【台湾商標判例紹介】台湾智慧財産法院103年度行商訴字第87号行政判決
2015年5月21日掲載
告訴人:美商范斯公司(Vans, Inc.)
被告人:経済部智慧財産局
係争商標:申請第098010349号商標
係争商標
係争商品:Checkerboard-Pattern Shoe(3D) 第25類の「靴」商品。
関連法条:
第18条
商標とは、識別性を具えた標識で、文字や図形、記号、色彩、立体形状、動態、ホログラム、音など、又はその結合によって構成するものをいう。前項でいう識別性とは、商品又は役務の関連消費者に、指示する商品又は役務の供給元を認識させ、他人の商品又は役務と区別できるものをいう。
第29条
次に掲げる、識別性を具えていない状況のいずれかに該当する商標は、登録することができない。
1. 指定した商品又は役務の品質、用途、原料、産地又は関連する特性を描写する説明のみで構成されたもの
2. 指定した商品又は役務の慣用標章又は名称のみで構成されたもの
3. その他、識別性を具えていない標識のみで構成されたもの前項第 1 号又は第3 号が規定する情況は、出願人が使用しており、しかも取引上すでに出願人の商品又は役務を識別する標識となっている場合に、これを適用しない。
商標図案に識別性を具えていない部分が含まれており、且つ、商標権の範囲に疑義が生じるおそれがある場合、出願人は該部分を専用としない旨を声明しなければならない。専用としない旨を声明していない場合は登録することができない。
一、本案争点
1. 係争商標は商標法第18条第2項に違反しているか否か?商標法第29条第1項第3号の登録できない事由が有るか否か?
2. 係争商標は2012年7月1日の商標法第29条第2項の規定に適用できるか否か?
二、本案背景
原告は2009年3月19日に「Checkerboard-Pattern Shoe(3D)」立体商標を第25類「靴」に指定して、被告に登録出願を申請した。被告はその出願申請に対して2013年11月28日に第0351449号拒絶理由を原告に通知した。原告は拒絶理由を不服として、訴願を提起したが、経済部2014年5月8日経訴字第10306103890号の決定で却下されため、再度行政訴訟を提起した。
原告の主張:
(一)先天的識別性を具える
1.係争商標は特殊な設計で創意性のある立体商標で、一般消費者にとって購買時に認識できる、そして他人の商品又は役務と十分に区別できる標識である。係争商標は原告が1979年に創作した代表的な設計である。最初は「VANS」の靴の個性を強調するために、靴の外側の白いゴム部分にチェック柄を描いた。その後は当該図形を靴の全面に使用、靴全体が独創性のある商標となった。1979年以降、当該デザインはVANSシリーズの靴に広く使われ、会社にとって重要なデザインの一つとなった。
2.原告の調査によると、同業内のその他の運動用品ブランド又は類似商品で、係争商標と近似する商品の宣伝広告はほとんど見当たらないという。従って、係争商標図形には独創性及び識別性があり、商標としてなり得る。
(二)後天的識別性を具える
1.原告VANS社は1966年に設立、靴、衣服、鞄、帽子、アクセサリーなどの世界的有名な製造メーカーであり、米国では4番目のゴム底靴を製造する会社でもある。そして、長期にわたって大規模な国際試合、音楽コンサート、イベントなどのスポンサーをしてきた。
2.係争商標は原告の1979年にデビューした靴で、デビューした後に、国際スケートボートプレイヤーに愛用され、ファンからの違う色の靴が欲しいとの声に応えて、続々と新作を出した。その後、原告の「Checkerboard-Pattern Shoe (3D)」シリーズ商品は徐々にアメリカで広まった。更に、1982年の映画「Fast Times at Ridgemont High」の中で主人公たちが着用していたことで、ブームを起こした。
3.原告はアメリカ市場以外、台湾、オーストラリア、オーストリア、カナダ、ドイツ、デンマーク、フィンランド、ギリシャ、オランダ、香港、ハンガリー、イスラエル、トルコ、イタリア、日本、パナマ、フィリピン、ポーランド、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、イギリス、中国などの国で販売している。台湾では台北、桃園、新竹、台中、苗栗、彰化、雲林、嘉義、南投、台南、高雄、屏東、宜蘭、花蓮、台東等のデパート及び体育用品専門店で販売している。
4. 原告は各拠点で販売する以外にも、係争商標商品を宣伝するために、膨大な費用を費やしている。例えば、世界著名のメディアでのコマーシャル放送、商品カタログの作成、世界各国での新作発表会など。また、インターネット上でも力を入れている。海外www.vans.com、及び台湾www.vanstaiwan.comホームページで販売しているので、消費者はどこにいても購入することができる。
5.原告が提示した係争商標の使用証拠資料からわかるように、2008年から2012年の世界各国での宣伝広告の総額は3億米ドル(約90億台湾ドル)以上である。その関係で、係争商標商品の売れ行きは好調に伸びた。2008年から2012年までの間の、係争商標商品の海外での売上額は50億ドル(約1500億台湾ドル)以上である。また、2007年から2014年までの間の、台湾での売上額は8百万ドル(約2億5千万台湾ドル)以上である。原告の商品は海外及び台湾で愛用されており、独創性のある係争商標は他人の商品と区別でき、国内においても著名運動ブランド用品の一つとなった。
6. 係争商標はアメリカ、ニュージーランド、エジプト、日本、エクアドル共和国、オーストラリア、アルゼンチン及びメキシコ等の国で登録され、「靴」などの商品が指定されている。さらに、コスタリカ、メキシコ及びパナマ等でも登録され、「靴」商品が指定されている。世界各国の商標の識別性の認定及び見解は同じなので、係争商標が各国で登録されたことに基づき、台湾でもその基準を適用し、登録査定すべきである。また、提示した資料をみると、係争商標は、市場においては宣伝広告、使用期間、販売状況及び実務者の意見から、長期の使用により国内営業上で商品の識別標識となり、相当な顕著性があり、登録すべきである。
被告の主張:
(一)係争商標は破線の部分を除いて、靴の表面及び靴の後方に棋盤のように四角いデザインで構成されている。立体図及びその他角度の図を見ると、係争商標は靴の表面と後方にモノクロのチェック模様が構成されている。全体から見る時、一般的によくみられる装飾図案のイメージであり、商品の標識と認識されず、他人の商品又は役務と区別できないゆえ、識別性を具えないものは商標法第29条第1項第3号の規定により、登録できない。
(二)また係争商標と「VANS」を並行して標示するので、係争商標のチェック模様よりも英文文字の方が供給元の標識として認識されやすい。実際の使用状況は、色違いで使用されているため、靴の装飾というイメージになる。その他、原告が提示した販売数と売上金額は自社の資料のみで、関連証拠資料はなかった。また、前後に提出した証拠資料の数字は大きく違っていて、信頼性が疑わしい。
三、判決理由
(一)係争商標の出願登録を許可すべきかどうかの判断は2011年6月29日に公布、2012年7月1日施行の商標法を適用すべきである。
(二)出願人は、係争商標はすでに取引上で識別性を具えたと主張している。商標法第18条及び第29条第1項第3号の規定によると、識別性を具えない標識は登録できない。また、第29条第1項第2号では、先天的識別性を有しない場合、後天的識別性を具えたことを証明すべきである。
(三) 2012年4月20日修正公布、同年7月1日施行の商標の識別性審査基準2.1によると、先天的識別性を具える商標はその識別性の強弱によって、独創性、任意性、暗示性商標と分けられる。また、上記の識別性審査基準4.4、4.4.1によると、簡単なライン又は基本的な幾何図形で構成されたものを、商品又は役務に使っても、消費者の注意を引くことは難しい。例え注目されたとしても、商品又は役務の供給元と認識されないため、識別性を具えない。一般的に、消費者は高価なもの又は耐久財に関心が高く、その立体形状への注目度も高くなるゆえ、供給元を区別できる標識となる可能性は高い。反対に、安いもの、日常用品などは関心が低い。また、商品の形状は機能性のための設計で、特殊な形もまた消費者の注意を引くためのデザインでもあるため、ほとんど供給元と認識しない。よって、先天的識別性を具えない。後天的識別性を具えたことを証明しなければ登録はできない
(四) 係争商標は先天的識別性を具えない:
1. 係争商標は破線の部分を除いて、靴の表面及び靴の後方に棋盤のように四角いデザインで構成されている。立体図及びその他角度の図を見ると、係争商標は靴の表面と後方にモノクロのチェック模様が構成されている。全体から見る時、一般的によくみられる装飾図案のイメージであり、商品の標識と認識されず、他人の商品又は役務と区別できない。例え注意したとしても、商品又は役務の供給元と認識されないため、識別性を具えない。よって商標法第29条第1項第3号の規定により、登録できない。
2.原告が主張した特殊設計で創意性ある商標などについて、係争商標は単なるモノクロのチェック柄の幾何図形であり、且つ「靴」商品に指定しているため、消費者は一般的にそれを装飾性図形と認識し、商品又は役務を区別できる標識と認識しない。よって、原告の主張を採用できない。
(五)係争商標は後天的識別性を具えない:
1.先天的識別性を具えない商標については、出願人が商標の使用資料を提出して、識別性を具えたことを証明することができる。その証明資料は国内の関連消費者の認識で判断すべきである。海外の資料を提出する場合、関連消費者が海外の情報を容易に手に入ることを証明する必要がある。後天的識別性を具えているか否かについて、下記証拠を参酌すべきである。
(1) 商標の使用方式、期間の長さ、及び同業者間の使用状況。
(2) 販売数、売上金額、マーケットシェア。
(3) 広告回数、広告費用、宣伝活動の資料。
(4) 販売地域、市場の布石、販売拠点又は展示、陳列箇所の範囲。
(5) 各国での登録証明資料。
(6) 市場調査報告。
(7) その他証明できる資料。2.原告は多くの証拠資料を提出して、係争商標の広範的使用により後天的識別性を具えたことを主張した。しかし、調べによると:
(1)原告が提示した台湾インターネット上のホームページ資料は、すべて「VANS」ブランド商品及びその商標の紹介で、係争商標図様ではないため、係争商標の使用の証拠にはならない。
(2)提出された係争商標の使用資料はすべて外国のネット資料、写真、雑誌、カタログ又は原告のHP資料で、台湾での使用証拠がなかった。且つ原告はこれらの資料はわが国の国民が簡単に入手できるものであることを証明しなかった。
(3)証拠資料17、18、22、23、29では、係争商標に関する実際の販売数、売上額、販売地域などの情報がないため、国内においての商標使用の事実だけを証明できる。
(4)証拠資料19、20は、VANS社の台湾販売拠点の「VANS」ブランド商品に関する輸入資料である。また、販売拠点のインテリアはモノクロのチェック模様があって、且つ「VANS」を併記しているため、全体のイメージはモノクロのチェック模様が装飾図案、「VANS」が商品又は役務の供給元と認識される。また、販売拠点の内装は商標の非特定の使用形態なので、商標として認識しない。
(5)証拠資料30では、靴の表面に係争商標図形があると同時に、英語「VANS」も標記しているため、全体を見るときに、チェック柄は靴の装飾で、「VANS」が商品の標識というイメージになる。関連消費者にとってはチェック柄を商標として認識しない。
(6)原告が提供した証拠資料は1ページ目だけ係争商標の図様があって、その他は内部管理資料である。内容はすべて「VANS」に関する商品の売上資料である。よって係争商標の後天的識別性について証明できない。
(7)原告が提出した係争商標に係る2009年から2013年の台湾市場における売上額と審査時に提出した証明書類1の売上額の差はあまりにも大きいため、証拠の真実性が疑わしいものである。
3.従って、原告の提出した証拠は、指定商品が係争商標の長期使用により取引上で識別性を具えたことを証明できないため、商標法第29条第2項の規定を適用できない。
(六)原告は米国、日本、ニュージーランド、韓国等で係争商標の登録証拠を提示したが、各国の商標に対する保護は属地主義であるため、現地国で登録されてから初めて効力が認められる。よって、他国での登録は必ずしも本国の登録の論拠にはできない。
四、判決結果
被告の係争商標についての処分は法律上に違反しないため、訴願決定を維持し、原告の訴願の却下及び被告への係争商標の登録査定の請求について却下する。
以上