【台湾商標判例紹介】103年度行商訴字第149号
2015年6月11日掲載
原告:小米科技有限責任公司
被告:経済部智慧財産局
背景
原告は商標登録出願に関する2014年10月8日経訴字第10306109790号訴願判決を不服として、行政訴訟を提起した。
事実概要
出願経過:
2011年12月6日 | 中国にて商標登録出願(第10273145号) |
2012年5月28日 | 中国にて商標登録出願(第10979466号) |
2012年5月31日 | 上記二件の優先権を主張し、台湾にて商標登録出願 (第101030193号) |
2012年9月12日 | 原告は「MI」商標の分割申請を提出した。 |
2012年9月24日 | 被告は「MI」商標の分割申請を認めた。 |
2014年5月29日 | 登録第1418897号「MANZANA及び図」商標と類似するため、被告は第355350号拒絶査定を下した。 |
2014年10月8日 | 原告は拒絶査定を不服として、訴願を提起したものの、却下されたため、行政訴訟を提起した。 |
係争商標
申請第102880264号商標 |
拒絶もととなる商標
登録第1418897号商標 |
原告の主張
1. 両商標は近似ではない
商標の外観において、拒絶もととなる商標「MANZANA及び図」は赤色で、アルファベット「M」についての識別性がなく、単なる図形又は「MANZANA」の頭文字としている。重要部分の「MANZANA」と組み合わせてはじめて識別性を具える。逆に、係争商標「MI」は墨色で、「MI」で構成されているから、全体的に意味がある。また、商標の称呼については、係争商標「MI」は中国語の「米」と同じ発音である。拒絶もととなる商標「MANZANA」の発音は“メンザナ”で、スペイン語でリンゴを意味している。両商標は時と所を異にして、全体を観察しても、また、取引の際の称呼においても区別できるので、近似ではない。
2. 商品・役務の類似に当たらない
一般社会観念及び市場の取引状況を参酌したとき、係争商標の指定した第42類役務は、主に市場及びお客様の需要に応じて、エンジニアがコンピューターソフトのコンサルティング、デザイン、分析などのサービスを提供することである。一方、拒絶もととなる商標の指定した第9類商品は、主にタッチペン、メモリースディーク、カードリーダーなどのコンピューター周辺機器で、コンピューターの計算機能に関係しない指定商品であるため、類似性が低い。
3. 拒絶もととなる商標の識別性が弱い
被告の商標データーベースによると、多くの商標権者がアルファベット「M」を商標デザインの一部にしている。従って、「M」文字を含む商標図様はよく見かけられるという客観的な状況から、消費者はアルファベット「M」だけで単一の連想又は独特の印象を持たない。故に、「M」文字の識別性は低い。更に、拒絶もととなる商標の「M」文字は一般的に標準インストールされているTransformers fontを使用していて、デザインが施されていないため、識別性が弱い。商標識別性審査基準第4条第2項によると、デザインが施されない単一アルファベットは、原則として識別性を有さないが、単一アルファベットに特殊なデザインが施され、あるいは他の識別性を有する部分と組み合わされ、全体が出所を指示し区別し得るものである場合は、識別性を有する。従って、被告のデザインが施されない「M」文字を識別性があると判断したことは、審査基準に掲げている商標全体で識別性を判断する原則、単一アルファベットに先天識別性を具えない原則に反している。
4. 拒絶もとの商標権者は多角化経営をしていない
拒絶もととなる商標権者、即ち訴外人-凱曜数位科技有限公司の名義で申請された商標は一つしかない。また、訴外人の会社紹介資料から、当該商標は「アップルコンピューター」の周辺商品にのみ使用されていて、且つ第9類商品に限っているため、多角化経営の状況はない。
5. 混同誤認の虞はない。
両商標は外観、称呼及び観念においてすべて類似しない。原告はすでに被告から「MI」商標を取得し、第9類商品に指定している。原告の提供する携帯本体及び周辺商品は消費者に広く受け入れられていて、リーズナブルな価格でよく知られている。従って、消費者は「MI」商標を「小米公司」の「米」の意味として認識し、高級ブランド「APPLE」の商品と対照的なものとして、市場で区別をしている。また、拒絶もととなる商標はスペイン語でリンゴを意味しており、且つ「APPLE」ブランド商品にしか使用していないため、混同誤認の虞はない。
6. 係争商標は善意者である
両商標の外観、称呼及び観念においてすべて近似ではないため、登録商標に便乗する悪意は見当たらない。
7. 両商標の販売方式、場所が違う
係争申請商標は自社ホームページでネット販売又は電子商取引方式で商品を販売している。一方、拒絶もととなる商標は主に実店舗の店頭で商品を販売している。両者の販売方法及び場所が異なるため、混同誤認の可能性は低い。
判決理由:
一. 両商標は近似ではない
商標の近似判断は、外観、観念又は称呼等から、時と場所を異にして離隔観察及び全体観察をしなければならない。
1.図様全体を判断基準とすべきである
商標の近似については、図様全体を判断基準とすべきである(混同誤認審査基準第5.2.3を参照)。なお、文字と図形が一緒に並ぶ商標について、関連消費者にとって主要称呼部分は文字である。つまり、
(1) 商標の外観上においては、拒絶もととなる商標「MANZANA及び図」は赤色で、「M」は単一アルファベットのため識別性を具えない。その重要な部分「MANZANA」と結合して初めて全体的に識別性を具える。一方、係争申請商標「MI」は墨色で、「MI」で構成されていて、全体的に意味を有しているため、識別性を具える。よって、外観上の近似は不成立である。
(2) 称呼、観念については、拒絶もととなる商標の図形「M」は頭文字であり、「MANZANA」は“メンザナ”と発音され、スペイン語でリンゴを意味している。一方、係争商標「MI」は中国語の「米」の発音と同じで、「小米公司」ブランドの印象とマッチングしている。よって、称呼又は観念についての近似は不成立である。
2.両者の外観、称呼、及び観念のすべてが異なる
係争申請商標「MI」と拒絶もととなる商標「MANZANA及び図」の全体図様、称呼、人に与える印象及び観念などを、時と場所を異にして離隔観察しも、また取引の際においても、関連消費者が各商品の出所を区別できるため、近似商標を構成しない。被告は「M」が両商標の重要部分であるなど云々。また、拒絶もととなる商標「MANZANA」の頭文字「M」図形を、係争商標の「MI」の「M」文字部分だけと比較するのは、商標の全体観察原則に反している。
二. 指定商品・役務の類似は成立しない
1.商品の類似判断は分類制限に限らず
類似商品の認定は商標専務機関の制定した商品・役務分類に制限されないことが商標法第19条第6項に規定されている。役務と商品との間に類似関係が存在する状況とは、特定の商品の販売、取り付け又は修理等を目的にサービスを提供すること。さらに、役務と商品の性質、機能上に直接且つ密接的関連性がある場合、類似商品・役務となる。
2.係争商標の役務
「コンピューターハードウェアのデザイン及びコンサルティング、コンピューターのデータ復元、コンピュータープログラムの複製、電子、ウェブサイトのセッティング及びメンテナンス、ウェブサイトの管理、電子プログラム及び資料の転換、主にエンジニアが市場及びお客様の需要に応じてソフトのコンサルティング、デザイン、分析など」のサービスを提供する
3.拒絶の元となる商標の商品
「タッチペン、メモリースティック、カードリーダー、コンピューター用鞄、携帯式メモリ、マウスパッド、ノードブックパソコン用鞄、キーボードカバーなど」、主にコンピューターの計算機能と関係ない指定商品であるため、類似性が低い。
4.お互いに販売、取り付け又は修理などの関係がない
一般社会観念及び市場の取引状況を参酌して、係争商標の指定した第42類役務は、主にエンジニアが市場及びお客様の需要に応じてソフトのコンサルティング、デザイン、分析などのサービスを提供する。一方、拒絶もととなる商標の指定した第9類はコンピューター周辺機器で、主にタッチペン、メモリースティック、カードリーダーなどコンピューターの計算機能に関係しない指定商品であるため、類似性が低い。また、第42類役務と第9類商品の間に、商品の販売、取りつけ、又は修理などの直接関連性がないため、類似商品・役務に属さない。
三. 拒絶の元となる商標の識別性が弱い
1.デザインが施されない単一アルファベットは原則として識別性を具えない。他の識別性を有する部分と組み合わされ、全体が出所を表示し区別し得るものである場合は、識別性を有する(識別性審査基準第4.2を参照)。よって、単一アルファベットは常用語で、公衆が自由に使用できる公共財であるため、識別性を具えない。また、拒絶もととなる商標が使用した「M」文字は一般的に標準インストールされているTransformers fontを使用しており、特にデザインを施されていないため、識別性は弱い。
2. 拒絶もととなる商標の図形「M」は指定商品を由来とする識別性が弱い。すでに多数の異なる商標権者によって商標の一部として使用され登録されているものは、当該部分を識別性の弱い部分と認定することができる。(混同誤認の審査基準第5.1を参照)
3. 登録出願の平等待遇
(1)文字フォントに近いアルファベット「M」は、長期にわたり異なる商標権者に使用されているため、識別性が弱いと認定できる。一方、被告の審査により登録になったアルファベット「MK」で構成された商標は3件あり、それぞれ異なる商標権者が、同じ第9類に登録している。よって、原告の申請商標「MI」と拒絶もととなる商標「MANZANA」は、同じ「M」文字があっても、全体観察の時に区別できるため、前例と同様に、第9類に併存すべきである。
(2)個別審査
商標の登録可否について、個別審査の原則で、他の案件に拘束されないが、公平、平等原則に反してはならない。故に、被告の審査で登録になった「M」を含む商標は同類に併存している事実から、「M」文字だけを拒絶理由にできない。
四. 多角化経営
先権利者が多角化経営を行っており、その商標を様々な商品又は役務に使用又は登録している場合、係争商標との間に混同誤認の虞があるか否かを考慮するときは、各類商品又は役務のそれぞれについて比較対照するだけではなく、当該多角化経営の状況をも総括的に考慮に入れなければならない。反対に、先権利者が長期にわたって特定の商品又は役務のみの経営を行い、他の業界に進出するいかなる形跡も見られない場合、その保護範囲を縮減することができるべきである。
調べによると、拒絶もととなる商標「MANZANA」は「アップルコンピューター」の周辺商品にのみ使用され、且つ第9類商品に限っているため、多角化経営の状況はない。よって、その保護範囲は縮減すべきである。
五. 混同誤認の状況が実際にない
関連商品・役務の消費者が、両商標の商品の由来を誤認する状況が実際に発生した場合、先権利者が関連する物証を提出して証明しなければならない。
1.著名性
原告の小米携帯電話はリーズナブルな値段で販売され、すでに国内消費者の間でよく知られているため、著名性を具えている。「APPLE」ブランド商品の市場とは、明らかに区別されている。
2.商標図様の不近似及び指定商品・役務の区別がある
拒絶もととなる商標「MANZANA及び図」の商標権者の解釈では、当該商標はスペイン語でリンゴを意味している。そして「APPLE」商品にしか使用していない。
両商標は外観、称呼及び観念において、すべて不近似で、関連消費者に混同誤認される虞はない。よって、係争申請商標「MI」と拒絶もととなる商標「MANZANA及び図」には混同誤認の事実は存在しない。
六. 販売方法及び販売場所
混同誤認の判断を左右する要素が存在する可能性がある。例えば、商品のマーケティングチャネル又は役務の提供場所が同一であり、関連消費者が同時に接触する機会が大きい場合、混同誤認を引き起こす可能性は高い。反対に、直接販売、電子ショッピング、通信販売等のマーケティングチャネルを介する場合、それと一般的なマーケティングチャネルによって販売されるものとの間で、混同誤認を生じるか否かについてはなお斟酌する余地がある。実際に、係争商標は自社ホームページでネット販売、電子商取引方式で商品を販売している。一方、拒絶もととなる商標は主に店頭で商品を販売している。両者の販売方法及び場所は異なっているため、混同誤認の可能性が低い。
七. 関連消費者の係争商標に対する熟知度
関連消費者が、衝突した二つの商標のいずれについても相当に熟知していた場合、また、二つの商標が市場において併存していた事実も認識されていて、更に異なる出所であることを十分に区別できるときは、この併存していた事実を極力尊重しなければならない。一方、関連消費者が衝突した二つの商標のうち一つのみ熟知していた場合には、熟知されていた方の商標について、より大きな保護を与えなければならない。なお、関連消費者の商標に対する熟知の程度は、当該商標の使用の広範性の程度に関わるものであり、原則として主張者が使用に関する物証を提出してこれを証明しなければならない。
原告の資料によると、原告の商品は2012年に販売開始以来、1年未満で20万台以上を販売したことから、関連消費者は「MI」商標について一定の熟知度がある。
八. 係争商標の登録出願が善意である。
商標の主たる機能が、自己の商品をPRすることによって、他人の商品と区別することである点に鑑み、商標の出願登録又は商標の使用における目的もまた商標のこの識別機能を発揮することにあるべきである。しかしながら、関連消費者にその出所について混同誤認を生じさせ得ることを知っていながら、あるいはもともと関連消費者にその出所について混同誤認を生じさせることを意図して、商標を出願登録した場合、その出願は善意に属するものではない。
係争申請商標「MI」は拒絶もととなる商標「MANZANA及び図」との外観、称呼及び使用態様が違っていて、また、市場も区別しており、登録商標に便乗する悪意は見当たらない。
判決:
訴願及び商標登録出願の拒絶査定原処分をともに取り消す。
申請第102880264号「MI」商標登録出願に対して、被告は本判決の法律見解に基づいて処分すべきである。
原告のその他上訴を撤回する。
訴訟費用は被告、原告が半分ずつ負担する。