中国における実用新案、意匠出願について|オンダ国際特許事務所

中国における実用新案、意匠出願について|オンダ国際特許事務所

意匠制度の概要

(2025年1月更新)

中国の意匠制度には、日本の意匠法のような独立した法律が存在せず、特許、実用新案、意匠がすべて「専利法」という1つの法律によって規定されています。

  1. 三つの類型の専利権については、特別な規定がない限り、共通の条項が適用されます。
  2. 専利法における意匠に関する特別な規定は、以下の条文で定められています。
  • 専利法第2条4項(意匠の定義)
  • 専利法第11条2項(意匠権の侵害行為)
  • 専利法第23条(意匠の登録要件)
  • 専利法第25条6号(意匠権付与されない対象)
  • 専利法第27条(意匠出願)
  • 専利法第29条、第30条(優先権の主張)
  • 専利法第31条2項(単一性)
  • 専利法第33条後段(意匠出願の補正)
  • 専利法第40条(初歩的な審査で登録)
  • 専利法第42条(意匠権の存続期間)
  • 専利法第64条2項(意匠権の保護範囲)
  • 専利法第66条2項(意匠権評価報告書の提示)

実務上のアドバイス

  1. 特許、実用新案、および意匠間での先後願は判断されません。
    中国では、日本と異なり、特許、実用新案および意匠が一つの専利法で規定されています。しかし、意匠の登録要件を定める条文は専利法第23条であり、特許および実用新案の登録要件を定める条文は専利法第22条です。このように条文が異なることから、日本と同様に、特許、実用新案および意匠間での先後願は判断されません。
  2. 中国において、全体意匠と部分意匠は、同日出願する必要があります。
    専利法第23条1項の規定によれば、拡大先願の対象は「いかなる組織または個人」にもおよびます。そのため、同一の出願人であっても、後願は拒絶されることになります。この規定は、日本の意匠法第3条の2における「出願人が同一の場合、全体意匠出願の後に部分意匠を出願しても後願が拒絶されない」という規定とは異なるため、注意が必要です。

専利法第22条
専利権を付与する発明および実用新案は、新規性、進歩性および実用性を具備していなければならない。 新規性とは、当該発明または実用新案が従来技術に属さず、いかなる組織または個人も同様の発明または実用新案について、出願日前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ、出願日以降に公開された専利出願書類または公告の専利書類に記載されていないことを指す。 進歩性とは、従来技術と比較して、当該発明が突出した実質的特徴および顕著な進歩を有し、また、当該実用新案が実質的特徴および進歩を有することを指す。 実用性とは、当該発明または実用新案が製造または使用に適し、かつ積極的な効果を生むことができることを指す。 なお、本法における従来技術とは、出願日前に国内外で公然知られた技術を指す。

専利法第23条
専利権を付与する意匠は、従来設計に属さないものでなければならない。また、いかなる組織または個人も同様の意匠について、出願日前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ、出願日以降に公開された専利書類に記載されていないものでなければならない。 専利権を付与する意匠は、従来設計または従来設計の特徴の組み合わせと比較して、明らかな違いを有しなければならない。 専利権を付与する意匠は、他人が出願日前に取得した合法的権利と衝突してはならない。 本法における従来設計とは、出願日前に国内外で公然知られたデザインを指す。

意匠出願の流れ

専利法第40条

意匠出願が初歩的な審査を経て拒絶理由がなければ登録となります。また、意匠権は登録公告日から発効します。

初歩的な審査は主に以下の内容が審査されます。(実施細則第50条3号)

  1. 形式要件の審査
    「名称」、「図面」、「簡略説明」が定められている要件を満たしているか
  2. 不登録事由に該当するか
  3. 明らかに新規性、創作非容易性がないか
  4. 単一性要件を満たしているかなど

実体審査が行われないため、出願からおおよそ3~6か月で登録されます。

2008年の第三次専利法改正により、意匠権評価報告書制度が導入されました。権利行使等を行う際には、意匠権評価報告書を取得し、権利の有効性を確認すればよいとされています。

実務上のアドバイス

意匠出願の初歩的な審査においては、新規性や創作非容易性も審査の対象となります。ただし、審査官は従来意匠の調査を行うことなく、自身が把握している従来意匠と本願意匠を単独対比の手法で比較し、両意匠が明らかに区別できるかどうかを判断します。つまり、日本のように実体審査までは実施されていません。

意匠出願の必要書類

意匠出願の先願権を確保するためには、以下の書類を提出する必要があります(専利法第27条1項)。

  • 願書
  • 図面または写真
    ※図面または写真は保護を求める意匠を明確に示す必要があります(専利法第27条2項)
  • 簡略説明(実施細則第31条1項)

    「簡略説明(Brief Explanation)」には以下の内容を含める必要があります。

    (1)意匠製品の名称
    ※願書に記載された名称と一致させる必要があります。
    (2)意匠製品の用途
    ※製品の分類を特定するための用途を記載する必要があります。部品の場合、その部品が適用される製品名を記載し、必要に応じてその製品の用途も明記することが望ましいです。多用途製品の場合は、複数の用途を記載する必要があります。
    (3)意匠製品の設計要点
    (4)設計要点をもっとも表す図面または写真(登録公告用)

意匠権の保護範囲

意匠権の保護範囲は図面または写真に示された製品の意匠を基準とし、「簡略説明」は図面または写真に示された当該製品の意匠の解釈に用いることができます(専利法第64条2項)。

実務上のアドバイス

「簡略説明」は出願日を確保するために必須の書類です。また、「簡略説明」は意匠権の保護範囲の解釈に用いることができるため、出願時に(2)意匠製品の用途および(3)意匠製品の設計要点を記載する際には、後の権利解釈に不利な影響を与えないよう、慎重に記載内容を検討することが重要です。

意匠出願の遅延審査請求

様々な理由から、出願人が出願の権利化を遅らせたいという場合があります。この背景を踏まえ、国家知識産権局は産業界の要請に応じて、審査指南第三二八号公告に基づき、審査指南第五部分第七章に「8.3節」を新設し、遅延審査請求制度を導入しました(2019年11月1日施行)。
さらに、2023年版改正審査指南では、第三二八号公告で定められていた規定が改正され、公開時期のコントロールがより柔軟に行えるようになりました。

  第三二八号公告 2023年版改正審査指南
遅延審査請求 出願と同時に請求 出願と同時に請求
遅延審査請求の申請期間の単位 1年、2年、3年のいずれかを指定 月単位で最長36カ月まで遅延審査請求が可能
遅延審査期間満了前に遅延審査請求を撤回できるか ×

実務上のアドバイス

  1. 遅延審査請求は出願時にのみ行うことができます。
  2. 2023年版改正審査指南により、遅延審査期間満了前に遅延審査請求を撤回できるようになりました。そのため、実務上、出願時にあらかじめ長めの遅延期間を請求し、公開したい時期に合わせて遅延審査請求を撤回することで、公開時期を希望通りにコントロールすることが可能です。

部分意匠制度の導入

第四次専利法の改正(2021年6月1日施行)に伴い、意匠の定義を定める専利法第2条4項が改正されました。改正後の定義では「意匠とは製品の全体または部分(局部)の形状、模様またはそれらの結合および色彩と形状、模様の結合について作りだされた、美しさに富みかつ工業的応用に適した新たな設計をいう」とされています。

この改正により、製品の部分(局部)も意匠権の保護対象に含めることが可能となり、部分意匠制度が導入されました。

部分意匠出願書類

部分意匠の名称

保護を求める部分とその部分が存在する製品全体を明記する必要があります(審査指南第一部分第三章第4.4.1節)。
例:ボトルの瓶口、カップの取っ手、自動車の後部

部分意匠の図面に関する要件

  1. 部分意匠の出願に際しては、全体製品の図面を提出し、破線と実線との結合または他の方法を用いて、保護を求める部分を明示する必要があります(実施細則第30条2項)。
  2. 提出する全体製品の図面には、部分意匠が全体製品のどの位置に存在するか、その位置および比例関係を明確に示す必要があります。
  3. 部分意匠が立体形状を含む場合、当該部分意匠の斜視図を提出する必要があります。(審査指南第一部分第三章第4.2節)

簡略説明に関する要件

保護を求める部分(局部)については、「簡略説明」において明確に説明する必要があります(実施細則第31条3項)。さらに、以下の規定を満たす必要があります(審査指南第一部分第三章第4.4.3節)

  1. 破線と実線以外の方法で保護を求める部分意匠を示す場合
    「簡略説明」において、保護を求める部分(局部)を明確に説明する必要があります。
  2. 一点鎖線で部分意匠とその他の部分との境界線を表示する場合
    必要に応じて、「簡略説明」でその旨を説明する必要があります。 
  3. 保護を求める部分意匠の用途の記載
    必要に応じて、保護を求める部分意匠の用途を明記し、さらに、製品名称に反映されている用途と一致させる必要があります。
  4. 設計要点を最もよく表す図面(写真)
    設計要点を最もよく表す図面(写真)には、保護を求める部分意匠が含まれていなければなりません。

部分意匠の単一性

1件の意匠出願は一つの意匠に限られます。同一製品に関する2つ以上の類似意匠、または、セット製品に関する2つ以上の意匠については、1件の出願として提出することが可能です(専利法第31条2項)。

一つの意匠(審査指南第一部分第三章第9節)

同一製品における2つ以上の連接関係のない部分意匠は、機能上またはデザイン上関連性があり、かつ、特定の視覚効果を形成できる場合、「一つの意匠」とすることができます。
例えば、眼鏡の2つのテンプルの形状や携帯電話の4つの角の設計等

類似意匠

同一製品に関する2つ以上の類似意匠は1件の出願として提出することが可能です。
以下の場合は通常、類似意匠とみなされます。

  • 保護を求める部分(局部)が類似している場合
  • 保護を求める部分(局部)の全体製品における位置または比例関係が通常範囲での変化である場合

セット製品の意匠

セット製品の意匠として認められるためには、以下の条件1~3をすべて満たす必要があります。

  1.  同一の分類(ロカルノ分類)に属していること
  2.  慣習上、同時に販売または使用されること
  3.  各意匠には同様なデザイン構想を有していること

例えば、コーヒーカップ、コーヒーポット、シュガーポット、ミルクポットなど。

実務上のアドバイス

セット製品に関しては、部分意匠類似意匠としての出願は認められません。

GUIに係る製品の意匠

1.GUIに係る製品の意匠が保護されるようになった経緯

GUIに係る製品の意匠は、2014年の「審査指南改正第六十八号公告」によって保護対象に含まれるようになりました。
その後、2019年の「審査指南改正第三二八号公告」によって、設計要点がGUIのみにある場合には、GUIが所在する面の正投影図のみを用いて出願が可能となり、また、「表示スクリーンパネル」が製品名として認められるようになりました。
さらに、2023年の実施細則および審査指南の改正により、部分意匠制度の導入に伴い、出願方法が多様化し、「電子機器」も製品名として認められるようになりました。

 

2.GUIに係る製品の意匠の出願方法

3.GUIに係る製品の意匠の名称

  • 名称には「GUI(Graphical User Interface“图形用户界面”)」というキーワードを含める必要があります。
  • GUIの具体的な用途およびそれが適用される製品を明確に記載する必要があります。
    例:温度制御GUI付き冷蔵庫、健康診断管理GUIの表示スクリーンパネル、電子機器のセキュリティGUI

実務上のアドバイス

GUIを含む意匠は、製品に関連するGUIに限定されており、製品から独立したGUIは依然として保護の対象外です。
しかし、GUIに係る製品の意匠が保護対象となった経緯から分かるように、製品に対する依存性は徐々に減少しています。この変化に伴い、「表示スクリーンパネル」や「電子機器」といった一般名称の製品名も意匠登録において認められるようになっています。

意匠権が付与されない対象

専利法第25条1項6号

平面印刷品模様、色彩または両者の結合が主に標識としての機能を果たす場合には、意匠権は付与されません。
ただし、この規定は壁紙や繊維製品には適用されません(審査指南第一部分第三章第6.2節)。

専利法第2条4項

専利法第2条4項の規定に基づき、以下のいずれかに該当する場合は意匠権付与されない対象となります(審査指南第一部分第三章第7.4節)。

  1. 特定の地理条件に依存し、再現が困難な固定建築物や橋梁の設計など。
    例:特定の風景を含む山水別荘
  2. 気体、液体、粉末状など、固定されていない形状の物質を含むため、形状や模様、色彩が一定でない製品。
  3. 複数の異なる特定の形状や模様の部品から構成される製品について、各部品が単独で販売も使用もできない場合、その部品は意匠権の保護対象に含まれない。例えば、異なる形状のブロックで構成されるパズル玩具は、全てのブロックを一つの意匠として申請する場合にのみ、意匠権の保護対象となる。
  4. 視覚に作用しない、または肉眼で確認することが難しく、特定のツールを用いることで初めて形状、模様、または色彩を確認できる物品。例えば、紫外線ランプを照射した際にのみ模様が現れる製品。
  5. 自然物の形状、模様、または色彩を主体としたデザイン。例えば、自然物そのものや、自然物を模したデザイン。
  6. 純粋に美術、書道、または撮影の範疇に属する作品。
  7. 製品が属する分野において一般的な幾何学的形状や模様のみで構成される意匠。
  8. 文字や数字の発音およびその意味は、意匠保護の対象には含まれない。
  9. ゲームインターフェースや人間と機器の相互作用が存在しない表示装置に表示される模様。例えば、電子スクリーンの壁紙、起動・終了画面、または人間と機器の相互作用に関連しないウェブページ上の画像や文字のレイアウトなど。
  10. 製品において相対的に独立した区域を形成せず、または、相対的に完全な設計ユニットを構成しない部分意匠。例えば、水杯の取っ手における一つの折れ線や、任意に切り取られたメガネレンズの不規則な部分。
  11. 保護を求める部分意匠が製品表面の模様または模様と色彩との結合に関するデザインのみである場合。例えば、オートバイの表面に施された模様。

ハーグ協定への加盟

中国はハーグ協定への加盟を見据え、第四次専利法の改正(2021年6月1日施行)において、意匠権の存続期間を出願日より10年から15年に延長しました。
その後、2022年2月5日にハーグ協定のジュネーブ改正協定(1999年改正協定)への加入書を寄託し、同年5月5日に中国で正式に発効しました。

加入時の宣言事項は下記通りです。

説明 詳細
追加の必須の内容 意匠の設計要点に関する「簡略説明」(実施細則第142条)
指定費 個別指定手数料適用
意匠/複製物

単一性の要求
図面の要求

拒絶の通報 国際公表日から12カ月まで延長
国際登録効力発生日 国内公告日から効力発生(実施細則第143条)
その他 権利変更の証明書類
保護期間 最長15年

出典:「ハーグ協定下の意匠国際保護」
2024年5月10日公益講座 主催:国家知識産権局専利文献館