【2025年5月1日】欧州意匠規則改正 第1フェーズの主要変更点|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

【2025年5月1日】欧州意匠規則改正 第1フェーズの主要変更点|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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【2025年5月1日】欧州意匠規則改正 第1フェーズの主要変更点

1.改正の背景

欧州連合(EU)では、2024年12月8日に意匠の法的保護に関する欧州議会および理事会の指令(EU)2024/2823が発効し、意匠制度を取り巻く様々な課題に対応するための大規模な規則改正が行われました。この改正は、デジタル時代への適応、定義や適用範囲の明確化、手続きの簡素化、そして各国間における保護ルールの統一化等を主な目的としています。

 

2.今後の見通し・経過措置

第1フェーズ(2025年5月1日)
2025年5月1日から改正規則が適用されます。

第2フェーズ(2026年7月1日)
改正規則には、二次法(施行規則および委任規則)によって、さらに整備する必要のある条文も含まれています。2026年7月1日からは、施行規則および委任規則による追加の改正が適用され、制度のさらなる整備と詳細な規定の実施が予定されています。

 

3.第1フェーズで運用開始となる主な改正事項
(1)用語の変更
Community Design 共同体意匠

European Union Design

(EU design, EUD)

EU意匠
The Community Design Regulation 共同体意匠規則 The European Union Design Regulation (EUDR) EU意匠規則
Community Design Court 共同体意匠裁判所 EU Design Court EU意匠裁判所

(https://www.euipo.europa.eu/en/designs/design-reform-hub)

(2)定義規定

ア 「意匠(design)」

 動き、変化、その他のアニメーションを含むことが明文化されました。

(EUDR Article 3(1))

イ 「製品(product)」

 「製品」は無体物を含むことが明記されました。物理的製品に具現化されているか否かにかかわらず、コンピュータプログラム以外の工業製品または手工芸品であれば全て「製品」に該当します。改正規則では、「包装」、「複数物品のセット」、「内装または外装の形成を意図した複数アイテムの空間配置」、「複合製品の部品」、「画像」、「シンボル」、「ロゴ」、「模様」、「タイプフェイス」、「GUI」を含むことが明記されました。

(EUDR Article 3(2))

(3)創作者名の変更登録

 婚姻などにより創作者の指名が変更された場合、登録簿の更新が可能となりました。

(EUDR Article 18)

 

(4)保護対象の明文化

 登録EU意匠の外観の特徴のうち、出願書類に視覚的に示されているものに対してのみ保護が与えられる旨の規定が新設されました。複合製品の構成部品に係る意匠は、当該複合製品の通常の使用状態において視認可能であることが求められます(例:車のバンパー)。

(EUDR Article 18a)

(5)侵害行為の類型拡充

 3Dプリントを想定し、デザインを記録する媒体またはソフトウェアの作成やダウンロード、コピー、共有または他人への配布が、新たな侵害行為の態様として明記されました。 また、登録EU意匠の権利者は、EU域外からEUへの模倣品の持ち込みを阻止する権利を有することが規定されました。

(EUDR Article 19(3))

(6)権利の制限

 権利行使が制限される行為として、以下2類型が新たに規定されました。

ア 当該意匠権者の製品であることを識別または言及する目的で行われる行為。
イ コメント、批評、もしくはパロディを目的として行われる行為

(EUDR Article 20(1)(e))

(7)権利消尽の領域拡大

 EU意匠権者またはその許諾を得た者によって、EU意匠権に係る正規品が欧州経済領域(EEA)内で市場に投入された場合、その後の取引や使用に対して、意匠権を行使することはできないことが規定されました。

(EUDR Article 21)

(8)登録マーク(Ⓓ)の表示

 意匠登録制度についての認知度向上と、意匠登録によって保護されている製品のマーケティング促進のため、意匠権者(またはその同意を得た第三者)は、円で囲まれた文字「D」(Ⓓ)を製品に表示できるようになりました。

(EUDR Article 26a)

(9)修理条項

 修理用部品(スペアパーツ)に関する意匠権の制限規定(修理条項)が、恒久的な規定として移設されました。これにより、改正前の共同体意匠規則における経過的措置として存在していた修理条項(第110 条)は廃止されます。
 修理条項は、複合製品の構成部品に対するEU意匠権の行使を制限し、当該部品が複合製品の外観を回復することを目的とした修理のために使用される場合には、権利の効力が及ばないとする規定です。

 また、本規定には、スペアパーツの製造者や販売者に対する消費者への情報提供義務も含まれています。具体的には、製品の商業上の出所(ブランド・販売元)や製造者の身元(メーカー名など)を、製品上の明確な表示や適切な方法で示す必要があります。この情報提供が不十分な場合、修理条項の適用を受けられず、修理用部品の自由な流通を主張することができなくなる可能性があります。ただし、製造者や販売者は、その部品がエンドユーザーによって修理目的のみに使用されるかどうかを監視・保証する責任は負いません。

(EUDR Article 20a)

(10)受理官庁

 各国官庁への出願は不可となり、今後は、EUIPO(欧州連合知的財産庁)へのみ出願可能となります。

(EUDR Article 35)

(11)出願日の認定要件

 出願費用(庁費)の支払いが、出願日認定の要件となりました。出願費用は、出願から1か月以内に納付することができます。

(EUDR Article 38)

(12)見本提出

 出願時に見本の提出が不可となりました。

Design Reform – EUIPO

(13)複数意匠出願

ア 「同一のロカルノ分類に属すること」という要件が削除され、異なる分類に属する複数の意匠を1出願に含めることが可能になりました。

Design Reform – EUIPO

イ 1出願に含めることのできる意匠の上限数が50に制限されました。

(EUDR Article 37(1))

(14)公告の繰り延べ

後述するとおり、新規則の下では、公告費用は出願費用の一部として、出願時にEUIPOへ納付する必要があります。そのため、従来のように、公告費用を未納のままにして公告を阻止することはできなくなりました。また、出願費用とは別に納付すべき公告繰延費用(deferment fee)が未納の場合、方式拒絶の対象となります。

複数意匠を含む出願では、意匠ごとに公告可否を判断し、異なる公告時期を設定する必要が生じることがあります。改正規則の下では、出願時に意匠ごとに適切な公告時期を判断する必要があります。また、最終的に公告を望まない意匠に関しては、公告前の所定の時期までに放棄申請を行う必要があります。この変更により、公告時期の管理の重要性が一層高まったといえます。

(EUDR Article 50)

(15)更新

ア 登録有効期限日の6か月前から更新手続きが可能となります。(基本更新期間)

(EUDR Article 50d(3)前段)

イ 期限日までに更新手続きを行わなかった場合、翌日から6か月間は更新猶予期間となり、この期間中に更新をする場合は追加料金が発生します。

(EUDR Article 50d(3)後段)

ウ 更新料が引き上げられます。(詳しくは以下「(19)費用の改定」を参照。)

 

(16)無効

 以下の改正は、主に既存の運用もしくは判例を、明文化もしくは成文化するために行われたものです。

ア 出願前の開示

「グレースピリオド」の適用範囲が明確化されました。出願前に開示された公知意匠とEU登録意匠が、第5条(新規性)の観点において同一である場合、または第6条(独自性)の観点において全体的印象が異ならない場合、その開示には12か月のグレースピリオドが適用されます。
今回の改正では「全体的印象が異ならない」場合もグレースピリオドの対象となることが明記されました。

(EUDR Article 7(2))

イ 正当な利益

 出願人が消滅または放棄されたEU意匠の無効宣言を請求できるのは、正当な利益を証明できる場合に限ることが明確化されました。

(EUDR Article 24)

ウ 既判力

 登録EU意匠の無効性に関するEUIPOの決定およびEU意匠裁判所の本案判決には既判力が認められます。その結果、同一の対象、同一の請求原因、同一の当事者による再度の無効宣言の申請等は行うことができません。

(EUDR Article 52(3))

エ 優先権の効果

 優先権の効果が及ぶ範囲が明確化されました。具体的には、EU意匠が他の意匠権と抵触する場合だけでなく、識別標識との抵触や著作権で保護された作品の無許可使用に該当する場合にも、優先権が関連することが明記されました。

(EUDR Article 43)

 

(17)侵害訴訟の手続き

ア 口頭審理

 審査官および登録部との口頭審理は非公開ですが、無効部および審判部での口頭審理は公開されます。

(EUDR Article 64)

イ 費用に関する決定の執行方法

 EUTMR第110条と整合が図られました。

(EUDR Article 71, EUTMR Article 110

ウ 訴訟または反訴

 EU意匠裁判所は、登録EU意匠の無効を求める反訴を受理した場合、当事者または裁判所が反訴の提出日をEUIPOに通知するまで、訴訟手続きを中断しなければなりません。EUIPOは反訴を認識し次第、登録簿に記録します。また、EUIPOに無効申請が反訴よりも先に提出されていた場合、EUIPOは国内裁判所に通知し、国内裁判所はEUIPOの最終決定が下されるまで訴訟手続きを中断する必要があります。

(EUDR Article 84)

エ 無効判決

 裁判所または当事者は、確定した裁判所の判決を「遅滞なく」EUIPOへ送付しなければなりません。

(EUDR Article 86(3))

オ 権利の回復

 権利の回復手続き期間は、6か月の猶予期間満了日から1年となります。また、回復が認められた場合、回復費用が返還されます。

(EUDR Article 67)

 

(18)登録簿、データベース、および包袋

ア 登録簿

 登録簿から、以下項目が削除されます。(ただし、既存の登録簿には反映されません)

  • 一部の代表者およびすべての意匠権者の国籍
  • 創作者住所の番地以下の表示(street address)

 また、改正第2フェーズで発効する取消請求の起算日の確認等に関連し、登録簿に「登録簿への登録日」(意匠の審査が完了した日)が記載されます。

(EUDR Article 72)

イ データベース

 EUIPOの公開データベースには、当事者および代表者の住所と国籍が表示されなくなります。住所の非表示は、過去・将来の登録の両方に適用されます。

(EUDR Article 72a)

ウ 包袋の閲覧および保管

 EUIPOは、無料のオンライン閲覧のみを提供します。EUIPO施設での閲覧や紙のコピーの提供は行いません。ファイルは電子形式で保管され、文書の保存はEUIPOの既存の慣行に従って行われます。

(EUDR Article 74a, b, c条)

(19)費用の改定

更新費用(EUR):

出願費用
1意匠目* 350
2意匠目以降** 1意匠当たり125
公告繰り延べ費用
1意匠目 40
2意匠目以降 1意匠当たり20
更新費用***
1回目 1意匠当たり150
2回目 1意匠当たり250
3回目 1意匠当たり400
4回目 1意匠当たり700

*    従来の「登録費用」と「公告費用」が、出願時に支払われるべき「出願費用」として一本化されました。支払額に変更はありません。

**  1出願に含まれる2意匠目以降についても、「登録料」と「公告料」の内訳が廃止され、「追加出願費用」に一本化されました。

  • 1~10意匠目:従来より費用が減額されます。
  • 11意匠目以降:費用が引き上げられます。

*** 更新費用が引き上げられます。2025年5月1日までに更新可能期間に入る意匠登録については、それまでに更新されることをお勧めいたします。

  • 新旧費用対照表及びその他の費用は、Summary Designs LR_I Phase.FINAL_EN.pdf:Annex I(13/17頁)をご参照ください。
  • 一部費用が廃止されます。対象費用は、上記Annex I以下「Fees DELETED」(16/17頁)をご参照ください。

 

4.参考資料

 

5.まとめ

2025年5月1日からの改正により、EU意匠制度はより明確化され、デジタル時代に適したものへと進化しました。さらに、2026年7月1日にはさらなる改正が適用される予定です。欧州での意匠出願や権利活用をご検討中の際には、最新の改正内容をご確認いただくことをおすすめいたします。