数ヶ月前に当所ホームページにおいて論じましたように、米国特許法においては、特許クレームにおける用語の解釈について懸案となっている問題があります。即ち、クレームで使用される用語を解釈する際の主たる判断材料として、(1)特許明細書や包袋等の内的証拠(evidence
intrinsic to the patent) および(2)技術辞書や専門書等の外的証拠のうち、いずれを採用すべきかという問題です。
このため、連邦控訴裁判所は、Phillips v. AWH Corp. et al事件について、広くクレーム解釈について取扱い、この問題を解決するために、大法廷(en
banc)における再審理を命じました。大法廷では、通常の3名の裁判官からなる合議体ではなく、連邦控訴裁判所のすべての裁判官12名により、当該事件を審理します。
連邦控訴裁判所は、この大法廷によるPhillips v. AWH Corp. et al事件の判決を2005年7月13日に発表しました。意見は割れ、12名中9名の裁判官が多数意見の分析すべてに同意しましたが、残り3名のうち2名の裁判官は多数意見にほぼ同意しつつも数点において意見を異にしており、最後の1名は反対意見を有していました。
多数意見においては、内的証拠が特許のクレームに記載される用語の解釈の主たる根拠とすべきであるとされました。また、クレームの文言を解釈するにあたり、クレームの文言を明細書に照らし合わせて読むべきであり、明細書がクレーム解釈における主たる根拠とするべきであるとされました。そして、出願経過も内的証拠の一部を形成するものであり、クレーム解釈の際に考慮されるべきであるとされました。しかしながら、出願経過は米国特許商標庁と出願人の間におけるやりとりの記録であるため、「明細書のような明瞭性に欠けることが多く、クレームを解釈する目的においては、明細書に比較すれば非実用的である」とも述べられました。
また、辞書や専門書等の外的証拠については、クレームの解釈に有用となりうる場合があり、下級審が有用であると判断した場合には下級審により考慮されうる、とされましたが、外的証拠は、特許明細書やその出願経過に比べると、概して信頼性がより低いとも述べられています。
さらには、「クレームの意味の解釈に明細書を使用することと、明細書の記載からクレームを限定解釈することとの区別は、実務上難しい場合がある」との認識が示されております。具体的には、過去の判例において繰り返しなされてきた、明細書に記載される特定の実施例にのみクレームの範囲を制限することに対する警告について触れており、連邦控訴裁判所が「特許に実施例が一つしか記載されていない場合に、特許クレームをその実施例に限定して解釈すべきであるとの主張を明確に退けてきた」事実について言及しています。
今回の事件において問題となったのは、クレームに記載される”バッフル (baffle) ”という用語の適切な解釈についてでした。特許明細書においては、開示される装置の壁部に対して直角に配置されるバッフルが設けられていない実施例が記載されていました。一方、先行技術においては、直角に配置されるバッフルが開示されていました。このことから、下級審および合議体による先の控訴審においては、クレームにおけるバッフルの記載は、壁面に対して直角に配置されるバッフルを含まないものとして解釈しました。この解釈のために、特許権者は侵害を立証することができず、非侵害の略式判決が認められました。
しかしながら、大法廷における多数意見はこの解釈に同意しませんでした。多数意見によれば、当業者は、クレームに記載される「バッフル」が装置の壁面に対して直角に配置される構造を除外するものとして、当該特許の開示事項およびクレームを解釈することはしないであろうとの見解がなされました。従って、大法廷の多数意見は、非侵害の略式判決を覆し、本事件を差し戻したのです。事件が差し戻されるにあたり、下級審は、クレームが先行技術により無効であるとの判断を下すことができます。
多数意見はさらに、クレーム解釈に他の様々な手段を用いてもクレームの用語が不明瞭である場合についてのみ、クレームは有効となるように解釈されるべきであるとしました。
私の意見では、大法廷の判決は、特許権者を保護するという点から、米国特許法にとって望ましい判決であったと思います。下級審および合議体による先の控訴審における見解は、明細書に記載される事項を限定事項としてクレームに組み込んで解釈することになるため、「バッフル」という用語の解釈に問題を残すものでした。大法廷における多数意見により、このように明細書の記載を限定事項としてクレームに組み込んで解釈することは不適切であることが明らかにされました。
さらには、本判決は、クレームを解釈する上でも有益であるといえます。この判決により、内的証拠および外的証拠が、クレーム解釈において互いにどのような役割を果たすのかが明確にされ、内的証拠の中でも、特許明細書と出願経過に特に重きが置かれることが明らかになったわけです。
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