限定公開【判例研究】令和6年10月30日判決言渡 令和6年(ネ)第10045号特許専用実施権侵害差止請求控訴事件「廃水処理装置事件」知財高裁判決
2025年3月4日掲載
弁理士 大前泰樹
1. はじめに
本稿では、令和6年(ネ)第10045号特許専用実施権侵害差止請求控訴事件を、いわゆる作用効果不奏功の抗弁に関連する事例として紹介します。なお、本文中の下線及び図面中の赤字の加工は筆者によるものです。
2. 事件の概要
控訴人(専用実施権者・一審原告):エンバイロ・ビジョン株式会社
被控訴人(一審被告):ABBiT株式会社
本件特許:特許第7061473号
発明の名称:廃水処理装置
3. 事件の経過
○令和4年 4月20日 特許権の設定登録
○令和6年 4月17日 東京地方裁判所 判決言渡(原告敗訴/令和5年(ワ)第70001号)
○令和6年10月30日 知的財産高等裁判所 判決言渡(控訴人敗訴/令和6年(ネ)第10045号)
本件は、エンバイロ社(専用実施権者)とABBiT社(被告)とが一審の東京地裁及び二審の知財高裁で争った事案です。被告システムが本件特許の技術的範囲に属さないとして、両審とも専用実施権者が敗訴しました。
4. 本件特許の概要
(1)特許請求の範囲
【請求項1】
A 処理対象となる被処理水を収容する第1の収容槽と、
B 該第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段と、
C 前記オゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容する第2の収容槽と、
D 該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段と、
E 前記第2の収容槽内に収容され、微小径の粉末状に生成され個々の粉末にオゾン分子を集めるポーラスを有する活性炭が担持される、多数の空孔が形成された複数の担体と、から少なくとも構成されており、
F 前記担体の空孔は、前記マイクロナノバブルよりも大径に形成され、前記空孔内に好気性微生物及び通性嫌気性微生物のいずれもが担持されている
G ことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2~7】 省略
(2)図面
本件特許第7061473号の図1(一部改変)
(3)明細書
本件特許の課題は以下の通り記載されています。
【0006】
(略)…汚水との混合効率の促進、そして殺菌効果や有機物分解等の廃水処理効果の促進のためには、オゾンを含有するバブルの径をマイクロレベル、更にはナノレベルと微小化することが望まれる一方、バブルの径を微小化するに伴い、これらのバブルは容易に圧壊することなく長時間にわたり処理後の廃水に含まれた状態で滞留するため、これらのバブルに超音波を照射する等の別段の手段を講じて圧壊させる必要が生じ、処理装置の規模が肥大化するという問題がある。
上記課題に対する解決手段及び効果は以下の通り記載されています。
【0017】
(略)…第1の収容槽にて、オゾン供給工程でオゾンによって殺菌処理された被処理水と残オゾンに対し、好気性微生物を担持した担体を収容した第2の収容槽にて、生物処理工程で酸素を含むマイクロナノバブルを供給することで、この酸素で活性化した好気性微生物による被処理水の生物処理を効果的に行うとともに、残オゾンに付加された酸素により水酸基ラジカル及び酸素に積極的に化学変化させることで、この残オゾンを早期に低減させることができる。
5. 被疑侵害品の概要
被控訴人の被疑侵害品は、本件特許における第1の収容槽、第2の収容槽、オゾンを含むマイクロナノバブル、微生物を担持する活性炭の要件を充足します。
しかし、本件特許の構成要素D「酸素を含むマイクロナノバブル」に対し、被疑侵害品は「オゾン(及び酸素)を含むマイクロナノバブル」となっていました。
この点が主要な争点となり一審は、積極的にオゾンが加えられているため、構成要素Dを充足しないと判断しました。
6. 争点
知財高裁での主要な争点は、被疑侵害品の「酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブル」が、本件特許の「酸素を含むマイクロナノバブル」を充足するかでした。被疑侵害品は実際に酸素を含むため、形式的には侵害に該当します。そのため、知財高裁においてオゾンを積極的に加えた場合も該当するかについて作用効果を中心に争われました。
構成要素Dの「酸素を含むマイクロナノバブル」の作用効果について、明細書及び意見書では2つの効果があると記載されています。
効果①は、微生物を活発化させて有機物分解を促進するというものです。効果①に関連して、意見書では「オゾン(自体)は微生物を滅菌してしまう虞がある」点、及び「オゾンの分解により酸素分子、水酸基ラジカルが生成される」点が主張されています。これは、オゾンが微生物を滅菌するため微生物にとってマイナスであることを意味します。
効果②は、残オゾンを早期に低減させるというものです。効果②に関連して、(前提として)オゾンは酸素に自然に分解する点、オゾンの分解は活性炭によって促進される点(明細書【0011】等)が主張されています。特に明細書において「残オゾンに付加された酸素により水酸基ラジカル及び酸素に積極的に化学変化させる((【0017】等)」と記載されており、これはオゾンと酸素とが何かしらの相互作用をして、オゾンの分解を促進することを匂わせていると考えられます。
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