中国専利制度概要|オンダ国際特許事務所|知的財産権のサポート

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中国専利制度の概要

(2025年1月改訂)

1978年に決定された改革開放の一環として専利制度が導入されました。専利法は諸外国の制度を手本とし、特にヨーロッパ特許条約(EPC)の立法体系から大きな影響を受け、1984年に制定されました。専利法は1985年4月1日より施行され、2024年11月時点で、これまでに4回の法改正が行われています。

主な国際条約の加盟状況

  • 世界知的所有権機関(WIPO)(1980年)
  • 工業所有権の保護に関するパリ条約(1984年)
  • 特許協力条約(PCT)(1993年)
  • 世界貿易機構(WTO)(2001年)
  • 意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(2022年)

 ただし、専利法条約(PLT)にはまだ加盟していません。

専利の種類

中国専利法では、日本の特許、実用新案、意匠に相当するものを、「専利」という一つの文言でまとめています。

発明専利:日本の「特許」に相当
実用新型専利:日本の「実用新案」に相当
外観設計専利:日本の「意匠」に相当
  1. 先願主義
  2. 審査主義(特許:実体審査、実用新案または意匠:初歩的審査)
  3. 特許については審査請求制度(出願日(優先日)から3年以内)
  4. 特許については出願公開制度(出願日(優先日)から18か月以降)
    出願人の請求に基づき早期公開は可能

専利権付与の要件

専利権を付与する発明および実用新案は、新規性、進歩性および実用性を備えなければならない(専利法第22条)。

新規性

  • 当該発明または実用新案が従来技術に属さない。
  • いかなる組織または個人も同様の発明または実用新案について、出願日前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ出願日以降に公開された専利出願文書または公告された専利文書に記載されていない(抵触出願)。

実務上のアドバイス

抵触出願は日本でいう拡大先願に相当します。日本特許法第29条の2では「ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願または実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない」という例外規定が設けられています。しかし、中国専利法にはこのような例外規定が存在しません。
つまり、中国においては、同一出願人による複数の出願であっても、拡大先願となる可能性があります。そのため、自己衝突を回避するためには出願戦略に十分な注意を払う必要があります。

進歩性

従来技術と比べて当該発明に突出した実質的特徴および顕著な進歩があり、当該実用新案に実質的特徴および進歩がある。

実務上のアドバイス

  1. 実用新案の進歩性基準は発明の進歩性基準と比較して低く設定されています。そのため、ライフサイクルが短く、構造的な特徴を有する技術については、実用新案を積極的に活用することが推奨されます。
  2. 従来技術とは、出願日前に国内外において公然と知られた技術を指すと規定されています。つまり、世界公知公用の概念が導入されており、日本での販売も公然使用の証拠となり得ます。このため、他人に権利を取得された場合に備え、無効審判を見据えて、日本での販売に関する証拠を適切に保管することが重要です。

実用性

当該発明または実用新案が製造または使用に堪え、かつ積極的な効果を生むことができる。

専利権が付与されない事由

  • 国家の法律、社会の公徳に違反しまたは公共の利益を害する発明創造(専利法第5条1項)
  • 法律と行政法規の規定に違反して遺伝資源を取得しまたは利用し、かつ当該遺伝資源に依存して完成された発明創造(専利法第5条2項)
  • 科学的発見(専利法第25条1号)
  • 知的活動の規則および方法(専利法第25条2号)
  • 疾病の診断および治療方法(専利法第25条3号)
  • 動物および植物の品種(専利法第25条4号)
  • 原子核変換の方法および原子核変換の方法により得られた物質(専利法第25条5号)
  • 平面印刷物の模様、色彩または両者の結合に対して作られた主に標識の役割を果たすデザイン(専利法第25条6号)

実務上のアドバイス

請求項が抽象的なアルゴリズムや単純なビジネス規則・方法に関わり、かつ、いかなる技術的特徴も含まない場合、専利法第25条2号で規定される「知的活動の規則および方法」に該当し、専利権は付与されません。

一方で、請求項にアルゴリズム的特徴以外に、技術的特徴が含まれている場合、その請求項全体が「知的活動の規則および方法」ではないから、専利権を獲得する可能性を否定すべきではありません。

実務においては、特に近年注目されているAI関連発明を含むコンピュータソフトウェア関連発明について、請求項に一つでも「技術的特徴」を記載しておけば、「知的活動の規則および方法」に該当すると判断されることを回避できるとされています。

出願人となることができる者

非職務発明

非職務発明創造については、専利出願権は発明者または創作者に帰属します(専利法第6条第2項)。

職務発明

所属単位(企業、団体など)の任務を遂行することで、または主に所属単位の物質や技術条件を利用することで完成された発明創造は職務発明とします。職務発明の出願権そのものは所属単位に帰属します(専利法第6条第1項)。

専利権を付与された単位は、職務発明創造の発明者または創作者に対し、奨励を行わなければなりません。また、発明専利が実施された後、その普及・応用の範囲および獲得した経済的効果に応じて、発明者または創作者に合理的な報酬を与えなければなりません(専利法第15条第1項)。

約定優先原則

主に所属単位の物質や技術条件を利用することで完成された発明創造については、所属単位と発明者または創作者との間で契約を締結し、専利出願権および専利権の帰属について約定がある場合、その約定に従います(専利法第6条第3項)。

出願手続

出願

中国に常駐住所または営業場所を持たない外国人、外国企業、その他外国組織が中国で専利を出願する場合(その他の専利事務を含む)、法に基づき設立された専利代理機構に委任しなければなりません(専利法第18条第1項)。

特許、実用新案の出願に必要な書類は下記の通りです(専利法第26条第1項)。

a.願書
b.特許請求の範囲
c.明細書
d.要約書
e.図面
f.委任状
g.優先権証明書(パリ条約に基づく優先権の主張がある場合)

上記a.~e.の書類は出願時に提出する必要があります。

意匠の出願に必要な書類は下記通りです(専利法第27条第1項)。

a.願書
b.意匠の図面または写真
c.意匠に対する簡略説明
d.委任状
e.優先権証明書(パリ条約に基づく優先権の主張がある場合)

上記a.~c.の書類は出願時に提出する必要があります。

審査

特許出願

特許出願は出願日(優先日)から3年以内に出願人によって行った審査請求に応じて実体審査が行われます(専利法第35条第1項)。

実用新案出願

実用新案出願は初歩的審査で拒絶理由がない場合、専利権が付与されます(専利法第40条)。

意匠出願

意匠出願は初歩的審査で拒絶理由がない場合、専利権が付与されます(専利法第40条)。
出願人は意匠出願について遅延審査を請求することができます(実施細則第56条第2項)。

不服審判

出願人は拒絶査定に不服がある場合、拒絶査定を受け取った日から3か月以内に専利復審委員会に不服審判を請求することができます(専利法第41条第1項)。
専利復審委員会の復審決定に不服がある場合、復審決定を受け取った日から3か月以内に人民法院に訴訟を提起することができます(専利法第41条第2項)。

専利権の付与

実体審査において特許出願に拒絶理由がない場合、国務院専利行政部門は特許権の付与を決定し、特許証書を発行し、同時に登録および公告します(専利法第39条)。

実用新案出願または意匠出願の初歩的審査において拒絶理由がない場合、国務院専利行政部門は実用新案権または意匠権の付与を決定し、実用新案または意匠の登録証書を交付し、登録および公告します(専利法第40条)。

存続期限

特許権

特許権の存続期限は20年であり、出願日から起算されます(専利法第42条第1項)。

特許出願の出願日から起算して満4年、かつ実体審査請求日から起算して満3年後に特許権が付与された場合、特許権者の請求に基づき、特許出願の権利付与プロセスにおける不合理的な遅延について特許権存続期限の補償が与えられます。ただし、出願人に起因する不合理な遅延は除外されます(専利法第42条第2項)。

新薬の発売承認審査に要した時間を補償するために、中国で発売許可を得られた新薬に関連する特許について、特許権者の請求に基づき特許権存続期限の補償が付与されます。補償期限は5年を超えないものとし、新薬発売承認後の特許権の合計存続期限は14年を超えないものとします(専利法第42条第3項)。

実用新案権

実用新案権の存続期限は10年であり、出願日から起算されます(専利法第42条第1項)。

意匠権

意匠権の存続期限は15年であり、出願日から起算されます(専利法第42条第1項)。

専利権の無効宣告(無効審判)

専利権が付与された後に、当該専利権が法律に規定された要件を満たしていない理由または証拠がある場合、何人も専利復審委員会に当該専利権の無効宣告を請求することができます(専利法第45条)。

専利復審委員会の無効審判決定に不服がある場合、決定を受け取った日から3か月以内に人民法院に訴訟を提起することができます。人民法院は無効審判の相手当事者に第三者として訴訟に参加する旨を通知しなければなりません(専利法第46条第2項)。

実務上のアドバイス

中国では、発明特許権が付与された後、日本のような訂正審判や異議申立に相当する制度が存在せず、これらの手続きは無効審判に一本化されています。そのため、特許権に無効理由が含まれていると考える場合や、特許請求の範囲を修正する必要がある場合は、無効審判の手続きを通じて対応する必要があります。

権利侵害行為

専利権が付与された後、いかなる者も専利権者の許諾を受けずにその専利を実施してはなりません。
発明および実用新案に係る専利の「実施」とは、生産経営を目的として以下の行為を行うことを指します(専利法第11条1項):

  • 当該専利製品を製造、使用、販売の申出、販売、輸入をする行為
  • 当該専利方法を使用する行為
  • 当該専利方法により直接得られた製品を使用、販売の申出、販売、輸入する行為

また、意匠に係る専利の「実施」とは、生産経営を目的として以下の行為を行うことを指します(専利法第11条2項):

  • 当該意匠専利製品を製造、販売の申出、販売、輸入をする行為

実務上のアドバイス

  1. 意匠専利製品を使用する行為は専利法に基づく侵害行為に該当しません。
  2. 専利製品の輸出を差し止める法的根拠は専利法には規定されていません。ただし、税関保護条例に基づき、知的財産権を侵害する貨物の輸出入が禁止されています(税関保護条例第3条)。

間接侵害

専利法には間接侵害に関する規定が存在しません。しかし、ある実施行為が専利製品または専利方法を直接侵害する行為に該当しない場合でも、その実施行為が他人にその専利権の実施を教唆または誘導する行為に該当する場合、この行為に対して侵害責任を追及しなければ、専利権者に十分な保護を与えることはできません。

このため、最高人民法院は2016年に「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(以下「司法解釈〔2016〕1号」と称する)を公布しました。同司法解釈では、権利侵害責任法第9条の規定「他人に権利侵害行為の実施を教唆または助けた場合、行為者は連帯して責任を負わなければならない」を間接侵害責任の法的根拠として位置付けています。

「司法解釈20161号」第21条

  • 製品が専ら専利の実施に用いられる材料、設備、部品、中間物などであることを明らかに知っているにもかかわらず、専利権者の許諾を得ずに、生産経営の目的で当該製品を第三者に提供して専利権侵害行為を実施させ、その提供者の行為が権利侵害責任法第9条に定められた、他人に権利侵害行為の実施を助けた行為に該当すると権利者が主張した場合、人民法院はその主張を支持すべきである。
  • 製品、方法に専利権が付与されたことを明らかに知っているにもかかわらず、専利権者の許諾を得ずに、生産経営の目的で他人に専利権侵害行為の実施を積極的に誘導し、その誘導者の行為が権利侵害責任法第9条に定められた、他人に権利侵害行為の実施を教唆する行為に該当すると権利者が主張した場合、人民法院はその主張を支持すべきである。

権利行使

専利権者は、権利を行使する際に、専利業務管理部門に処理を求める行政ルートと、人民法院に提訴する司法ルートとを選択することができます(専利法第65条)。

行政ルートでは、専利業務管理部門が侵害者に対し侵害行為の差し止めを命じる権限を有していますが、損害賠償については調停する権限しか持ちません。行政ルートのメリットとして、結論が迅速に得られ、手続費用が低い点が挙げられます。しかし、損害賠償を請求したい場合、専利業務管理部門には調停権限しかなく命令する権限がないため、人民法院に提訴する司法ルートを選択することが推奨されます。

司法ルートとは人民法院に提訴することを指します。
中国の裁判制度では「四級二審制」が採用されています。この制度は四つの等級に分かれた人民法院と第二審が最終審となる仕組みを意味します。
知的財産権に関する裁判管轄は中国司法制度の特色とも言える「司法解釈」に基づいて定められています。その概要は以下の通りです。

1. 技術的専門性の高い特許権と実用新案権等の侵害訴訟

第一審(司法解釈〔2022〕13号)
・知識産権法院(北京、上海、広州)
・各省・自治区・直轄市の人民政府所在地の中級人民法院
・最高人民法院が指定した中級人民法院

第二審(上訴審)(司法解釈〔2023〕10号)

特許権、重大かつ複雑な実用新案権 
・最高人民法院知識産権法廷

一般的な実用新案権
・それぞれの人民法院の上訴管轄人民法院

2. 意匠権等の侵害訴訟

第一審(司法解釈〔2022〕13号)
・知識産権法院(北京、上海、広州)
・中級人民法院

第二審(上訴審):
それぞれの人民法院の上訴管轄人民法院

土地管轄:

土地管轄については、被告の所在地または侵害行為の地の人民法院が管轄します。

1.侵害行為の地には以下が含まれます。
・侵害行為の発生地
・侵害結果の発生地

2.複数の人民法院が管轄権を有する場合
・原告はいずれか一つの人民法院に提訴することができます。

3.複数の被告が存在する場合
・原告は、いずれか一つの被告の所在地または侵害行為の地の人民法院を選択して提訴することができます。

4.被疑侵害品の製造者および販売者を共同被告として侵害訴訟を提起する場合
・原告は、販売地の人民法院に提訴することができます。

実務上のアドバイス

地方保護主義を回避するため、製造メーカの所在地での提訴は避け、侵害行為の地(販売地)での提訴を検討する訴訟戦略が有効と考えられます。