アップル社対サムスン電子社の最高裁判決
2017年6月1日掲載
米国特許弁護士 スコット マンダ―
Samsung Electronics Co. v. Apple Inc. 事件では、最高裁判所が100年以上ぶりに意匠特許事件を扱いました(上訴番号15-777、2016年12月6日)。
この事件は、2011年、アップル社が3件の意匠特許(D593,087;D618,677;D604,305)の侵害についてサムスン電子社を訴えることで始まりました。アップル社は、サムスン電子社のスマートフォンが上記の意匠特許を侵害していると主張しました。この事件の陪審は、一部のスマートフォンがアップル社の意匠特許を侵害していると判断しました。最終的にアップル社は3.99億ドルの損害賠償を得ました。この額は、侵害に係るスマートフォンについてのサムスン電子社の総利益に相当します。
この損害賠償は、意匠特許の侵害に係る損害に関する米国特許法289条に基づくものです。同条項には以下のように規定されています。
米国特許法289条:
「意匠特許の存続期間中に意匠特許権者の許可無く、(1)特許意匠又はそれに類似する意匠を販売の目的で任意の製造物に適用する者、又は(2)当該特許意匠又はそれに類似する意匠が適用されている製造物を販売又は販売のために展示する者は、当事者の管轄権を有する連邦地方裁判所において、その者の総利益を限度として250ドル以上の額を意匠特許権者に賠償する責任を負う。」
この事件の論点の中心は、「製造品(article of manufacture)」の範囲でした。最高裁は、「製造品」が「消費者に対し販売される最終製品」である場合、「特許権者は、侵害者から最終製品の総利益を得る権利を常に有する」としました。これに対して「製造品」が「最終製品の一部」である場合には、「特許権者がその権利によって侵害者から得られるのは、最終製品の一部からの総利益となり得る」としました。
判決に至る際、最高裁は、「製造品」の範囲には、消費者に対し販売された製品の場合、その製品の一部の場合の両方が含まれると考えました。最高裁は、289条の「製造品」の文言が消費者に対し販売された最終製品のみを対象とするものであると解するのは、この文言にあまりにも狭い意味を与えるものである、と述べました。
しかしながら、最高裁は、この事件での「製造品」がどちらであるかについて結論を下しませんでした。つまり、「製造品」がスマートフォン全体であるのか、スマートフォンの一部の構成要素のみであるのかを判断しませんでした。また最高裁は、意匠特許事件において「製造品」を正しく判断するためのテストも提示せず、CAFC(合衆国連邦巡回区控訴裁判所)にその審理の余地を残しました。
したがって、3.99億ドルの賠償額が的確であったかという疑問は残されたままです。「製造品」がスマートフォン全体であるのか、それともスマートフォンの一部のみであるかの最終的な判定は、損害賠償の額に大きな影響を与えるでしょう。
この事件の結果が意匠特許や損害賠償一般の問題について極めて重要となる可能性もあります。意匠特許権者が侵害品全体の総利益を侵害者から常に得ることができる場合、意匠特許の損害賠償額は大幅に高くなるでしょう。そうではなく、損害賠償額が侵害品の一部のみに基づくのであれば、賠償はより低額となる可能性があります。
また、製品のどの部分を「製造品」とみなすべきかを決定するためのガイドラインを最終的に裁判所が提示するときにも、意匠特許の損害賠償に大きな影響があるでしょう。
以上