第四次改正専利法に伴う実施細則改正のポイント解説
中国弁理士 梁煕艶
第四次改正専利法が2021年6月1日に施行されてから、約2年半が経ちました。専利法改正に伴う実施細則の改正は大幅に遅れ、2023年12月11日付の国務院の決定でようやく確定しました。改正実施細則は、2024年1月20日より施行されます。
早速、専利(特許・実用新案・意匠)出願の実務に影響を与えるポイントに絞って、下記のとおり、解説いたします。
1.不服審判請求の法定期限に権利回復請求が可能に
発明専利(特許)出願について、拒絶査定を受けた場合の不服審判請求は、拒絶査定を受け取った日から3か月と定められています(専利法第41条第1項)。
この3か月は法律で定められた期限であり、法定期限と呼ばれる、延長できない期限です。
また実務上、日本のように、まず不服審判を請求しておいて、後日、詳細な理由補充書を提出するプラクティスは認められません。
今回の実施細則の改正で、「不服審判請求期限が徒過した場合、不服審判請求期限満了日から2か月以内に国務院専利行政部門に権利回復を請求できる(実施細則第6条第2項)」との規定が新たに設けられました。
この改正によって、出願人に不服審判を請求するか否かについて、十分な検討時間が与えられるようになりました。
2.拒絶理由通知、拒絶査定などを受け取った日の取り扱いに関する変更
国家知識産権局は2010年頃から電子出願の普及に力を入れてきました。現時点で、ほぼすべての代理人事務所が、「専利電子出願システムユーザ登録協定(以下、「電子出願システム」)」に入っています。また、中国に恒常的居所もしくは営業所がない外国人または外国企業が中国に専利出願をする場合、専利法第18条の規定によれば、中国で法律に従って設立された事務所に依頼しなければなりません。以上の状況を踏まえ、現時点で、日本企業の中国への専利出願は、ほぼ電子出願で出願されたものです。
国務院専利行政部門によって出された各種の通知書、決定書は以前の郵送または代理人事務所が窓口で受け取るのに替わって、電子形式にて電子出願システムに送達しているにも関わらず、発行日から15日の郵送所要日数を増やして受け取った日とみなされてきました。今回の実施細則の改正で、「国務院専利行政部門によって電子形式で送達された各種の書類は、当事者に認められた電子システムにアップロードされた日を送達日とする」との規定(実施細則第4条第6項)が新たに設けられました。この改正により、今までの中間実務における15日の郵送所要日数の利益が享受できなくなります。
ちなみに、中国での中間実務で典型的な期限は、第1回目拒絶理由通知を受け取った日から4か月、第2回目以降の拒絶理由通知を受け取った日から2か月、形式審査で不備が指摘された場合の通知を受け取った日から2か月、権利付与通知後の登録手続きを受け取った日から2か月、拒絶査定後の不服審判請求を受け取った日から3か月と定められています。
3.実用新案、意匠(外観設計)評価書の作成を請求できる適格者の拡大
実体審査を経ていない実用新案、意匠(外観設計)について、専利権評価報告書制度が設けられています。
専利権評価報告書の作成を請求できる者は、以前は専利権者および利害関係者(独占実施権者を指す)に限られていましたが、第四次改正専利法の改正により、「専利権者、利害関係者(独占実施権者を指す)または専利権侵害を訴えられた者」に拡大されました(専利法第66条第2項)。
この規定により、侵害紛争が生じた場合、人民法院または国務院専利行政部門が、専利権者または利害関係者に専利権評価報告書の提出を求めることができる以外に、専利権者、利害関係者または専利権侵害を訴えられた者は、自発的に専利権評価報告書を提出することができるようになります。
今回の実施細則の改正で、第四次改正専利法に合わせて、「専利権者、利害関係者または専利権侵害を訴えられた者」は専利権評価報告書の作成を請求できることを明らかにするとともに、出願人は権利登録手続きを行う際に、専利権評価報告書の作成を請求できる(実施細則第62条第1項)」との規定が新たに設けられました。
専利権評価報告書について、「国務院専利行政部門は、専利権評価報告書作成の請求を受け取った後、2か月以内に専利権評価報告書を作成しなければならない」と規定されており、上記実施細則第62条第1項の改正に合わせて、「出願人が権利登録手続きを行う際に専利権評価報告書の作成を請求した場合、権利付与公告日から2か月以内に専利権評価報告書を作成しなければならない」との規定が新たに設けられました(実施細則第63条第1項)。
そして、実用新案権者が、自ら実用新案評価報告書の評価結果を吟味し、請求項を補正することができるかという点に関して、かなり議論されていましたが、最終の改正確定版では、これに関する規定がありませんでした。つまり、実用新案権者には、実用新案評価報告書の評価結果に対し、請求項を補正する機会がない、という点は変わっていない、ということになります。
4.優先権の主張に伴う手続きの緩和
1)優先権回復請求(新設)
発明専利及び実用新案に関して、優先権を主張できる期限は、基礎出願日から12か月と定められており、12か月を徒過した場合の優先権の回復は、これまで認められませんでした。
今回の実施細則の改正では、「正当な理由があれば、優先権主張期限満了日から2か月以内に優先権回復請求を行うことができる(実施細則第36条)」との規定が新たに設けられました。
正当な理由については、実施細則に詳細な規定が設けられていませんが、今までの実務経験から、拒絶理由通知に応答する際の応答期間の延長と同様に扱い、何らかの理由を説明し、権利回復費用さえ支払えば、優先権の回復が可能になると考えられます。ただし、正当な理由の取り扱いについては、中国専利局の今後の運用事例をウオッチングする必要があります。なお、この規定は意匠(外観設計)には適用されません。
2)優先権の追加または変更(新設)
出願時に優先権を主張した場合、基礎出願日から16か月以内、または出願日から4か月以内に、出願願書に優先権を追加、または変更を請求することができます(実施細則第37条)。なお、この規定は意匠(外観設計)には適用されません。
3)基礎出願を援用する形での書類補充(新設)
発明または実用新案を出願する際に、権利請求の範囲、明細書または明細書の一部を誤って、または欠落して提出し、出願時に優先権を主張していた場合、出願を提出した日から2か月以内、または国務院専利行政部門に指定された期限内に、基礎出願を援用する形で書類を補充することができます。補充された書類が関連規定を満たした場合、出願を提出した日が出願日となります(実施細則第45条)。
4)国際段階の優先権回復請求の取り扱い(新設)
国際出願は、優先権主張期限満了日から2か月以内に出願し、国際段階において優先権回復が受理局に認められた場合、実施細則第36条の規定に従い優先権回復請求を行ったとみなされます。国際段階において、優先権回復を請求しなかった、または請求したが受理局に認められなかった場合、正当な理由があれば、中国国内段階に移行した日から2か月以内に国務院専利行政部門に優先権回復を請求することができます(実施細則第128条)。
5.遅延審査請求が実施細則で合法化に
様々な事情により、出願人が権利化を遅らせたい場合があります。特に自動車産業の意匠(外観設計)出願については、意匠(外観設計)出願の公告時期を新車販売、および展示会の時期に合わせるということがよくあります。
中国の意匠(外観設計)出願は、形式審査のみで登録になるため、出願から約6か月で登録公告になります。意匠(外観設計)出願の登録公告時期をいかに遅らせるかについては、これまでかなり苦労することがありました。国家知識産権局は、産業界の要請に応じて、審査指南の改正を行い、審査指南第五部分第七章に「8.3節」を設け、遅延審査請求制度を導入しました(2019年11月1日より施行)。
今回の実施細則改正では、「出願人は発明と外観設計出願について、遅延審査請求を行うことができる」と実施細則第56条第2項で明確に規定されました。
6.発明専利審査遅延による存続期間の補償
発明専利について、第四次改正専利法において、審査遅延による存続期間の補償制度が導入されました。専利法第42条第2項で、「発明専利の出願日から満4年かつ実体審査請求日から満3年後に発明専利権が付与された場合、国務院専利行政部門は専利権者の請求に応じて、発明専利の権利付与段階における不合理な遅延について、専利存続期間を補償しなければならない」と定められました。
この度の実施細則の改正では、専利存続期間補償の手続きについて、以下の規定が設けられました。
1)専利権者は、専利法第42条第2項の規定に基づき、専利存続期間の補償を求める場合、権利付与公告日から3か月以内に国務院専利行政部門に請求しなければならない(実施細則第77条)。
2)補償期間は、権利付与過程において発生した不合理な遅延の実際の日数によって計算される(実施細則第78条)。
実施細則第78条では、どのケースが合理的な遅延に該当するかを詳細に定めました。また、実施細則第79条では、どのケースが不合理的な遅延に該当するかを詳細に定めました。
7.新薬販売承認審査にかかった時間に伴う専利存続期間の補償
第四次改正専利法においては、新薬販売承認審査にかかった時間を補償するために、専利法第42条第3項を新設し、「中国での販売承認を取得した新薬関連発明専利について、国務院専利行政部門は、専利権者の請求に応じて、専利存続期間を補償しなければならない。補償される期間は、5年を超えないものとし、新薬販売承認後の専利権の合計存続期間は、14年を超えないものとする」と規定されました。
この度の実施細則の改正では、専利法第42条第3項の上記規定について、下記の詳細なルールが定められました。
1)新薬関連発明専利とは、規定を満たした新薬製品専利、製造方法専利、医薬用途専利を指す(実施細則第80条)。
2)新薬関連発明専利存続期間の補償を求める場合、以下の要求を満たし、かつ新薬販売承認日から3か月以内に国務院専利行政部門に請求しなければならない(実施細則第81条)。
(一)当該新薬に複数の専利権が存在する場合、複数の専利権のうちの一つのみに存続期間の補償を求めることができる。
(二)一つの専利権が複数の新薬に係る場合、複数の新薬のうちの一つのみに存続期間の補償を求めることができる。
(三)存続期間の補償を求める専利権は、有効期間内にあり、かつ、存続期間の補償を受けたことがない。
8.部分意匠(部分外観設計)制度の導入
第四次改正専利法においては、部分意匠(部分外観設計)の制度が導入されました(専利法第2条第4項)。部分意匠(部分外観設計)の出願は改正専利法の施行日(2021年6月1日)から出願できるようになりましたが、実施細則の改正はなかなか確定されず、実務上、出願書類の記載方法等について判断に迷うことがありました。今回の実施細則の改正により、部分意匠(部分外観設計)出願に関する規定が明確に定められました。
1)部分意匠(部分外観設計)を出願する場合、製品全体の図面を提出し、破線と実線との組み合わせ、または他の方法で保護を求める内容を表明しなければならない(実施細則第30条第2項)。
2)部分意匠(部分外観設計)を出願する場合、「簡単な説明」で、保護を求める部分について明確に説明しなければならない。ただし、製品全体の図面が、破線と実線との組み合わせで表されている場合は、これに限らない(実施細則第31条第3項)。
9.意匠(外観設計)国際登録ハーグ協定への加盟
第四次専利法改正では、ハーグ協定への加盟を念頭に、意匠(外観設計)の権利存続期間が従来の「出願日から10年」から「出願日から15年」に改正されました(専利法第42条第1項)。
中国は2022年2月5日、世界知的所有権機関(WIPO)に「工業製品の意匠(外観設計)国際登録ハーグ協定(1999年ジュネーブ改正協定/以下、ハーグ協定)」の加入書を提出しました。ハーグ協定は既に2022年5月5日から中国で発効しています。
国家知識産権局は、ハーグ協定の中国での発効に合わせて、「ハーグ協定加入後の関連業務の処理に関する暫定弁法」を制定して公布しました。
今回の実施細則改正では、第12章を新たに設け、「意匠(外観設計)国際出願に関する特別規定」を定めています(実施細則第136条から第144条)。
(※それらの条文の和訳は省略します。)