終わりの見えない中国商標問題-今度は「エルメス」事件
中国では、2000年代初め頃から「青森」商標を皮切りに「クレヨンしんちゃん」「無印良品」「讃岐うどん」「鹿児島」「山梨勝沼」「今治」など、商標権をめぐる事件が数多く顕在化してきました。
最近では、グローバル企業である米国アップル社の「iPad」商標が中国企業との間で法廷闘争になるなど深刻な問題となっています。2012年2月27日付の「新京報」「法制晩報」等複数の報道によれば、自社の中国語表記を「愛馬仕」とする仏エルメス・インターナショナル社(以下、エルメス社という)が、中国企業の「愛瑪仕」商標出願に関する中国商標評審委員会の裁定を不服として、第一中級人民裁判所に同委員会を提訴していた裁判事件で、同社は敗訴しました。
これらの報道記事をベースにその経緯を総合しますと、エルメス社は、1977年9月2日「HERMES/図」を商標国際分類第3類「化粧品」等に登録を受けた後、皮革製品や衣料品等にも登録を受けていましたが、同社の中国語表記である繁体字「愛馬仕」及び簡体字「(※1)」を同分類第25類「服装、靴、帽子」に出願したのは、それぞれ1996年7月17日及び1997年8月11日でした。
(※1・・・)
一方、仏山市順徳区達豊製衣有限公司は1995年12月25日、商標国際分類第25類「服装、コート、上着など」を指定商品として商標「愛瑪仕」(注:馬と瑪の文字が異なる)を出願し、1997年3月28日初審公告になりました。
これに対しエルメス社は、初審公告後3か月の法定期限内である1997年6月27日、『「愛瑪仕」は「HERMES」の翻訳、模倣で自社の商標と類似しており、消費者に商品の誤認混同を招く。』として異議申立をしました。しかしながら、この異議申立は不成立となったため、エルメス社は中国商標評審委員会に異議再審を請求しました。
2011年5月同委員会は、「通常の法律手続きに従って当商標の登録を行った。」として、エルメス社の請求を却下しました。
エルメス社は、この裁定を不服として第一中級人民裁判所に訴訟を提起していましたが、同裁判所は、『エルメス社が提示した証拠は何れも「愛瑪仕」の登録出願日より遅い。また「愛瑪仕」が詐欺、不当な手段で取得されたという証拠も十分ではない』と指摘し、『エルメス社が関連証拠として提出した香港地区でのメディア報道は、同社の「愛馬仕」が中国本土で認知されている証拠にはならない。』として、商標評審委員会の裁定を容認し、「愛瑪仕」の出願当時に「愛馬仕」が中国国内で著名であったことを否定しました。
エルメス社は、商標「HERMES/図」及び中国語表記である「愛馬仕」を長期間使用し、その業務範囲である関連分野に多面的な商標出願戦略を展開していました。しかし、エルメス社が、中国語表記の出願を早い段階で行うべきであったことは間違いないとしても、同一ピンイン「(※2)」の「愛瑪仕」及びそのバリエーションまでを、その戦略に組込むことは想定外であったと思われます。
(※2・・・)
この種の商標事件は今後も起こり得ると予想され、今回の判決内容は、中国進出企業にとって厳しい試練であると同時に、商標戦略の枠組み自体を再検討しなければならないことを教えてくれた判決であるといえるでしょう。
オンダ国際特許事務所は、中国商標に関する長年の経験と知見をベースに、このような事例にも対応できるよう総合的な商標戦略をご提案し、お客様の円滑な中国ビジネス展開のお役に立つことが今後の使命であると考えています。(タ)