【台湾特許判例紹介】103年度民専訴字第51号
2015年6月11日掲載
原告:王進揚
被告:網路家庭国際資訊(株)
※被告は、PCHOMEという検索エンジンを始め、ネットショッピング事業などのインターネットサービスを提供する大手の台湾企業。
係争特許:台湾実用新案第M392292号
係争製品:タブレットサポータ
過程:
2010年6月30日 | 係争特許出願 |
2010年11月11日 | 係争特許登録 |
2012年3月3日 | 実用新案特許技術報告 |
2014年10月20日 | 民事訴訟提起 |
2015年3月16日 | 判決 103年度民専訴字第51号 |
係争特許 台湾実用新案第M392292号
タブレット式電子装置のサポータ
2 :サポート 4:サポータ |
本体に枢動可能に折り畳み、または展開できる二つの水平方向支持部材または垂直方向支持部材が配置され、各支持部材が展開された時に、使用者はサポータを通じて電子装置を傾斜角度である平面に保持することが可能で、各支持部材が折り畳まれた場合、使用者はサポータを収納して持ち運べる。
原告の主張:
- 2012年3月3日付けの実用新案特許技術評価報告において、係争特許の請求項1~7は「新規性などの要件を否定できる先行技術文献が見つからない」と評価されているため、係争特許は新規性を有する有効な特許である。
- 中国登録証書(ZZ000000000000.4)、米国登録証書(8,186,639)などの特許も取得している。
- 原告はすでに被告に侵害警告通知を送ったが、被告は係争商品を掲載し続けているため、過失でなく故意の行為である。
- 台湾特許法120条準用第58条「発明の特許権者は、本法で別段の規定がある場合を除き、他人がその同意を得ずに、当該発明を実施することを排除する権利を専有する。物の発明の実施とは、当該物を製造、販売の申し出、販売、使用をする行為、又はこれらを目的として輸入する行為をいう。」また、台湾特許法120条準用第96条「特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対し、その排除を請求することができる。侵害のおそれがある場合、その防止を請求することができる。特許権者は、故意又は過失によりその特許権を侵害した者に対し、損害賠償を請求することができる。」により、本案の実用新案である係争特許は、侵害行為の排除及び賠償を求めることができる。
被告の主張:
- 係争特許請求項1、2、6、7は無効となる理由があるため、権利を行使することができない。
- 係争特許請求項1「前記本体の他の端の円心は、前記本体の端の円心とは直交配列となる」との記載は不明確で、その技術分野の一般知識を持っているものが理解し、実施できるものではない。
- 被告は単なるネットショップの掲載サービスを提供しており、事前に商品の製造会社と契約して、商品については侵害のおそれがないと保証してもらっている。
判決内容:
引例8 中国公開CN101688633 「ポータブル電子装置に用いられる折畳式サポータ」
電子装置の携帯型サポータであって、三角構造の中の前足部(102,104)は後足部(106)に対して収納位置と展開位置との間に調整する。
引例9 米国公開US2008/0029663 「Laptop holder for extension arm」
電子装置の支持装置で、一対の調整可能アーム部材は支持体に枢動的に結合されている。アーム部材を調整することによって様々なサイズの電子装置を収容する。
係争特許の無効判定について:
【請求項1】
判決
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開示判定
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構成要件
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【請求項1】 タブレット式電子装置(39)のサポータ(2)であって、 |
【引例8】 「持ち運べる電子装置に用いられる折り畳み式サポータ」。 |
○ | 1A |
本体(20)と、 | 中央枢軸(130) | ○ | 1B |
二つの水平方向支持部材(21)であって、それぞれ枢動可能に前記本体の端の両側に設置される一端部があって、かつ各前記水平支持部材の他端部は、前記本体の端を円心とし、それぞれ前記本体の両側の水平方向に展開し、または互いに寄り合い、
各前記水平方向支持部材の上面に少なくとも一つの位置決め溝(210)が凹んでいるように設置される二つの水平方向支持部材と、 |
10ページ21行目「それぞれの足部(102,104)は上足部(120)及び調整可能な下足部(122)を有し」と記載され、係争特許の水平方向支持部材は開示されている。 10ページ25行目「上足部は調整機構(132)によって調整可能に中央枢軸にカップリングする」、10ページ5行目「第二パスまたは平面において、前足部(102,104)は相対的に移動することができる。」と記載され、係争特許の「二つの水平方向支持部材(21)であって、それぞれ枢動可能に前記本体の端の両側に設置される一端部があって、かつ各前記水平支持部材の他端部は、前記本体の端を円心とし、それぞれ前記本体の両側の水平方向に展開し、または互いに寄り合い」は開示されている。 係争特許については引例8に明確な記載はないが、9ページ24行目「前足部にストッパ(108a,108b)を設けて装置の落下を防止してもよい」と記載され、この記載に基づいて当業者は係争特許の凹んでいる位置決め溝を容易に想到できる。 |
△ | 1C |
垂直方向支持部材(22)であって、その一端部は枢動可能に前記本体の他の端に配置され、かつ前記垂直方向支持部材の他端部は前記本体の他の端を中心とし、前記本体から離れる方向へ傾斜角度に展開し、または前記本体に近い方向に寄せる垂直方向支持部材と、 | 10ページ9行目「後足部(106)は主体部(112)及び枢軸部(114)を有し、枢軸部が足部を開き位置から閉め位置に移動させる。(図3、4参照)」と記載され、係争特許の構成要件1Dは開示される。 | ○ | 1D |
前記本体の他の端の円心は、前記本体の端の円心とは直交配列となる、タブレット式電子装置のサポータ。 | 「中央枢軸における後足部の枢軸部(114)と結合させるための円心軸は、中央枢軸における前足部の枢軸部(132)と結合する円心軸とは、直交配列となっている。(図5参照)」と記載され、係争特許の構成要件1Eは開示される。 | ○ | 1E |
被告は、引例8は二つの前足部102、104及び後足部106からなる三角構造は、係争特許の水平方向支持部材、位置決め溝、垂直方向支持部材の効果を達成できないと主張するが、係争特許請求項1は単なる上記部材の間の連結関係のみを記載しており、また、9ページ24行目「前足部にストッパを設けて装置の落下を防止してもよい」との記載により当業者は位置決め溝を容易に想到できるため、請求項1は進歩性がないと判断される。 |
【請求項2】
判決
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開示判定
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【請求項2】 前記垂直方向支持部材は、 第一支持部(221)であって、前記第一支持部の一端部は第一枢軸(223)に通じて前記本体の他の端と枢動可能に結ばれる第一支持部と、 第二支持部(222)であって、前記第二支持部の一端部は、第二枢軸(224)に通じて前記第一支持部の他端部と枢動可能に結ばれる第二支持部と、 を含む請求項1に記載のタブレット式電子装置のサポータ。 |
【引例9】 段落[0018][0034][0035]を参照すれば、上支持部材(24)の一端部にある第一エンドキャップ(22)は固定部材(40)にカップリングされ、他端部の第二エンドキャップ(28)は延長アーム(30)にカップリングされることにより、上支持部材と延長アーム(30)はカップリング位置を中心とし、異なる方向へ調整できることが分かる。上支持部材(24)と延長アーム(30)は、係争特許の第一支持部と第二支持部に相当する。係争特許はその連結方法を詳しく述べていないが、同じ効果で枢動的結合のやり方は当業者によって容易に想到できるものであるため、請求項2内容は開示されていると判決する。 |
○ |
【請求項6】
判決
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開示判定
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【請求項6】 前記本体の一端部の中央位置に位置限定部材が設けられ、各前記水平方向支持部材の前記位置限定部材(201)に対応する位置に、それぞれ位置限定溝(213)が設けられている請求項2、3または5に記載のタブレット式電子装置のサポータ。 |
【引例8】 係争特許の位置限定部材と位置限定槽は、二つの水平支持部材が開き位置から閉め位置へ移動する際に、スムーズに動けるための部材である。明確な記載はないが、引例8図17Aにおける突起部236及びそれの延長部分は、係争特許の位置限定部材に相当し、図9Aにおける上足部の枢軸部(170)の延長線で決めた円弧溝は、係争特許の位置限定溝に相当すると判断する。 上記内容及び従属関係によって請求項6は進歩性がないと判決する。 |
△ |
【請求項7】
判決
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開示判定
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【請求項7】 前記水平方向の支持部材の底面にそれぞれ第一滑り止め部(230)が設けられ、 前記第二支持部の上面に第二滑り止め部(231)が設けられる、請求項6に記載のタブレット式電子装置のサポータ。 |
【引例8】 11ページ14行目「把持部材(118)はゴム、プラスチックまたは他の滑り防止材料からなる。」と記載され、滑り防止材料の実施部分は異なるが、係争特許請求項7の第一滑り止め部及び第二滑り止め部は容易に想到できることが分かる。 |
○ |
以上に示すように、係争特許の係争請求項1、2、6、7は、引例8及び引例9によって進歩性がないと判断される。
判決:
確かに係争特許は、「前記本体の他の端の円心は、前記本体の端の円心とは直交配列となる」などの、文言上不明確な記載はあるが、図面を参照した上で理解できるレベルだと判断する。
本案係争製品は係争特許請求項1、2、6、7の文言範囲に入ってしまうが、係争特許請求項1、2、6、7にはすべて無効理由が存在しているため、本案訴訟では係争特許の権利を主張できないと判決する。
コメント:
被告の「単なるネットショップの掲載サービスを提供しており、事前に商品の製造会社と契約して、商品については侵害のおそれがないと保証してもらっている。」との責任回避の主張について、判決は判決文の中に直接、回答していないが、台湾特許法96条「特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対し、その排除を請求することができる。侵害のおそれがある場合、その防止を請求することができる。特許権者は、故意又は過失によりその特許権を侵害した者に対し、損害賠償を請求することができる。」と明記しているため、Notice and Takedownの仕組みが存在し、被告の主張で責任を回避することはできない。