米国における審査官インタビュー―特許取得を成功させるための有効な手段―
(パテントメディア2014年5月発行第100号掲載)
米国特許弁護士 ブレイク ドア
「では、見直したら連絡します・・・。」この言葉が米国特許商標庁(USPTO)の審査官から聞けたのなら、そのインタビューは成功だったと分かります。
審査官インタビューのプログラムでは、出願人に審査官と話し合う機会が与えられます。出願人は自身の出願や、審査官に通知された拒絶について、審査官と話し合うことができます。米国における審査官インタビューは、特許出願手続で肯定的な結果を得る可能性を高めることができる重要な手立てです。
特許出願を審査する審査官の地位/序列は、インタビューやオフィスアクションの拒絶を解消する際の出願人のアプローチに影響を与えることがあります。ですから、USPTOの審査官組織について理解することは有用です。
USPTOの審査官組織は、幾つかの審査部門(Technology Center)を含んでおり、各審査部門は、それぞれ1名のディレクターによって管理されています。各審査部門は複数の技術グループに分けられており、各技術グループは1名の審査長(SPE:supervisory patent examiner、「スピー」と発音します)によって管理されています。各技術グループには、1名のSPEと、複数名の主任審査官(primary patent examiner)および審査官補(assistant patent examiner)が含まれます。
審査官補がオフィスアクションや許可通知を発行する権限は、制限されています。経験を多く積み、試験に合格した審査官補には、部分的な署名権限が与えられ、ノン-ファイナル・オフィスアクションへの署名が許されます。完全な署名権限を持つ審査官は主任審査官と呼ばれ、全てのオフィスアクションや許可通知に署名できます。各技術グループのSPEは完全な署名権限を持っており、審査官補のオフィスアクションおよび許可通知をチェックして署名することがよくあります。
多くの場合、審査官補との審査官インタビューには、SPEが同席します。ですから、審査官インタビューでは、オフィスアクションに署名したり許可通知を発行したりする権限を持つ審査官と直接やり取りする機会が、出願人に提供されます。私たち米国の実務者の経験では、この手続を用いることで、不要でコストの高い継続審査請求(RCE)や審判請求を避けることができます。
出願人は、ノン-ファイナル・オフィスアクション毎にインタビューを受ける権利が認められています。ファイナル・オフィスアクションの後にもインタビューを要求することはできますが、ファイナル・オフィスアクション後のインタビューを認めるかどうかは審査官の裁量次第です。私たちの最近の経験では、ファイナル・オフィスアクション後の審査官インタビューは認められることが一般的です。 審査官インタビューの手続は、形式張っておらず簡単なものです。出願人の代理人は、単に電話で審査官に連絡し、インタビュー予定を設定します。審査官によっては、インタビューの検討事項に関するアジェンダをファクシミリで提出するよう求められることがあります。出願人は詳細なアジェンダを提出する必要はありません。普通は、アジェンダには、出願人が話し合いたい問題を特定する情報(拒絶の種類、クレームの番号および引例の名称等)が含まれます。場合によっては、インタビューに先立ち、審査官にクレームの補正案を提出することも役に立ちます。
さて、出願人が審査官インタビューを求めるべきなのは、どのような状況でしょう?審査官補がクレームの特徴を広く解釈し過ぎているように思えたり、拒絶に用いられている引用文献を全く理解していないように思えたりする場合には、インタビューは最も有意義となるでしょう。そうした場合、出願人は意図したクレームの範囲を伝え、引用文献についてどのように理解しているかを話し合う機会を得ることになります。
そうした簡単な会話によって、審査官またはそのSPEから、クレームの範囲を「はっきりさせる」ための軽微な補正の示唆が得られることがよくあります。引用文献に関しては、審査官は、代わりの引用文献を見付けて新たな拒絶の根拠を示すために、追加のサーチを行うことになります。審査官補に対応する際には、SPEは話し合いの参加者として役に立つ場合が多く、追加のサーチを行うとその場で決定することがあります。そうしたインタビューによって、特許の審査手続において時間や費用を減少させることができます。
審査官インタビューは、特許の審査における手続的な問題を解決するために用いられることもよくあります。例えば、審査官が新たな拒絶の根拠を挙げているのに誤ってファイナル・オフィスアクションを発行することがあります。審査官インタビューは、そのオフィスアクションをファイナルとしないよう審査官に働きかける有効な手立てです。
審査官インタビューを求める別のよくある理由は、出願人が審査官による拒絶に概ね納得しており、クレームを補正して拒絶を解消したいと考えている、というものです。引用された先行技術を回避するようにクレームを補正したものの、審査官が出願人の補正を思いのほか広く解釈したために拒絶が維持されてしまったのでは、出願人はとても苛立つことでしょう。クレームの文言の解釈は、審査官によっても技術グループによっても違います。ですから、補正案を提出し、補正案のクレームで意図する範囲について話し合うことによって、出願人は実際に補正を提出する前に審査官から意見をもらうことができます。この審査官との価値ある対話によって、ノン-ファイナル・オフィスアクションでの拒絶と同じ引用文献によりファイナルの拒絶を受けるという不要であった筈の事態を、避けられることがよくあります。
出願人が広すぎるクレームを提出すると、その出願の発明とは関連の薄い引用文献を用いて拒絶されることがあります。通常、そのような拒絶を克服するには、クレームを実質的に補正する必要があります。そうした場合、インタビューにおいて何に係る発明であるのかを出願人の代理人が説明すると、忙しい審査官がクレームの範囲に関する出願人の意図やねらいを理解する助けになります。そうしたインタビューは、その審査官の今回の拒絶に直ちに影響することを意図したものではなく、それよりは、審査官が出願人の発明を理解することで、その審査官の以降のサーチおよびクレーム解釈が向上する、といったものです。
場合によっては、出願人の発明が審査官の拒絶に用いられる引例の先行技術と異なっていたとしても、その先行技術から区別されるクレームを書くのが難しいこともあります。ソフトウェア関連の出願では、そうしたことがよく起こります。これは、詳細な図面がある機械関連の出願とは対照的に、ソフトウェア関連出願では方法の発明がソフトウェア用語によって説明されているからです。審査官とのインタビューにおいて、出願人が発明を想到した理由や、その発明がどのように課題を解決するか、どのように先行技術とは異なるかを出願人が詳細に説明することは、非常に有意義でしょう。出願人の発明は有用で重要な目的を有すると審査官を納得させることができる場合、審査官は出願の価値について、より好意的に考えることでしょう。そうすると、審査官が出願人とともに先行技術を克服するクレーム補正を積極的に見付けようとすることも多いです。
また、審査官は引用文献を組み合わせた拒絶について再考するようになります。そうした引用文献の何らかの組み合わせによって、ある観点からはクレームが想到されるとはいえ、発明の全体を考えた場合、出願人の発明とは論理的に関連しないこともあるでしょう。インタビューにおいて引用文献の組み合わせの不備について出願人が議論することは、新たな拒絶の根拠を(多くの場合には再度のノン-ファイナル・オフィスアクションによって)挙げるように審査官を説得する助けになります。
他にも、インタビューを行うことには、長期的な利点があります。技術分野によっては、ある出願人の出願が同じ審査官またはSPEによって繰り返し審査される場合があります。出願人の代理人が審査官と親密で友好的な関係を築くことで、出願審査手続がしばしば容易になります。
私たちは、出願人がUSPTO審査官とのインタビューを求めることを考慮するよう、強くお勧めします。インタビューを行うための代理人手数料に関連した費用の最低額は、通常の場合、RCE(継続審査請求)、補正および審判に関連したUSPTO庁料金や代理人手数料よりはるかに小さいものです。