中国における実用新案、意匠出願について|オンダ国際特許事務所

中国における実用新案、意匠出願について|オンダ国際特許事務所

実用新案制度の概要

(2025年1月更新)

中国の実用新案制度には、日本の実用新案法のように独立した法律が存在せず、「専利法」という1つの法律で特許、実用新案、および意匠がすべて規定されています。

  • 三つの類型の専利権については、特別な規定がない限り共通の条項が適用されます。例えば、専利法には日本実用新案法第29条の2、第29条の3に相当する条項が存在しません。
  • 出願時には、願書に専利権の類型を明記する必要があり、出願後に出願類型の変更は認められません。つまり、日本のような出願後の出願変更制度は存在しません。

実務上のアドバイス

専利法には日本実用新案法第29条の2、第29条の3に相当する条項はありません。特に、第29条の3で定められている「実用新案登録が無効と確定したとき、技術評価書の提示やその他相当の注意を怠りその権利の行使またはその警告により相手方に損害を与えた場合には損害賠償責任を負う」との規定が存在しません。
そのため、中国の実用新案専利権は日本の実用新案権に比べて、権利行使が容易であるといえます。したがって、ライフサイクルが短く、構造的特徴を有する技術については、積極的に実用新案の出願を検討することを推奨します。

実用新案の保護対象

実用新案の定義を定める専利法第2条3項では、「実用新案とは製品の形状、構造またはそれらの結合について出された実用に適する新しい技術方案である」と定義されています。この定義に基づき、製品の形状や構造的特徴が含まれない、物質の分子構造や組成(主に化学分野)および方法発明は、実用新案による保護を受けることができません。

実務上のアドバイス

実用新案出願については、初歩的な審査を経て拒絶理由がなければ登録されます。実務上、実用新案出願の初歩的な審査では、形式的な不備の有無に加え、請求項で特定された技術方案が実用新案の保護対象に該当するかが重点的に審査されます。特に製品の構造に関する以下の解釈は、実務において参考にする価値があるといえます。

  1. 製品の構造には、機械構造や電子部品の接続を構成する回路構造が含まれます。
  2. 複合層は製品の構造とみなされます。製品の浸炭層や酸化層などが複合層構造に含まれるため、実用新案の保護対象に該当します。
  3. 物質の分子構造、成分、金相構造などは実用新案で保護される製品の構造には含まれません。例えば、溶接棒の薬皮成分のみを変更した電極棒は、実用新案の保護対象には該当しません。
  4. 請求項に製品の形状や構造的特徴以外に材料自身の改良が含まれる場合、それは実用新案の保護対象には該当しません。

実用新案の出願戦略

実用新案出願は、初歩的な審査を経て拒絶理由がなければ登録されます。また、実用新案権は登録公告日から発効します(専利法第40条)。

実務上のアドバイス

  1. 実用新案出願については、実体審査が行われず、初歩的な審査を経て拒絶理由がなければ登録されます。そのため、権利化までの所要時間は特許発明出願に比べて短く、早期に権利化を図れるというメリットがあります。
  2. 特許と実用新案のそれぞれの特徴を活かした出願戦略が考えられます。具体的には、基本発明を特許出願し、長い保護期間(20年)を獲得する一方で、模倣されやすくライフサイクルの短い(10年ほど)構造的改良については、積極的に実用新案出願を行うことが有効です。
  3. 重要な発明であり、かつ早期に権利化したい場合には、特許と実用新案を同日に出願することも考えられます。

特許、実用新案の同日出願

  • 同一の発明創造について、同じ出願日に同一出願人が実用新案と特許を両方出願する場合、出願時に同一の発明創造に対して他の専利類型も出願していることをそれぞれ明示する必要があります。明示がない場合、同一の発明創造に対して一つの専利権のみが付与される規定に基づいて処理されます。
  • また、実用新案権の付与を公告する際には、出願人が特許も同時に出願していることを公告しなければなりません。
  • 特許出願について実体審査が行われ、権利付与の見通しがある場合、出願人に対して指定の期限内に実用新案権を放棄する旨を声明するよう通知されます。出願人が放棄を声明した場合、国務院の専利行政部門は特許権の付与を決定し、特許権付与の公告時に出願人が実用新案権を放棄した旨も併せて公告します。
  • 一方、出願人が放棄に同意しない場合、国務院の専利行政部門は当該特許出願を拒絶しなければなりません。また、期限内に回答がない場合、その特許出願は取り下げられたものとみなされます。
  • なお、実用新案権は特許権の付与が公告された日をもって終了します。

実務上のアドバイス

特許出願については、実体審査において明細書の記載内容を請求項に加える補正が可能です。一方、実用新案出願については実体審査が行われず、請求項を補正する機会がないまま登録されます。登録後の実用新案権については、無効審判の場でのみ補正が可能ですが、中国の無効審判の審理では明細書の記載内容を請求項に加える補正が認められません。
この点を考慮すると、実用新案の請求項については、上位概念から中位概念、さらに具体的実施例まで、段階的に複数の請求項をクレームアップすることが推奨されます。

専利権評価報告書

専利法第40条の規定により、実用新案および意匠出願は初歩的な審査を経て拒絶理由がなければ登録されます。実体審査を受けずに登録された実用新案権の有効性を確認するため、2000年の第二次専利法改正で「実用新案調査報告書制度」が導入されました。また、同様に、実体審査を受けずに登録された意匠権の有効性を確認するため、2008年の第三次専利法改正で「意匠権評価報告書制度」が導入されました。これらを総称して「専利権評価報告書」と呼ばれます。

専利権評価報告書作成の請求適格者

専利権評価報告書の作成を請求できる者は、以前は専利権者および利害関係者(独占実施権者を指す)に限られていました。しかし、2020年の第四次専利法改正により、「専利権者、利害関係者または専利権侵害を訴えられた者」にまで拡大されました(専利法第66条第2項)。

専利権評価報告書作成の請求時期

2023年の実施細則改正により、「専利権者、利害関係者または専利権侵害を訴えられた者」が専利権評価報告書の作成を請求できることが明確にされました。また、「出願人は権利登録手続きの際に専利権評価報告書の作成を請求できる」との規定(実施細則第62条第1項)が新たに設けられました。

専利権評価報告書の作成に要する時間

専利権評価報告書の作成にかかる時間は、請求を受理した日から2か月以内、または登録手続きを行う際に請求された場合は公告日から2か月以内と定められています(実施細則第63条第1項)。

実務上のアドバイス

  1. 一つの実用新案権または意匠権について、専利権評価報告書は1件しか作成されません。実用新案権評価報告書の評価結果が否定的であっても、日本のように請求項を訂正して再度評価報告書を請求することはできません。
  2. 専利権評価報告書はいかなる会社や個人でも閲覧および複製することが可能です。国家知識産権局のウェブサイトに提供される「中国専利審査情報照合」の「書類発送情報」セクション(https://cpquery.cponline.cnipa.gov.cn/chinesepatent/index)に評価報告書に関する情報が掲載されています。
  3. 専利権評価報告書の用途
    ・警告書(弁護士書簡)に添付
    ・ライセンス交渉の資料
    ・侵害訴訟の審理の中止判断のための材料
    ・行政取り締まりの際の証拠として活用
    ・ECサイトへの侵害申請の根拠
    ・税関保護届け出申請の資料