新紙幣と知的財産|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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新紙幣と知的財産

副所長 弁理士 岡田恭伸

 2024年7月3日から新紙幣が発行されました。私は、この執筆時点では手にしていませんが、これをご覧になる頃には皆さまのお手元にあるかもしれません。キャッシュレスの時代ではありますが、紙幣が変わるというのは、めったにないことで新鮮な気持ちになります。

 今回の新紙幣には、偽造を防止する技術が盛り込まれているとともに特徴的なデザインが施されています。このため、新紙幣と知的財産権について取り上げてみようと思います。

 新紙幣を製造しているのは、国立印刷局です。国立印刷局が出願人となる特許出願を調べてみたところ、偽造防止技術に関して継続的に特許出願をしていることが分かりました。また、取得した特許権の一部について、ライセンス供与可能な技術が公開されていました(https://www.npb.go.jp/product_service/tech/license.html)。

 新紙幣に、どのような特許技術が適用されているのかまでは分かりませんでしたが、継続的に特許出願が行われていることから、偽造防止技術に関する開発は継続的に進められていることが感じられますし、その技術を民間企業にも提供していく意向が伺えます。確かに、価値のある印刷物は、紙幣に限らず、商品券や証券などがありますので、これらの偽造防止技術が使われることによって、ユーザが安心できるようになっていると感じました。

 もちろん、秘匿にするべきところもあると思いますので、秘匿とするところと権利を取りに行くところでメリハリを付けたオープン・クローズ戦略を行っているものと推察されます。これにより、技術の秘匿性と、民間企業への貢献との両立が図られているのかと思います。なお、最近、非公開特許制度が始まりましたが、このような偽造防止技術は、非公開特許の対象となる技術分野には含まれておりません。もっとも、本当に秘匿にしなければならないものは、そもそも特許出願しないと考えられますので、特段問題にはならないと考えます。

 意匠については、登録当時に話題になったので既に皆さんもご存知かもしれませんが、一万円札、五千円札、千円札のそれぞれが意匠登録されています。

 意匠権を侵害するということは、偽造行為になる可能性が高いため、別の法律で処罰されると思うのですが、偽造ではないが悪質な模倣品などを取り締まるための措置なのかもしれません。

 ちなみに、紙幣が使用される期間を考えると、永久権である商標の方が好ましいのではないかとも思いましたが、商標はありません。これはなぜだろう?と弊所の佐久間弁理士に聞いたところ、紙幣は、意匠法上の「物品」に該当する一方で、商標法上の「商品」には該当せず、商標登録できない可能性が高いとの見解でした。また、紙幣には、著名人の肖像画が描かれていますが、このような肖像画が含まれている場合、公序良俗違反となる可能性が高いとのことです。個人的には、ひょんなことから、意匠と商標との違いを知る良い機会となりました。

 キャッシュレスの時代とはいえ、紙幣がなくなることはありません。そして、紙幣がある以上、偽造防止技術がなくなることもありません。また、紙幣に限らず、不正行為や盗難などに対する対策技術は日々開発されています。例えば、車両であれば盗難防止技術がなくなることはなく、遊技機であれば不正対策技術がなくなることもありません。そして、これらに関する特許出願も継続的に行われています。ブロックチェーンなどの技術も同様です。

 知的財産権とは、ビジネス要素が強い権利ではありますが、企業や人々を豊かにするイノベーションのためだけではなく、人々の生活を守るイノベーションのための権利でもあります。少し大げさかもしれませんが、特許事務所に勤める私たちもその一役を担っていると思って、日々業務に励んでまいります。