嬉しいかというと、デザイン特許権(design patents)について、「侵害者が得た利益の額=デザイン特許権者の損害額」とする考え方が確認されたことです。
この訴訟は、アップルの有する特許権(utility patents)3件、デザイン特許権(design patents)3件、トレードドレス2件(trademark registration and unregistered trade dress)をサムスン電子が侵害したとして、約9億3000万ドルの支払いを命じた地裁判決(2014/3/6)を不服として、サムスン電子が控訴したものです。

D618,677 D593,087 D604,305
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アップルは、サムスン電子が支払うべき損害賠償金額として、特許権については実施料相当額を要求し、デザイン特許権とトレードドレスについては、サムスン電子の利益の額の全てを要求しました。巨額の損害賠償金額のほとんどはデザイン特許権とトレードドレスの侵害に基づくものでした。サムスン電子は、これを不服とし、控訴審において、「サムスン電子の利益はアップルのデザイン特許権によって生じたものではない」、「利益の全てを損害額とすることは現代社会では不適切だ」、などと主張していましたが、CAFCはこれを認めず、サムスン電子の全ての利益をアップルの損害額とする考え方を支持しました。
なお、この判決では、トレードドレスについてのサムスン電子の侵害認定については地裁へ差し戻されました。アップルはiPhone3の外形形状(均等な丸みを帯びた角を有する長方形、正面の平面形状、その下のディスプレイスクリーン)が、アップルのトレードドレスであるとして損害賠償を求めていましたが、これらの形状は機能的なものであるためトレードドレスとして保護できるとはいえないとされ、地裁で再度審理されることになりました。
一方、サムスン電子は、デザイン特許権についても、機能的な部分はクレーム範囲から除外されるべきと主張していましたが、CAFCはこれを否定しました。つまり、デザイン特許権については、機能的部分も含めて、そのクレームされたデザインが権利範囲であるということです。
この判決は、デザイン特許権の大勝利なわけです。特許権では実施料相当額しか請求できませんので、被告の利益の数パーセントという低い金額の請求になりますが、デザイン特許権では被告の利益のすべてを損害賠償額として請求できます。トレードドレスは半永久権のため、モノの形状を保護するには高いハードルがありますが、デザイン特許権は、期間の限定がある、まさに形状を保護するための権利なので、機能的部分も含めて間違いなく権利行使ができます。デザイン特許の価値が確認された嬉しい判決です。

②日本の訴訟

日本でも少し前に、オムロンヘルスケアがタニタに体重計の意匠権侵害に基づく損害賠償などを求めた訴訟で、タニタに1億2900万円の支払いを命じる地裁判決が出ました(2015/2/26 東京地裁)。控訴審中であり詳細は不明ですが、意匠権に基づく高額判決が日本でも出た!と大いに気になります。

高額な損害賠償金額をとれるということは、そのデザインで商品が売れて利益を得た、ということですから、それだけ登録意匠に係るデザインに価値があるということです。このようなデザインは、もちろん「良いデザイン」といえます。デザインの経済的評価については、まだ実証に裏付けされた理論が確立されておらず、軽視されがちですが、このような裁判例が出ることで、デザインの事業的価値が更に評価されて欲しいと思います。

2)良いデザインは法律解釈も変える??

また、意匠権ではありませんが、応用美術である量産品の椅子について、一部に著作物性が認められるという驚きの判決もでました。(2015/4/14 知財高裁)
原告はストッケというノルウェーの家具メーカー等で、トリップトラップという椅子の模倣品について差し止め、損害賠償を求めていました。結局は負けてしまったのですが、応用美術が著作権で保護される可能性を示したということは画期的だと思います。
応用美術とは、実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とするものであり、このような製品については、意匠法とのすみわけの観点からも、著作物性は否定されるのがこれまでの裁判例でした。今回の知財高裁の判決では、「応用美術につき、意匠法によって保護され得ることを根拠として、著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は、見出し難い」として、応用美術であっても著作権で保護される可能性を示しています。

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実は、私もこの椅子を持っておりまして、ファンとしては模倣品が横行することにはちょっと許しがたい気持ちがあります。赤ちゃんから使え、成長に合わせて座面の位置を変更することで大人になるまで使えるように作られた椅子です。育児用品にありがちな「子供だまし」のデザインではなく、大人が使っても満足できるようにデザインされています。一目ぼれで購入して、実際にはもうほとんど使わないのに、いつまでたっても愛着があって、部屋にあることで喜びを感じることができる椅子です。
非常に個人的に曲解すると、この椅子は長く販売されていて良いデザインであるがゆえに第三者に模倣されまくっているけれど、意匠権はないし、今回のケースでは特徴的形態が異なるため、不正競争防止法でも保護できない。一部著作物性を認めて保護の可能性を示してもいいかもしれない、と裁判官が思ってくれたのでは・・と密かに思っています。(ぜんぜん分かってない、とお叱りをうけそうですが、そこは、一人のファンのたわごととして温かく受け流してください・・)
このように、第三者が真似したくなるようなデザインも「良いデザイン」だと思います。

3)良いデザインは時間軸をもっている

良いデザインには、空間におけるモノの形としての高さ、幅、奥行きという3軸に加え、時間軸があるように思います。
スティーブ・ジョブズはデザインに関する非常に強いこだわりを持っていたことで有名です。(ちなみに私、アップルファンでもあります。)
ジョブズは、製品の外観はもちろんのこと、すぐに捨ててしまうパッケージの細かい作りや材質、誰にも見えない内部基板の配列の美しさ(技術的なものとはかかわりなく)に至るまで、細心の注意と高い美意識をもって製品をつくっていました。「優れた家具職人は、誰も見ないからとキャビネットの背面を粗悪な板で作ったりしない」(注)という台詞が有名です。ジョブズは、製品の完璧な美しさを追求し、多大な時間と費用を費やしてデザインを完成させています。ジョブズのデザインには、それが産み出されるまでの執念と長い時間軸があります。
また、トリップトラップの椅子には、ユーザーの手に渡ってから長く愛される時間軸があります。もともと、子供から大人まで使うことが想定されており、ずっと使い続けても飽きずに愛着が沸くようにデザインされています。
このように時間軸をもったデザインもまた「良いデザイン」ではないでしょうか。良いデザインは結果として長く残るのでそうなるのかもしれませんね。

(注)ウォルター・アイザックソン「スティーブ・ジョブズ 1」講談社、2011年

【関連ページ】【判例研究】知財高裁平成26年(ネ)10063号(平成27年4月14日判決)