【台湾特許判例紹介】 民事判決 103台上1843
2015年6月1日掲載
一、対象特許:実用新案特許第195314号
二、事実の概要
1999.06.04 M195314出願
1999.11.15 査定
2000.01.21 公告
2000.04.19 異議(88209098P01)
2002.09.17 異議不成立
2005.04.06 M274950出願(訴外実用新案・被告関連)
2005.09.11 M274950公告(訴外実用新案・被告関連)
2006.01.04 M274950無効審判(訴外実用新案・被告関連)
2006.11.22 M274950無効審判成立(訴外実用新案・被告関連)
2007.08.15 譲渡(拓腦科技→闊腦)
2007.12.04 無効審判(088209098N01)
2008.12.15 無効不成立
2009.02.13 地裁判決(96智87)
2009.06.25 知財高裁判決(98民專上10)
2010.07.08 最高裁判決(99台上1225)
2011.01.13 知財高裁判決(99民專上更(一)12)
2011.06.04 満期・消滅
2012.02.16 最高裁判決(101台上230)
2013.05.23 知財高裁判決(101民專上更(二)2)
2013.07.26 無効審判(088209098N02)
2014.09.05 最高裁判決(103台上1843) ←本事件
2014.11.13 無効不成立
三、書誌事項
当事者:闊腦(原告)vs.傲勝國際((被告))
判断主体:最高裁
事件番号:103年台上第1843号
言渡し日:2014年9月5日
四、概要:
最高裁判所は、特許権侵害の損害賠償の計算及び立証方法について、「特許権侵害品の市場単価」に「年間販売数」を乗じて得た額に、更に「当年度純利益率」を乗じる方法で計算できることを明示した。
五、判決要旨
上訴を棄却。
六、事実関係
闊腦社は、台湾実用新案195314号「多功能保眼眼罩之改良構造」(以下「係争実用新案特許」と称する)の特許権者であり、係争実用新案特許の技術で「舒眼立康」という製品を製造し、販売している。
傲勝國際社は2005年7月から「iCare200按眼舒」という製品(以下「係争製品」と称する)を販売した。
2007年8月、係争実用新案特許の出願人より実用新案権の譲渡を受けた闊腦社は、同年9月、係争製品が係争実用新案特許を侵害したと主張し、損害賠償を請求した。
本件は、台湾台北地裁による第一審、控訴審を経て、さらに最高裁が破棄差戻しをしたあと、再審を経て、また最高裁による破棄差戻しがされ、さらに更二審を経て、このたび最高裁は闊腦社の請求を認め、傲勝國際の上訴を棄却し、本件は確定した。
上記の各審決・判決過程、争点を表形式に整理する。
訴訟番号 |
審決日 |
審決・判決 |
争点 |
---|---|---|---|
96智87 |
2009/2/13 |
原告の請求を棄却 |
・係争製品が係争実用新案特許の権利範囲に入っているか否か? |
98民專上10 |
2009/6/25 |
上訴を棄却 |
・係争製品が係争実用新案特許の権利範囲に入っているか否か? |
99台上1225 |
2010/7/8 |
原判決破棄、知財高裁に差戻し |
・民事訴訟法226条3項の規定により、原告敗訴の判決について、裁判所がそれに関する攻撃方法の意見を判決理由項目に記載されない場合、同法469条6号の判決不備の理由にあたる。 |
99民專上更(一)12 |
2011/1/13 |
上訴を棄却 |
・係争製品が係争実用新案特許の権利範囲に入っているか否か? |
101台上230 |
2012/2/16 |
原判決破棄、知財高裁に差戻し |
・係争製品が係争実用新案特許の権利範囲に入っているか否か? |
101民專上更(二)2 |
2013/5/23 |
原判決破棄 |
・係争製品が係争実用新案特許を侵害しているか否か? |
103台上1843 |
2014/9/5 |
上訴を棄却 |
|
103台再57 |
2014/12/17 |
再審の訴えを棄却 |
七、本件係争実用新案特許vs. 本件係争製品&訴外実用新案M274950
1. 本件係争実用新案特許
請求項1の構成要件:
要件1:マルチ機能のアイマスク。
要件2:人体の目元を縛るための彈性束緊帶(131)、帯体の前方に主機本體(10)及び氣壓熱敷裝置(20)を接合する。
要件3:主機本體(10)の内部に充氣幫浦(15)、洩氣閥(16)、導氣管(151)、震動馬達(17)、蜂鳴器(18)、接線板(14)等を設置し、外側から伸びた導線(141)で控制器(30)と接続する。
要件4:氣壓熱敷裝置(20)は前後擋片(21,22)よりマスク状に構成し、その中に氣囊(23)、發熱元件(24)等を設置し、氣囊(23)、發熱元件(24)の進氣口(231)及び導線(141)はそれぞれ主機本體(10)と結合する。
要件5:控制器(30)では、内部に回路装置を設置し、表面に複数の制御スイッチと調節ボタンを設けることで、回路により駆動することによって、氣囊(23)及び發熱元件(24)を膨張、収縮、発熱の効果を生じさせる。
要件6:控制器(30)が搭載している操作モードは、目元の全体に間欠的に膨張・収縮のマッサージ、ホットアイマスク、振動マッサージ等多重作用を交互的に施術する。
図1
図2
図3
本件実用新案特許の特許権者が製造・販売した製品
2. 本件係争製品
係争製品のパッケージ
係争製品の全体写真
3. 本件係争実用新案特許v. 本件係争製品
要件 |
係争実用新案特許(原告) |
係争製品(被告) |
該当 |
要件1 |
マルチ機能のアイマスク |
○ |
|
要件2 |
人体の目元を縛るための彈性束緊帶(131)、帯体の前方に主機本體(10)及び氣壓熱敷裝置(20)を接合する |
○ |
|
要件3 |
主機本體(10)の内部に充氣幫浦(15)、洩氣閥(16)、導氣管(151)、震動馬達(17)、蜂鳴器(18)、接線板(14)等を設置し、外側から伸びた導線(141)で控制器(30)と接続する |
○ |
|
要件4 |
氣壓熱敷裝置(20)は前後擋片(21,22)よりマスク状に構成し、その中に氣囊(23)、發熱元件(24)等を設置し、氣囊(23)、發熱元件(24)の進氣口(231)及び導線(141)はそれぞれ主機本體(10)と結合する |
○ |
|
要件5 |
控制器(30)では、内部に回路装置を設置し、表面に複数の制御スイッチと調節ボタンを設けることで、回路により駆動することによって、氣囊(23)及び發熱元件(24)を膨張、収縮、発熱の効果を生じさせる |
○ |
|
要件6 |
控制器(30)が搭載している操作モードは、目元の全体に間欠的に膨張・収縮のマッサージ、ホットアイマスク、振動マッサージ等多重作用を交互的に施術する |
○
|
4. 訴外実用新案M274950
創作名称:眼部按摩器的改良構造
出願日:2005.04.06
出願人:深圳市輕松科技開發有限公司(中国大陸)
無効審判提出日:2006.01.04
無効審判請求人:拓腦科技股份有限公司(係争実用新案特許の出願人)
無効審判審決日:2006.11.22
審決結果:無効成立
引用証拠(専利):88209098(原告の実用新案特許)、87218562(原告の実用新案特許)
5. 利益および損失
<闊腦社の商業利益>
年間販売数量 |
34,755台 |
予定販売総量 |
69,510台 |
販売価額/台 |
1,060元 |
コスト/台 |
800元 |
利益/台 |
260元 |
予定利益 |
18,072,600 |
係争製品の影響で、闊腦社の製品の実販売数は計6,500台減少し、実際の損害額は16,382,600萬元(18,072,600-1,690,000)である。
<傲勝國際社の商業利益>
年度 |
価額 |
数量 |
総販売額 |
純利益率 |
被告が得た利益 |
2005 |
3,280 |
6,078 |
19,935,840 |
6.97% |
1,389,528.048 |
2006 |
|
10,551 |
34,607,280 |
11.03% |
3,817,182.984 |
2007上 |
|
3,657 |
11,994,960 |
-0.42% |
-50,378.832 |
2007下 |
|
2,003 |
6,569,840 |
-0.42% |
-27,593.328 |
2008 |
|
6,000 |
19,680,000 |
3.17% |
623,856.000 |
2009 |
|
7,003 |
22,969,840 |
13.75% |
3,158,353.000 |
2010 |
|
6,700 |
21,976,000 |
23.48% |
5,159,964.800 |
合計 |
|
|
137,733,760 |
|
14,070,912.672 |
八、判決内容
最高裁は、傲勝國際社が係争製品を販売することで係争実用新案特許を侵害したと認め、特許権侵害の損害賠償の計算及び立証に関し、「特許権侵害品の市場単価」に「年間販売数」を乗じて得た額に、更に「当年度純利益率」を乗じる方法で計算できることを明示した。
本件特許権者は、特許権侵害品を購入した領収書を提出して特許権侵害品の市場価格を立証し、かつ特許権侵害者が特許権侵害品を輸入したときの「財政部関税総局輸入伝票」をもって、特許権侵害品の年間輸入数量を立証し、且つ特許権侵害者の「会社損益及び税額計算書」をもって、特許権侵害をした会社の侵害期間の純利益率を立証した。
最高裁は、前記立証方法を認め、且つ市場調査会社による台湾家庭部門における健康器具使用の市場調査報告を斟酌し、特許権侵害者が輸入した商品がすでに完売したと認定し、特許権者の闊腦社の請求は理由があると認めた。さらに最高裁は、本件特許権侵害者は特許権侵害品の製造者ではなく、特許権侵害品の輸入販売者なので、分業化、細分化が進む現代産業において、必ずしも係争実用新案特許の存在を知っていたわけではないとして、過失に基づく権利侵害責任にとどまり、600萬元の損害賠償を命じた。
九、コメント
台湾の現行専利法第97条に
「前条により損害賠償を請求する際は、次の各号いずれかの方法によりその損害額を算定することができる。
一、民法216条の規定に基づく。但し、その損害を証明するための証拠や方法を提供することができない場合、発明特許権者は、その特許権の実施により通常得られる利益から、損害を受けた後に同一の特許権の実施により得られる利益を差し引いた差額をその損害額とすることができる。
二、侵害者が侵害行為により得た利益に基づく。
三、当該発明特許の実施を許諾し、実施させることで受け取ることができる実施料に相当する金額をその損害額とする。前項の規定に基づき、侵害行為が故意である場合、裁判所は被害者の請求により、侵害の情状に基づき、損害額以上の賠償を定めることができる。但し、証明された損害額の三倍を超えてはならない。」
と規定されている。
本件につき、最高裁は専利法第97条2号「侵害者が侵害行為により得た利益に基づく」の損害賠償の計算方法について、「特許権侵害品の市場単価」に「年間販売数」を乗じて得た額に、更に「当年度純利益率」を乗じる方法で計算できることを明示した上、権利侵害品の市場における販売状況の立証については、市場調査会社の調査報告を参酌することを明示した。
以上